第三十三話 「からかい」
翌日。
昼休み。
真昼は嫌な予感を抱えながら中庭へ向かっていた。
理由は分かっている。
昨日の乃亜の様子だ。
絶対に何か企んでいる。
そして。
その予感は当たった。
席に着いた瞬間だった。
「おはよー、真昼」
乃亜が満面の笑みを浮かべる。
嫌な笑顔だった。
「昼ですわ」
「細かいことはいいの」
良くない。
真昼は弁当を開く。
すると。
乃亜が隣へ身を寄せた。
「そういえばさぁ」
来た。
「何ですの」
「紫雲って綺麗だよね」
ブフォッ。
向かい側の紫雲がむせた。
茜も顔を伏せる。
真昼は無表情。
だが。
一瞬だけ動きが止まった。
乃亜は見逃さない。
「ほら」
「髪も綺麗だし」
「優しいし」
「お嬢様だし」
「モテそうだよねぇ」
紫雲の顔が少し赤くなる。
「や、やめてください」
「事実じゃん」
乃亜は楽しそうだった。
真昼は静かに弁当を食べる。
無視。
それが最善。
だが。
乃亜は止まらない。
「真昼はどう思う?」
「何がですの」
「紫雲」
真昼は答える。
「良い人だと思いますわ」
紫雲が少し驚いた。
乃亜はニヤニヤ。
「へぇ〜」
「事実ですので」
「それだけ?」
「それだけですわ」
即答。
乃亜はつまらなそうだった。
⸻
だが。
終わらなかった。
放課後。
廊下。
真昼が歩いていると。
曲がり角から乃亜が現れる。
待ち伏せだった。
「何ですの」
「いや別に」
嘘だった。
絶対に嘘だった。
乃亜は楽しそうに笑う。
「真昼さ」
「はい」
「もし紫雲が誰かと結婚したらどうする?」
真昼の足が止まる。
乃亜は気付いた。
ほんの一瞬。
確かに止まった。
真昼は少し考える。
そして。
「祝福しますわ」
乃亜はジッと顔を見る。
真昼は続ける。
「本人が望むのであれば」
その言葉に嘘は無い。
だが。
何か引っ掛かる。
そんな顔だった。
乃亜は思う。
ああ。
まだ自覚してないな。
と。
⸻
その日の夕方。
生徒会室。
真昼が書類整理をしている。
そこへ。
コンコン。
ノック。
「どうぞ」
扉が開く。
入ってきたのは紫雲だった。
「失礼します」
「どうしましたの?」
「この書類を届けに」
そう言って机へ置く。
それだけ。
それだけのはずだった。
だが。
紫雲は帰ろうとしない。
何か言いたそうだった。
「?」
真昼が首を傾げる。
やがて。
紫雲が小さく言った。
「真昼さん」
「はい」
「私……」
言いかけて止まる。
そして首を振った。
「何でもありません」
「そうですか」
紫雲は微笑む。
少しだけ。
寂しそうに。
「失礼しました」
そう言って部屋を出て行く。
真昼は首を傾げる。
結局。
何を言いたかったのか分からなかった。
⸻
その頃。
学院の外。
黒塗りの高級車の中。
後部座席。
桐生院一輝はスマホを眺めていた。
そこには一枚の写真。
校門から出てくる真昼。
部下が尋ねる。
「坊ちゃん」
「何だ」
「そんなに気になるんですか?」
一輝は少し笑う。
「ああ」
即答だった。
「面白ぇからな」
それだけではない。
自分でも分かっていた。
気付けば考えている。
気付けば目で追っている。
理由はまだ分からない。
だが。
確かなことが一つある。
五条真昼。
あれは。
自分の人生を変える存在になる。
そんな予感がしていた。




