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第四十九話 「友人」

校門前。


重い沈黙が流れていた。


黒塗りの車。


その傍らには桐生院一輝。


そして。


佐倉紫雲。


周囲の生徒達も事態を察し始めていた。


「婚約者って……」


「桐生院先輩だったの?」


「漢江会の……?」


ざわめきが広がる。


しかし。


当事者達は誰も気にしていなかった。


真昼は一輝を見つめる。


一輝は笑っている。


だが。


その視線は紫雲ではない。


最初から真昼だけを見ていた。


「本当に」


真昼が静かに言う。


「紫雲が望んでいることなのですか?」


一輝は少しだけ目を細めた。


そして。


「さぁな」


肩をすくめる。


「俺は別にどっちでもいい」


その言葉に。


紫雲の表情が曇る。


真昼の眉が僅かに動いた。


「どっちでも?」


「親が決めた話だからな」


一輝は笑う。


「受けろと言われた」


「だから受けた」


「それだけだ」


淡々としていた。


まるで他人事のように。


紫雲は唇を噛む。


それが余計に苦しかった。


自分だけが悩んでいるようで。


自分だけが苦しんでいるようで。


「なら」


真昼が口を開く。


「断れば良いでしょう」


周囲が固まる。


一輝ですら少し驚いた顔をした。


「は?」


「嫌なら断る」


「それだけですわ」


真昼は本気だった。


だからこそ。


常識が通じない。


一輝は数秒黙る。


そして。


堪えきれず笑った。


「ははっ」


肩を震わせる。


「相変わらずだな、お前」


本当に面白い。


だから困る。


「笑い事ではありませんわ」


「そうか?」


「そうです」


即答だった。


一輝はしばらく真昼を見つめる。


その視線に。


乃亜が嫌な顔をした。


茜も落ち着かない。


赤城がいたら頭を抱えていただろう。


「なぁ真昼」


一輝が呼ぶ。


「何ですの」


「お前さ」


笑う。


楽しそうに。


「紫雲のこと好きなのか?」


空気が止まった。


乃亜が固まる。


茜が固まる。


紫雲は真っ赤になる。


真昼だけが首を傾げた。


「好き?」


「そうだ」


「どうなんだ?」


真昼は考える。


数秒。


十秒。


さらに数秒。


全員が答えを待つ。


そして。


「友人ですわ」


即答だった。


紫雲が少しだけ俯く。


期待していなかった。


それでも。


少しだけ。


残念だった。


一輝はその様子を見ていた。


そして。


また笑った。


「なるほどな」


面白い。


本当に。


面白い。


「今日は帰る」


一輝は踵を返した。


「一輝さん?」


紫雲が驚く。


「用は済んだ」


そう言って車へ向かう。


そして乗り込む直前。


真昼へ振り返った。


「またな」


短く言う。


真昼は答える。


「ええ」


一輝は笑った。


その笑顔だけで。


部下達は嫌な予感しかしなかった。


黒塗りの車が走り去る。


静寂が戻る。


紫雲は小さく息を吐いた。


緊張が解けたのだろう。


真昼はそんな紫雲を見る。


そして。


「大丈夫ですの?」


と聞いた。


紫雲は少しだけ笑う。


「はい」


嘘だった。


だが。


今はそれで良かった。


真昼はまだ知らない。


一輝が帰った理由を。


そして一輝もまた。


気付き始めていた。


自分が真昼という存在に。


想像以上に執着していることを。

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