第四十四話 「違和感」
休日デートの翌週。
天女学院の朝はいつも通りだった。
だが。
少しだけ空気が違う。
中庭。
いつもの四人。
乃亜は購買のパン。
茜はおにぎり。
紫雲は弁当。
真昼は茶。
「最近さ」
乃亜がパンをかじりながら言う。
「紫雲と真昼、距離近くない?」
紫雲がむせる。
真昼は普通だった。
「気のせいですわ」
即答。
「気のせいじゃないと思うんだけど」
茜が静かに言う。
紫雲は視線を逸らす。
真昼は気付かない。
「デートしてたでしょ」
乃亜が追撃する。
「違いますわ」
「出掛けただけです」
「それをデートって言うんだよ!」
また始まった。
その時だった。
紫雲のスマホが鳴る。
画面を見た瞬間。
空気が少し変わる。
真昼が気付く。
「どうしましたの」
紫雲は少し迷う。
だが。
隠せない。
「父からです」
場所。
生徒会室。
桐生院赤城は書類を閉じる。
「やっぱり来たわね」
対面には紫雲。
そして真昼。
「婚約の件ですか」
紫雲の声は少し震えていた。
赤城は頷く。
「正式に話が進んでる」
空気が重くなる。
真昼は黙っている。
しかし。
視線だけは紫雲に向いていた。
その変化に赤城は気付く。
「貴方、分かってる?」
真昼は答えない。
紫雲は俯く。
「断れません」
小さな声だった。
「家のためですから」
真昼の手が止まる。
ほんの一瞬。
赤城が続ける。
「相手は漢江会系」
「向こうは既に準備してる」
「逃げ場は少ない」
静寂。
その中で。
真昼がようやく口を開く。
「場所は」
赤城が一瞬固まる。
「は?」
「いつ、どこで決まりますの」
紫雲が顔を上げる。
真昼は続ける。
「邪魔なら」
「排除すればいいだけですわ」
空気が凍る。
赤城が頭を抱える。
「だからそういう話じゃないの!」
紫雲が慌てて首を振る。
「真昼さん、違います」
「これは……私の問題で」
真昼は少しだけ黙る。
そして。
「そうですか」
一言だけ。
だがその目は。
いつもと違っていた。
その日の放課後。
廊下。
乃亜が真昼に声をかける。
「今日さ」
「紫雲ちょっと変じゃなかった?」
真昼は歩きながら答える。
「知りませんわ」
だが。
足は少しだけ速かった。
屋上。
紫雲は一人で立っていた。
風が強い。
空が暗い。
「どうして……」
小さく呟く。
その時。
背後から声。
「ここにいましたの」
紫雲は振り返る。
真昼だった。
紫雲は驚く。
「真昼さん……?」
真昼は少し間を置く。
そして。
「一緒に帰りますわよ」
それだけ言った。
紫雲は少しだけ笑う。
だがその笑顔は。
いつもより少しだけ弱かった。




