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第二十話 「お嬢様の夜」

その日の夜。


女子寮。


廊下には静かな灯りが点いていた。


五条真昼は、自室の窓際へ座っていた。


机にはスケッチブック。


だが今日は開いていない。


脳裏に浮かぶのは、昼のことだった。


――『お前、本当は女じゃねぇだろ』


桐生院一輝の言葉。


真昼は静かに目を閉じる。


あの男は危険だ。


勘が鋭すぎる。


何より。


“同じ側”の人間だった。


その時。


コンコン、と扉が鳴る。


「真昼ー、起きてる?」


柊乃亜の声だった。


「入って構いませんわ」


扉が開く。


乃亜はジャージ姿だった。


完全に部屋着。


「いやぁ疲れたぁ……」


そのままベッドへダイブする。


真昼は少し眉を寄せた。


「女子としてどうなのです、それ」


「寮だしいいの!」


乃亜はごろごろ転がる。


そして真昼を見る。


「……大丈夫?」


「何がですの?」


「一輝」


真昼は少し黙る。


乃亜は真面目な顔になっていた。


「あいつマジでヤバいから」


「分かっていますわ」


「ほんと?」


「ええ」


真昼は静かに窓の外を見る。


「俺と同じ目です」


乃亜が小さく息を呑む。


真昼が誰かを“同じ”と言うことは珍しい。


それだけ危険という意味だ。


数秒、沈黙。


やがて乃亜がぽつりと言った。


「……でもさ」


「?」


「真昼、変わったよね」


真昼が乃亜を見る。


「何がですの?」


「前なら」


乃亜は天井を見ながら続ける。


「もっと冷たかった」


「多分、あの不良も普通に半殺しにしてた」


真昼は否定しない。


実際その通りだった。


だが今は違う。


学院へ来てから。


真昼は少しずつ変わっていた。


紫雲。


赤城。


茜。


乃亜。


騒がしくて、面倒で。


理解できない人達。


でも。


嫌ではない。


「……分かりませんわ」


真昼は小さく呟く。


「最近、調子が狂いますの」


乃亜は笑った。


「それ多分普通の青春だから」


「理解不能ですわ」


「恋愛方面でも鈍いしねぇ」


真昼の眉が僅かに動く。


「恋愛とは、そんなに重要ですの?」


「重要」


乃亜は即答した。


そして悪戯っぽく笑う。


「ちなみに真昼、今誰が一番気になる?」


「?」


「乃亜ちゃん?」


「違いますわ」


「即答!?」


乃亜がショックを受ける。


真昼は少し考える。


だが。


誰、と言われると分からない。


紫雲といると落ち着かない。


赤城は騒がしい。


茜は不思議だ。


乃亜は昔から隣にいる。


全部違う。


全部知らない感情。


「……よく分かりませんわ」


真昼は正直に答える。


乃亜は吹き出した。


「うわぁ、重症だこの天然武神」

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