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第二十八話 「迷子」

ショッピングモール。


生徒会の買い出しも終盤に差し掛かっていた。


「これで最後ですわね」


五条真昼が手元のメモを確認する。


隣では桐生院赤城が小さく伸びをした。


「思ったより時間掛かったわね」


「人が多いですから」


「休日だしね」


周囲は家族連れや学生で賑わっている。


真昼は少し眉を寄せた。


「やはり人が多すぎますわ」


「戦場より?」


「戦場の方が静かです」


「比較対象がおかしいのよ」


赤城が呆れたように笑う。


その時だった。


「うぅ……」


小さな泣き声。


二人が同時に振り返る。


通路の端。


五歳くらいの少女が立っていた。


不安そうに周囲を見回している。


赤城が呟く。


「迷子ね」


真昼は少女の前へしゃがみ込んだ。


「どうしましたの?」


少女は涙を堪えながら答える。


「ままが……いない……」


真昼が黙る。


こういう時どうすればいいのか分からない。


子供と接した経験などほとんど無かった。


すると赤城が自然に隣へしゃがむ。


「大丈夫よ」


優しい声。


「お名前言える?」


少女はこくりと頷いた。


真昼はその様子を見ていた。


赤城の声は不思議だった。


聞いているだけで安心する。


少女も少し落ち着いたようだった。


名前を聞き出し、案内所へ向かうことになる。


その途中。


人混みに押された少女がよろけた。


真昼は反射的に抱き上げる。


少女が驚いた顔をした。


「わぁ……」


軽い。


驚くほど。


真昼は少しだけ目を細めた。


少女は真昼の顔を見上げる。


そして。


「おねえちゃん、きれい」


真昼が固まる。


赤城が吹き出した。


「ふふっ」


「何故笑うのです?」


「だって」


赤城は肩を震わせる。


「間違ってないし」


真昼は納得出来なかった。


⸻


案内所。


館内放送から数分後。


一人の女性が駆け込んできた。


「美咲!」


「ままぁ!」


少女が飛び付く。


母親は泣きながら娘を抱き締めた。


「良かった……本当に……」


何度も頭を下げる母親。


「ありがとうございました!」


真昼は軽く首を振る。


少女は去り際に大きく手を振った。


「ばいばーい!」


真昼も小さく手を振り返した。


その姿を見て赤城が少し笑う。


⸻


案内所を出た後。


二人は並んで歩いていた。


赤城が不意に口を開く。


「意外だったわ」


「何がですの?」


「助けたこと」


真昼は少し考える。


昔の自分なら。


確かに見過ごしていたかもしれない。


「……放っておけませんでした」


自分でも驚くほど自然に出た言葉だった。


赤城は目を丸くする。


そして少しだけ微笑んだ。


「やっぱり変わったわね」


「そうでしょうか」


「そうよ」


赤城は真昼を見る。


「入学したばかりのアンタなら絶対言わない」


真昼は答えなかった。


否定出来なかったからだ。


⸻


買い出しを終えた二人は駅前へ戻る。


夕暮れ。


空が赤く染まっていた。


「じゃあ今日はここまでね」


「ええ」


少しだけ沈黙が流れる。


やがて赤城が言った。


「今日は楽しかったわ」


真昼は少し考える。


楽しい。


昔の自分には理解出来なかった感情。


だが。


今日一日を思い返してみる。


赤城との会話。


迷子の少女。


笑顔。


騒がしい時間。


そして。


「……そうですわね」


真昼は静かに答えた。


「悪くありませんでした」


赤城が固まる。


数秒後。


耳まで真っ赤になった。


「そ、そう……」


なぜ顔が赤いのか。


真昼には分からなかった。


⸻


赤城が去っていく。


真昼はその背中を見送る。


そしてふと。


母の言葉を思い出した。


――武神ではなく、人になってほしい。


夕焼けを見上げる。


友人が出来た。


誰かを助けたいと思った。


誰かと過ごす時間を心地良いと思った。


まだ分からないことばかりだ。


それでも。


少しだけ。


母の願いに近付いている気がした。

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