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第四十七話 「すれ違い」

数日後。


昼休み。


いつもの中庭。


だが。


紫雲の姿はなかった。


「紫雲は?」


真昼が尋ねる。


乃亜と茜が顔を見合わせる。


「今日は家の用事らしいよ」


乃亜が答えた。


「そうですか」


真昼は茶を飲む。


それだけ。


それだけのはずだった。


だが。


何故か落ち着かなかった。


「真昼」


乃亜がニヤニヤする。


「寂しい?」


「何がですの」


「紫雲がいなくて」


「別に」


即答だった。


乃亜と茜は顔を見合わせる。


嘘だ。


二人ともそう思った。


本人だけが気付いていない。


放課後。


教室。


紫雲の席は空席のままだった。


真昼は窓の外を見る。


空は曇っている。


何となく気分も重かった。


その時。


スマホが震えた。


珍しい。


送信者を見る。


紫雲だった。


『今日はお休みしてしまってすみません』


短い文章。


だが。


真昼は少しだけ安心した。


『気にしなくて結構ですわ』


送る。


数秒後。


返事が来る。


『ありがとうございます』


そこで会話は終わった。


普通なら。


だが。


真昼は画面を見たまま動かない。


何か言うべきか。


分からない。


結局。


そのままスマホを閉じた。


夜。


紫雲の屋敷。


広い部屋。


豪華な家具。


しかし。


紫雲の表情は暗い。


机の上には婚約に関する書類。


見たくもない。


だが。


現実だった。


「……」


スマホを見る。


真昼とのやり取り。


たった数行。


それでも。


少しだけ気持ちが軽くなる。


不思議だった。


コンコン。


部屋の扉が叩かれる。


「失礼します」


使用人だった。


「お嬢様」


「何でしょう」


「旦那様がお呼びです」


紫雲の表情が曇る。


理由は分かっていた。


婚約の話だ。


逃げられない。


紫雲は立ち上がる。


重い足取りだった。


同じ頃。


寮。


真昼は窓際に立っていた。


夜風が入る。


静かだった。


机の上には描きかけの絵。


また紫雲だった。


真昼はそれを見下ろす。


そして。


小さく呟く。


「元気がありませんでしたわね」


誰に聞かせるでもない。


ただの独り言。


理由は分からない。


だが。


紫雲が落ち込んでいるのを見ると。


胸の奥が妙にざわついた。


その感覚を。


真昼はまだ知らない。


漢江会本部。


桐生院一輝は資料を閉じた。


「坊ちゃん」


部下が声を掛ける。


「日取りが決まりました」


一輝は笑う。


「そうか」


短い返事。


だが。


その目は獲物を見つけた獣のようだった。


「面白くなってきたな」


静かな部屋に。


その笑い声だけが響いた。

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