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第二話 「月夜様」

春の朝。


桜が舞っていた。


巨大な門の前で、五条真昼は静かに立っている。


天女学院。


名家、財閥、政治家。


“本物のお嬢様”だけが通う学園。


真昼は校門を見上げ、小さく呟いた。


「……無駄にデカいな」


「初日から俺口調やめなさいって!」


隣で騒いでいるのは、柊乃亜だった。


乃亜は真昼のネクタイを乱暴に直す。


「ほら! 背筋! 口調! お嬢様!」


「面倒だ」


「その顔で低い声出すと怖いんだってば!」


真昼は小さく溜息を吐いた。


今日は制服姿だった。


白を基調とした気品あるブレザー。


黒髪の和風ボブと異様に似合っている。


そのせいで。


校門を通る女子生徒達が、次々と立ち止まり始めた。


「えっ……誰……?」


「綺麗……」


「三年生……?」


「モデルさん……?」


ひそひそ声。


視線。


真昼は眉を寄せた。


「見られているな」


「そりゃ見るよ」


乃亜は呆れたように笑う。


「真昼、自分の顔の強さ理解してないでしょ」


「顔に強い弱いがあるのか?」


「あるの!」


その時だった。


「あの……!」


声をかけられる。


振り返ると、一年生らしき女子が顔を赤くして立っていた。


「え、えっと……お名前を聞いても……」


真昼は数秒黙る。


危うく“五条真昼”と言いそうになった。


すると乃亜が横から脇腹をつつく。


真昼は静かに口を開いた。


「……月夜真昼ですわ」


一瞬。


空気が止まる。


女子生徒の顔が真っ赤になった。


「つ、月夜様……!」


「え?」


「素敵ですっ!」


何故か拝まれた。


真昼は困惑する。


「……何故、拝む」


「だから言ったじゃん……」


乃亜が笑いを堪えて肩を震わせていた。


そのまま二人は校舎へ向かう。


だが。


廊下へ入った瞬間。


空気が変わった。


視線が集まる。


ざわめきが広がる。


「誰あれ……」


「綺麗……」


「転入生……?」


真昼は居心地悪そうに眉を寄せた。


戦場で千人に囲まれるより落ち着かない。


すると。


廊下の奥から、一人の少女が歩いてくる。


赤い髪。


鋭い目。


堂々とした空気。


周囲の生徒達が道を開けた。


「生徒会長……」


小さな声が漏れる。


桐生院赤城。


彼女は真昼の前で立ち止まる。


数秒。


視線がぶつかった。


真昼は静かに頭を下げる。


「ごきげんよう」


赤城は少し目を細めた。


「……貴女が転入生?」


「ええ」


「月夜真昼と申しますわ」


赤城はじっと真昼を見る。


まるで何かを見抜くように。


真昼もまた、赤城を見ていた。


隙がない。


立ち方。


視線。


呼吸。


ただのお嬢様ではない。


その瞬間。


赤城が口を開く。


「気をつけなさい」


「?」


「この学院、貴女みたいな目立つ人はすぐ噂になるわ」


真昼は少し考え、


「問題ありませんわ」


と返した。


赤城は鼻で笑う。


「……面白い人ね」


そう言って去っていく。


残された真昼は小さく呟いた。


「強いな」


乃亜が吹き出した。


「いや戦闘力測るなって!」

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