第五話 「友達」
放課後。
夕焼けが教室を赤く染めていた。
生徒達が次々と帰っていく中、五条真昼は一人、窓際の席へ座っていた。
手にはスケッチブック。
鉛筆が静かに走る。
さらさら、と小さな音だけが教室に響いていた。
真昼の表情は穏やかだった。
学院で見せる完璧なお嬢様の顔でもない。
極道の若頭の顔でもない。
ただ静かに、絵を描いていた。
その時。
「やっぱり」
柔らかな声。
真昼が顔を上げる。
教室の扉の前に、佐倉紫雲が立っていた。
「残っていらしたんですね」
真昼はスケッチブックを閉じる。
「……何故ここに」
「忘れ物を取りに来たんです」
紫雲はゆっくり教室へ入ってくる。
そして真昼の机を見る。
「絵、お好きなんですね」
「少々」
「見ても?」
「断りますわ」
即答だった。
紫雲は少し驚いた後、くすりと笑う。
「秘密主義なんですね」
「見せるほどのものではありません」
「でも、描いている時の月夜さん」
紫雲は真昼を見つめる。
「少しだけ、安心した顔をしています」
真昼の手が止まった。
その言葉は。
妙に胸へ残った。
真昼は視線を逸らす。
「……そう見えますか」
「はい」
紫雲は隣の席へ座った。
静かな沈黙。
だが、不思議と嫌ではない。
真昼は再び鉛筆を動かし始める。
紫雲はそれを静かに眺めていた。
しばらくして。
「月夜さん」
「何でしょう」
「いえ……真昼さん、と呼んでも?」
鉛筆が止まる。
真昼は紫雲を見る。
「……何故です」
「その方が、貴方らしい気がするので」
「らしい、ですか」
「はい」
真昼は少しだけ考え込む。
“真昼”。
その名前を学院で呼ばれることに、まだ慣れない。
だが。
何故か紫雲に呼ばれると、不快ではなかった。
「……好きにしてください」
「はい、真昼さん」
紫雲は嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見た瞬間。
真昼の胸が、少しだけ騒いだ。
理由は分からない。
敵意ではない。
恐怖でもない。
戦場で感じるものとは、全く違う感覚。
真昼は小さく眉を寄せた。
「……妙ですわ」
「何がです?」
「貴女といると、調子が狂います」
紫雲は目を丸くした後、優しく笑った。
「それ、多分悪いことじゃないですよ」
真昼には、その意味が分からなかった。
その時だった。
ガラリ、と教室の扉が勢いよく開く。
「真昼ー! 帰るよー!」
柊乃亜だった。
だが。
乃亜は教室の空気を見て固まる。
夕焼け。
二人きり。
静かな距離感。
「……え、なにこれ」
真昼は首を傾げる。
「何がですの?」
乃亜は真顔になった。
「もう付き合ってる?」




