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第四十二話 「相合傘」

結局。


紫雲は真昼に送られることになった。


理由は簡単。


雷だった。


校門を出ようとした瞬間。


再び空が光り。


紫雲が硬直したのである。


「……」


「……」


「……」


乃亜と茜が生暖かい目で見ていた。


紫雲は顔が赤い。


真昼は何も分かっていない。


「では行きますわ」


「はい……」


校門前。


雨は相変わらず強い。


真昼は鞄から折り畳み傘を取り出した。


紫雲が目を丸くする。


「持っていたんですか?」


「寮に置いてあった予備ですわ」


「昼は持ってないって」


「持っていませんでした」


真昼は真顔だった。


乃亜が頭を抱えた。


二人は並んで歩き出す。


傘は一本。


当然距離が近い。


肩が触れそうになる。


紫雲は緊張していた。


だが。


真昼は普通だった。


本当に普通だった。


「雷は昔から苦手なんですの?」


真昼が聞く。


「小さい頃に大きな雷を見たことがあって……」


紫雲が苦笑する。


「それから少し」


「なるほど」


真昼は納得する。


沈黙。


雨音だけが聞こえる。


だが。


不思議と居心地は悪くなかった。


むしろ。


心地良い。


そんな空気だった。


しばらく歩いた時。


強い風が吹いた。


傘が揺れる。


紫雲が少しよろめいた。


真昼が自然に肩を支える。


「大丈夫ですか」


「だ、大丈夫です」


紫雲の顔が赤い。


真昼は気付かない。


その頃。


少し離れた場所。


黒塗りの車。


「……」


後部座席。


桐生院一輝が窓の外を見ていた。


偶然だった。


本当に偶然。


だが。


そこには。


相合傘をして歩く真昼と紫雲。


一輝は数秒黙る。


部下も黙る。


やがて。


「へぇ」


一輝が笑った。


危険な笑みだった。


「坊ちゃん?」


「いや」


一輝は窓へ肘をつく。


「面白ぇなと思ってな」


視線は二人へ向いていた。


「追いますか?」


部下が聞く。


「やめとけ」


一輝は首を振る。


「今日はな」


その言葉に部下は安心した。


少なくとも今日は。


紫雲の家が近付く。


大きな門。


立派な屋敷。


いかにも財閥令嬢の家だった。


「送っていただいてありがとうございました」


紫雲が頭を下げる。


「気にしなくて結構ですわ」


真昼はそう答える。


そして。


帰ろうとした。


「あの」


紫雲が呼び止める。


真昼が振り返る。


紫雲は少し迷う。


だが。


勇気を出した。


「今度」


「?」


「また一緒に出掛けませんか?」


言ってしまった。


顔が熱い。


逃げ出したいくらいに。


真昼は少し考える。


数秒。


そして。


「構いませんわ」


即答だった。


紫雲の顔が明るくなる。


真昼は理由が分からない。


ただ。


嬉しそうだから良いかと思った。


紫雲は屋敷へ入っていく。


真昼はその背中を見送る。


そして。


再び歩き出した。


雨はまだ降っていた。


だが。


何故か少しだけ。


足取りは軽かった。


その頃。


紫雲の屋敷の向かい側。


停車した黒塗りの車の中で。


桐生院一輝だけが。


静かに笑っていた。

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