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第三話 「隣の席の少女」

「――以上でホームルームを終わる」


気怠げな声と共に、担任教師が教卓へ突っ伏した。


宮里蘭。


三年B組担任。


美人ではある。


だがやる気が壊滅的だった。


「あと転入生ー。困ったら適当に誰か頼れー」


適当すぎる。


クラス中が苦笑していた。


真昼は静かに席へ座る。


窓側、一番後ろ。


その隣。


ふわり、と甘い香りがした。


「……よろしくお願いしますね」


柔らかな声。


真昼が視線を向ける。


長い黒髪。


上品な微笑み。


どこか儚げな空気を纏った少女。


佐倉紫雲。


「私は佐倉紫雲と申します」


真昼は静かに頭を下げた。


「月夜真昼ですわ」


「はい。存じています」


「……そうなのですか?」


「先程から廊下でずっと噂になっていましたから」


紫雲は口元を隠し、小さく笑う。


真昼は少し眉を寄せた。


「噂とは、そんなに楽しいものなのですか」


「女の子は好きなんですよ。そういうお話」


「理解できませんわ」


「ふふっ」


笑われた。


真昼は小さく目を細める。


この少女。


妙に自然体だ。


距離感がおかしい。


警戒心が薄いというか。


まるで最初から知り合いだったように話してくる。


すると紫雲は真昼を見つめたまま、ぽつりと言った。


「綺麗ですね」


「……何がですの?」


「髪も、お顔も。お人形さんみたいです」


「…………」


真昼は黙る。


こういう言葉に慣れていない。


何を返すのが正解なのか分からない。


紫雲は不思議そうに首を傾げた。


「月夜さん?」


「……そういうことを軽々しく言わないでくださいませ」


「何故です?」


「困りますわ」


紫雲はきょとんとした後、くすりと笑った。


「変な方」


その笑い方は、とても自然だった。


作った笑顔ではない。


真昼は何故か少しだけ落ち着かなくなる。


その時。


ガラリ、と教室の扉が開いた。


「紫雲様ー! 一緒にお昼食べませんかー?」


女子達が集まってくる。


どうやら紫雲はかなり人気者らしい。


だが紫雲は困ったように微笑んだ。


「ごめんなさい。今日は少し予定が……」


「えー?」


「もしかして転入生さんと?」


女子達の視線が真昼へ集まる。


真昼は静かに教科書を閉じた。


「……わたくしは構いませんわ」


その瞬間。


「きゃー!」


歓声が上がった。


「月夜様とお昼!?」


「いいなぁ!」


「近くで見たい……!」


囲まれる。


近い。


うるさい。


香水が強い。


真昼の眉間に皺が寄った。


完全に困っていた。


それを見た紫雲が、くすりと笑う。


「月夜さん」


「……何でしょう」


「助けて差し上げましょうか?」


真昼は少しだけ黙り込み。


「……お願いしますわ」


と、小さく呟いた。


紫雲は楽しそうに目を細めた。


その時だった。


教室後方。


数人の女子達がひそひそ話していた。


「ねぇ……月夜様ってさ」


「うん」


「なんかちょっと……」


その視線の先。


真昼の指。


細かな刀ダコが残っていた。

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