第二十四話 「恋愛会議」
「酷っ!?」
柊乃亜の悲鳴が美術室に響いた。
真昼は平然としている。
「事実ですわ」
「幼なじみに対してその扱い!?」
「幼なじみだからですわ」
「理不尽!」
紫雲が思わず笑う。
茜も小さく肩を揺らした。
その笑顔を見て。
真昼は少しだけ安心した。
さっきまでの気まずい空気が消えていたからだ。
乃亜はそんな真昼を見て、ニヤリと笑う。
「へぇ〜」
「何ですの」
「別に〜?」
怪しい。
真昼は警戒する。
乃亜が何か企んでいる時は大体ろくでもない。
案の定だった。
「ところで真昼」
「はい」
「紫雲描いてたんだって?」
空気が止まる。
紫雲の顔がまた赤くなる。
茜は黙って頷いた。
裏切った。
真昼はそう思った。
「……古賀さん」
「事実」
反論できない。
乃亜は満面の笑みだった。
「いやぁ〜ついに恋かぁ〜」
「違いますわ」
即答。
「じゃあなんで描いたの?」
「分かりません」
「好きだからじゃん」
「理解不能ですわ」
乃亜が頭を抱える。
ここまで鈍いとは思っていなかった。
その時。
「恋愛とは何ですの?」
真昼が真顔で聞いてきた。
全員が固まる。
数秒。
乃亜が口を開いた。
「……マジで言ってる?」
「ええ」
真昼は本気だった。
紫雲は恥ずかしそうに俯く。
茜は興味深そうに聞いている。
乃亜は天井を見上げた。
「恋愛ってのはね」
「はい」
「会いたい」
「はい」
「話したい」
「はい」
「笑っててほしい」
「はい」
「他の人と仲良くしてるとモヤモヤする」
真昼が止まる。
昨日の一輝とのやり取りを思い出した。
胸の奥の不快感。
妙な苛立ち。
あれか。
「あと」
乃亜は続ける。
「その人が泣いてたら助けたい」
真昼の脳裏に浮かぶ。
紫雲。
婚約。
無理に笑う顔。
その瞬間。
真昼は静かに黙り込んだ。
乃亜が目を細める。
「心当たりある?」
真昼は答えない。
答えられない。
だが。
初めてだった。
自分の感情に名前が付くかもしれないと思ったのは。
その時。
放課後を告げるチャイムが鳴った。
同時に。
真昼のスマホが震える。
画面を見る。
差出人は――
五条真人。
父だった。
真昼の表情が僅かに変わる。
それを見た乃亜達も気付く。
真昼はメッセージを開いた。
そこには短く書かれていた。
『今夜帰って来い』
それだけだった。
だが。
真昼は知っている。
父が自分を呼ぶ時。
大抵は――裏社会の話だ。




