第四十三話 「休日の約束」
雨の日から数日後。
土曜日。
天女学院は休みだった。
真昼は寮の自室で朝茶を飲んでいた。
静かな朝。
悪くない。
そう思っていた。
コンコン。
扉が叩かれる。
嫌な予感がした。
「開いていますわ」
扉が開く。
案の定だった。
乃亜である。
「おはよー!」
元気だった。
朝からうるさい。
「何の用ですの」
「今日デートだろ?」
真昼が固まる。
「違いますわ」
即答。
「じゃあ何?」
「出掛けるだけです」
「それを世間ではデートと言う」
違った。
真昼の中では。
午前九時。
約束の時間は十時。
場所は駅前。
相手は紫雲。
つまり先日の約束だった。
「ちゃんとお洒落しろよー」
「普段通りですが」
「駄目だこりゃ」
乃亜が頭を抱える。
結局。
十分ほど説教された。
真昼は理解していない。
乃亜も途中で諦めた。
午前十時。
駅前。
真昼は予定通り到着する。
数分後。
「お待たせしました」
紫雲が現れた。
白いワンピース。
上品な帽子。
普段の制服とは違う雰囲気。
思わず周囲が振り返るほどだった。
「お待たせしましたか?」
紫雲が聞く。
「いえ」
真昼は答える。
そして少し考えた後。
「似合っていますわ」
素直に言った。
紫雲が固まる。
顔が赤くなる。
真昼は理由が分からない。
本当に似合っていたから言っただけだった。
「ありがとうございます」
紫雲は小さく笑う。
それだけで今日は来て良かったと思えた。
二人は街を歩き始める。
目的地は特に無い。
買い物。
散策。
ただ一緒に過ごすだけ。
そんな休日だった。
本屋。
紫雲は新刊コーナーで足を止める。
真昼は歴史書の棚を眺める。
「真昼さんは小説は読まないんですか?」
「読みますわ」
「何を?」
「兵法書」
紫雲が固まる。
「兵法書?」
「はい」
真昼は真顔だった。
「面白いですわよ」
紫雲は少し笑う。
本屋を出て喫茶店へ。
紅茶と抹茶。
窓際の席。
落ち着いた時間。
隣の女子達の声が聞こえる。
「絶対付き合ってるよねあれ」
紫雲がむせる。
真昼は気付かない。
公園。
ボールが飛んでくる。
真昼が片手で取る。
子供に返す。
「次は気を付けなさい」
紫雲が驚く。
「優しいんですね」
真昼は首を傾げる。
「普通ですわ」
夕方。
別れの時間。
駅前。
「今日はありがとうございました」
紫雲が頭を下げる。
「こちらこそ」
真昼も返す。
少し間。
「楽しかったですわ」
紫雲が目を見開く。
真昼は続ける。
「紫雲とですので」
紫雲の顔が赤くなる。
そして笑う。
「私もです」
自然な空気。
二人は別れる。
その様子を遠くから見ていた黒塗りの車。
桐生院一輝は静かに笑っていた。
「やっぱ面白ぇな」
まだ誰も知らない。
この関係が。
後に大きく崩れることを。




