第三十四話 「学院祭準備」
第三十四話 「学院祭準備」
学院祭まで残り三週間。
天女学院は少しずつ慌ただしくなり始めていた。
昼休み。
教室。
担任が出席簿を閉じる。
「という訳で、今日から学院祭の準備を始めます」
教室がざわつく。
楽しそうな声。
面倒そうな声。
反応は様々だった。
真昼は興味がなかった。
「まずクラスの出し物だが――」
その後も話し合いは続く。
そして案の定。
真昼は一度も発言しなかった。
窓の外を眺めていただけである。
⸻
放課後。
中庭。
いつもの四人。
「学院祭楽しみだなー!」
乃亜が元気よく言う。
茜は小さく頷く。
紫雲も微笑んでいた。
真昼だけが首を傾げる。
「そんなに楽しいものなのですか?」
三人が固まった。
乃亜が言う。
「え、学院祭初めて?」
「初めてですわ」
「マジか」
そうだった。
真昼には普通の学校生活というものがほとんど存在しない。
乃亜は腕を組む。
「じゃあ教えてあげよう」
「はい」
「学院祭は青春です」
「なるほど」
全く分からなかった。
⸻
その日の帰り道。
紫雲と真昼は途中まで一緒だった。
夕暮れの住宅街。
静かな道を歩く。
「真昼さん」
「何でしょう」
「学院祭、少し楽しみにしてみてください」
真昼は首を傾げる。
「何故ですの?」
「皆で何かを作るのって楽しいんですよ」
紫雲は柔らかく笑う。
「失敗しても笑えますし」
「成功したらもっと嬉しいです」
真昼は少し考えた。
そんな経験は無かった。
だから。
少しだけ興味が湧いた。
「そういうものですか」
「そういうものです」
紫雲は頷く。
その横顔を見ながら。
真昼は思う。
紫雲は笑っている方が良い。
最近よくそう思うようになっていた。
⸻
翌日。
放課後。
旧校舎裏。
真昼はスケッチブックを開いていた。
鉛筆が静かに走る。
描いているのは学院の風景。
そして。
気付けば。
また人物を描いていた。
長い黒髪。
優しい瞳。
穏やかな笑顔。
描き終えたところで。
真昼は固まる。
「……」
見覚えがありすぎた。
紫雲だった。
しかも無意識。
前回は参考にして描いた。
今回は違う。
気付いたら描いていた。
真昼は少し考える。
そして結論を出した。
「描きやすいからですわ」
誰もいないのに言い訳した。
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その頃。
学院の外。
黒塗りの車。
後部座席。
一輝は資料を眺めていた。
普通なら婚約者である紫雲の資料を見るべきだろう。
だが。
机の上にあるのは別の名前だった。
月夜真昼。
部下が苦い顔をする。
「坊ちゃん」
「あ?」
「婚約者の情報は見ないんですか」
一輝は鼻で笑った。
「必要ねぇ」
即答。
部下が頭を抱える。
「ですが――」
「それよりこっちだ」
一輝は資料を叩く。
「面白ぇだろ」
部下は全く理解出来なかった。
ただ。
一つだけ分かる。
坊ちゃんは異常なほど真昼に興味を持っている。
それだけだった。
⸻
夜。
寮の部屋。
真昼はスケッチブックを閉じた。
ページの中には。
学院。
空。
木々。
友人達。
そして。
何枚かの紫雲。
真昼は少し考える。
何故こんなに描いているのか。
答えは出ない。
だから。
深く考えるのをやめた。
窓の外には月。
学院祭まであと少し。
その裏で。
少しずつ。
様々な想いが動き始めていた。




