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第三十八話 「学院祭」

学院祭当日。


朝から天女学院は大勢の来場者で賑わっていた。


保護者。


卒業生。


近隣住民。


様々な人が校内を歩いている。


普段は静かな学院も今日だけは別世界だった。


⸻


「人が多すぎますわ……」


開始から三十分。


五条真昼は既に疲れていた。


人混みが苦手なのである。


「まだ始まったばっかりだよ?」


柊乃亜が笑う。


「帰りたいですわ」


「却下」


即答だった。


⸻


クラスの出し物を一通り回った後。


一行は展示棟へ向かう。


目的はもちろん。


美術展示会。


「ついにですね」


佐倉紫雲の声は少し弾んでいた。


真昼は嫌な予感しかしない。


⸻


展示会場。


既に多くの来場者が集まっていた。


壁一面に並ぶ作品。


風景画。


人物画。


水彩画。


様々な作品が飾られている。


そして。


会場中央。


一枚の絵の前だけ人だかりが出来ていた。


「え?」


乃亜が目を丸くする。


「何あれ」


人混みを掻き分けて進む。


そして。


全員が止まった。


そこに飾られていたのは。


真昼の絵だった。


⸻


夕暮れの中庭。


優しく吹く風。


そして。


一人の少女。


長い黒髪を揺らしながら空を見上げる姿。


誰が見ても分かった。


紫雲だった。


だが。


ただ似ているだけではない。


絵の中の紫雲は。


本人以上に綺麗だった。


見る者の視線を奪うほどに。


⸻


「うわぁ……」


乃亜が思わず声を漏らす。


茜も見入っていた。


紫雲は言葉を失う。


そこに描かれているのは確かに自分だ。


だが。


自分が知る自分より。


ずっと優しく。


ずっと美しく描かれていた。


⸻


周囲から声が聞こえる。


「すごい……」


「プロみたい」


「誰が描いたの?」


「この人絶対好きなんじゃない?」


最後の声に。


紫雲の肩が跳ねた。


真昼は聞こえないふりをした。


⸻


乃亜がゆっくり真昼を見る。


「真昼」


「何ですの」


「言い訳ある?」


「ありませんが」


即答だった。


乃亜は爆笑した。


⸻


紫雲は絵から目を離せなかった。


どうして。


ここまで綺麗に描けるのか。


どうして。


こんな表情を知っているのか。


胸が少し苦しくなる。


そんな時だった。


「やっぱりお前か」


聞き覚えのある声。


空気が変わる。


⸻


人混みの向こう。


黒いスーツ姿の青年が立っていた。


桐生院一輝である。


周囲の生徒達がざわつく。


一輝は展示された絵を見る。


数秒。


そして笑った。


「綺麗じゃねぇか」


真昼は無言。


一輝はさらに近付く。


「意外だな」


「何がですの」


「もっと血生臭いもん描くと思ってた」


真昼の眉が僅かに動く。


意味が分からない。


乃亜達はもっと分からない。


⸻


一輝は絵を見る。


そして。


紫雲を見る。


最後に真昼を見る。


口元が吊り上がった。


「なるほどな」


何かを理解したようだった。


だが。


それ以上は言わない。


⸻


「坊ちゃん」


後ろの黒服が声を掛ける。


一輝は肩を竦めた。


「じゃあな」


そう言って去っていく。


だが。


途中で足を止める。


振り返ることなく。


「展示会でこれなら」


「戦う時はもっと綺麗なんだろうな」


意味不明な言葉を残して。


会場を後にした。


⸻


紫雲は首を傾げる。


「どういう意味でしょう」


「知りませんわ」


真昼は本当に知らなかった。


⸻


ただ一人。


去っていく一輝だけが笑っていた。


あの絵を見て。


ますます興味が湧いた。


やはり。


五条真昼は面白い。


誰よりも。


何よりも。


⸻


学院祭はまだ始まったばかり。


だが。


それぞれの感情は少しずつ動き始めていた。

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