第三十九話 「後夜祭」
学院祭は大成功だった。
夕方。
各展示や出し物も終了し、校内にはどこか祭りの終わりを惜しむような空気が流れている。
そして。
最後を締めくくるのは後夜祭だった。
⸻
校庭。
特設ステージ。
生徒達の歓声。
普段の天女学院では考えられないほど賑やかだった。
「すごいですね」
紫雲が周囲を見渡す。
「これが後夜祭ですか」
「そうそう」
乃亜が頷く。
「学院祭の本番はむしろこっち」
「そうなのですか」
「青春だからね!」
真昼にはよく分からなかった。
⸻
ステージでは軽音部の演奏が始まる。
生徒達が盛り上がる。
真昼は少し離れた場所から眺めていた。
騒がしい。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
その時。
「真昼さん」
紫雲が隣へやって来る。
「どうしましたの」
「少しお話しませんか?」
珍しかった。
紫雲の方から誘うのは。
真昼は頷く。
「構いませんわ」
⸻
二人は校舎裏へ向かう。
祭りの喧騒が遠ざかる。
聞こえるのは音楽だけ。
夜風が心地良かった。
しばらく無言で歩く。
やがて。
紫雲が口を開いた。
「絵」
真昼が止まる。
嫌な予感しかしない。
「綺麗でした」
「そうですか」
「はい」
紫雲は微笑む。
「嬉しかったです」
真昼は何と返せばいいのか分からなかった。
だから。
正直に言う。
「描きたかったから描きました」
紫雲が少し笑う。
「真昼さんらしいですね」
⸻
少し沈黙。
そして。
紫雲は勇気を出す。
本当はずっと聞きたかった。
「私だった理由を聞いても?」
真昼は考える。
数秒。
十数秒。
やがて。
答えた。
「分かりませんわ」
「え?」
紫雲が固まる。
真昼は真面目だった。
「気付いたら描いていました」
「描きやすいのもあります」
「ですが、それだけではない気がします」
自分でも分からない。
だから嘘は言わない。
紫雲は少しだけ顔を赤くした。
⸻
その頃。
少し離れた場所。
乃亜と茜。
「覗く?」
「だめ」
「だよね」
だが気になる。
非常に。
⸻
校舎裏。
紫雲は夜空を見上げる。
星が見える。
静かだった。
祭りの終わり。
少し寂しい。
「学院祭」
紫雲が呟く。
「終わってしまいますね」
「そうですわね」
「楽しかったです」
真昼は頷く。
「私もです」
紫雲が驚く。
真昼が自分からそんなことを言うのは珍しい。
「意外です」
「そうでしょうか」
「ええ」
紫雲は笑う。
そして。
少しだけ。
本当に少しだけ。
真昼の袖を掴んだ。
無意識だった。
真昼も気付いていない。
⸻
その時だった。
ドォン――
夜空に大きな花火が咲く。
後夜祭のフィナーレ。
紫雲が空を見上げる。
花火の光が横顔を照らした。
綺麗だった。
真昼はそう思う。
ただ純粋に。
綺麗だと。
⸻
遠くから歓声が聞こえる。
祭りが終わる。
だが。
真昼には分かっていなかった。
学院祭の終わりと同時に。
紫雲を巡る問題も。
少しずつ動き始めていることを。
そして。
遠く離れた場所で。
桐生院一輝もまた。
静かに動き始めていた。




