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第五十話 「気付かない想い」

50話到達!!

一輝が去った後。


校門前の騒ぎはようやく収まった。


だが。


周囲の生徒達の視線はしばらく消えなかった。


婚約者。


漢江会。


桐生院家。


様々な噂が飛び交っている。


紫雲は居心地が悪そうだった。


「帰りますわよ」


真昼が言う。


「え?」


「送ります」


当然のような口調だった。


紫雲は目を瞬かせる。


「大丈夫ですよ」


「大丈夫ではないでしょう」


即答だった。


「顔色が良くありませんわ」


紫雲は思わず笑ってしまう。


やはりこの人には敵わない。


「では途中まで」


「ええ」


二人は並んで歩き始めた。


夕暮れ。


長い影が伸びている。


しばらく無言だった。


だが不思議と気まずくはない。


むしろ心地良い。


「真昼さん」


紫雲が口を開く。


「何ですの」


「ありがとうございました」


真昼は首を傾げる。


「何がですの?」


本気で分かっていない。


紫雲は苦笑した。


「今日のことです」


「友人ですので」


真昼は当然のように答える。


その一言が。


紫雲には嬉しかった。


少しだけ苦しかった。


友人。


今の関係を表すには正しい言葉。


けれど。


自分が望む言葉ではない。


「そうですね」


紫雲は笑った。


少しだけ寂しそうに。


真昼は気付かない。


気付けない。


人の心が分からないのだから。


駅前に着く。


別れの時間だった。


「ではまた明日」


「ええ」


紫雲は改札へ向かう。


その背中を真昼は見送る。


見えなくなるまで。


何故か。


目を離せなかった。


「……」


胸の奥が妙に落ち着かない。


理由は分からない。


考えても答えは出ない。


結局。


そのまま帰路についた。


その日の夜。


寮。


自室。


真昼は机へ向かっていた。


目の前にはスケッチブック。


何気なく開く。


そこには最近描いた絵が並んでいた。


花。


風景。


学院。


そして。


紫雲。


紫雲。


紫雲。


紫雲。


気付けばほとんどが彼女だった。


真昼は黙る。


数秒。


そして首を傾げた。


「何故でしょう」


本当に分からない。


描こうと思った訳ではない。


だが。


気付けば描いている。


真昼は一枚の絵を手に取る。


文化祭の日。


笑う紫雲。


我ながら良く描けていた。


「……」


しばらく見つめる。


そして。


無意識に口元が少し緩んだ。


本人は気付かない。


その頃。


漢江会本部。


一輝はソファに寝転がっていた。


「坊ちゃん」


部下が声を掛ける。


「何だ」


「本当にあれで良かったんですか?」


一輝は天井を見る。


数秒。


そして笑った。


「良かったさ」


「だが」


目を細める。


「気に入らねぇ」


部下は黙る。


理由は聞かない。


聞いても答えないからだ。


一輝は今日の光景を思い出す。


友人ですわ。


真昼の言葉。


紫雲を見る目。


守ろうとする態度。


その全てが。


妙に引っ掛かっていた。


「面白ぇな」


小さく呟く。


だが。


その笑みは少しずつ危うさを増していた。


そして。


誰もまだ知らない。


この婚約話が。


やがて天女学院全体を巻き込む大事件へと繋がることを。

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