第二十九話 「鎖」
月曜日。
昼休み。
いつものように真昼達は中庭で昼食を取っていた。
五条真昼。
佐倉紫雲。
柊乃亜。
古賀茜。
最近はこのメンバーが定位置になっていた。
「真昼さん」
紫雲が微笑む。
「昨日は楽しかったですか?」
真昼が答える前に。
乃亜が反応した。
「おっ」
「お?」
「気になる?」
紫雲の顔が少し赤くなる。
「ち、違いますよ?」
「ほんとかなぁ〜」
乃亜はニヤニヤしている。
真昼は意味が分からなかった。
その時だった。
「へぇ」
聞き覚えのある声。
全員が振り向く。
そこには。
桐生院一輝が立っていた。
女子達の空気が一瞬で固まる。
乃亜が露骨に嫌そうな顔をした。
「また来た」
「酷くね?」
一輝は笑う。
そして紫雲を見る。
「婚約者」
紫雲の表情が曇った。
「何でしょうか」
「親父が呼んでる」
空気が変わる。
紫雲の手が止まる。
「……今日ですか?」
「ああ」
一輝はつまらなそうに言った。
「両家で食事会だとよ」
紫雲の顔から笑顔が消える。
真昼はそれを見た。
見逃せなかった。
明らかに嫌そうだった。
一輝は続ける。
「どうせ婚約の話だろ」
まるで興味が無いような声。
紫雲は小さく俯いた。
その姿に。
真昼の胸がざわつく。
嫌だった。
理由は分からない。
だが。
見ていて気分が悪い。
その時。
一輝が真昼を見た。
ニヤリと笑う。
「どうした?」
「そんな顔して」
真昼は無言だった。
一輝は面白そうに続ける。
「安心しろ」
「俺は紫雲に興味ねぇから」
全員が止まる。
紫雲まで固まった。
「……は?」
乃亜が思わず声を出した。
一輝は肩を竦める。
「家の命令だから従ってるだけだ」
本音だった。
紫雲を妻にしたいとは思っていない。
だが逆らえるほどの力もまだ無い。
だから従っている。
ただそれだけ。
そして。
一輝は真昼へ視線を向ける。
「俺が興味あるのは別だしな」
真昼が眉を寄せた。
嫌な予感しかしない。
乃亜も赤城も何となく察した。
紫雲だけは意味が分かっていない。
一輝は笑う。
「まぁいいや」
そう言って立ち去ろうとする。
だが。
数歩進んだ所で止まった。
振り返る。
そして紫雲へ言った。
「嫌なら逃げろよ」
紫雲が目を見開く。
一輝は笑う。
「俺は追わねぇ」
それだけ言い残し。
中庭を去っていった。
静寂。
数秒後。
乃亜が呟く。
「何あいつ」
「変な人ですわね」
真昼も同意した。
だが。
紫雲だけは俯いたままだった。
婚約。
家。
義務。
誰にも言えない重圧。
その全てが肩へ乗っている。
真昼はそんな紫雲を見つめる。
そして初めて思った。
――助けたい。
その感情だけは。
はっきりと理解できた。




