第四話 「秘密」
昼休み。
天女学院の中庭は、春の日差しに包まれていた。
噴水の音。
風に揺れる桜。
まるで絵画のような光景。
その中で、五条真昼は静かに紅茶を飲んでいた。
周囲には女子生徒達。
「月夜様って本当に綺麗ですよね……」
「お肌白い……」
「髪触ってみたい……」
囲まれている。
完全に。
真昼は表情こそ崩していないが、内心かなり疲弊していた。
「月夜様は前の学校では何をされていたんですか?」
「読書ですわ」
嘘ではない。
本も読んでいた。
刀の手入れをしながら。
「趣味はありますの?」
「絵を少々」
「えっ! 見たいです!」
「わたくしも!」
近い。
声が大きい。
何故こんなにも距離を詰めるのか理解できない。
真昼が僅かに身を引いた時だった。
「皆さん」
柔らかな声が響く。
佐倉紫雲が、にこりと笑って立っていた。
「月夜さん、困っていらっしゃいますよ?」
「あっ……」
女子達が慌てて離れる。
「ご、ごめんなさい月夜様!」
「騒ぎすぎました……!」
真昼は静かに息を吐いた。
「……助かりましたわ」
「ふふっ」
紫雲は真昼の隣へ座る。
その距離が自然に近い。
真昼は少しだけ視線を向けた。
「貴女は騒がしくないのですね」
「騒がしいのは苦手ですから」
「そうですか」
会話が途切れる。
だが、不思議と気まずくない。
風が吹く。
紫雲の長い髪が揺れた。
その時。
紫雲の視線が、真昼の手へ落ちた。
正確には。
指。
そこに残る、細かな刀ダコ。
昨日から気付いていた。
お嬢様には有り得ない手。
紫雲は小さく目を細める。
「……月夜さん」
「何でしょう」
「貴女、変わっていますね」
「よく言われますわ」
「いえ、そういう意味ではなく」
紫雲は少し迷うように視線を揺らした。
そして。
「男の方みたいです」
空気が止まった。
真昼の瞳が細くなる。
殺気。
ほんの一瞬。
だが確かに空気が冷えた。
紫雲は息を呑む。
真昼は静かに紅茶を置いた。
「……何故、そう思いましたの?」
声は穏やか。
だが。
極道として生きてきた者だけが持つ圧があった。
紫雲は小さく笑う。
「勘、です」
「勘でそのようなことを?」
「はい」
「変な方ですね」
そう返しながらも、真昼は紫雲を見ていた。
普通なら怯える。
だが紫雲は逃げない。
怖がらない。
ただ静かに真昼を見つめ返していた。
しばらく沈黙が流れる。
やがて。
真昼は小さく息を吐いた。
「……誰にも言わないでいただけますか」
紫雲は目を丸くした。
それはつまり。
肯定だった。
「本当に……?」
「ええ」
紫雲は驚いたように真昼を見る。
そして次の瞬間。
何故か少し嬉しそうに笑った。
「秘密、ですね」
「……ええ」
「では、お友達になってください」
真昼は初めて意味が分からないという顔をした。
「何故そうなるのです」
「秘密を共有する人とは、お友達になるものでしょう?」
「初めて聞きましたわ」
紫雲はくすくす笑う。
真昼は少しだけ困ったように目を伏せた。
この少女は、本当に理解不能だった。




