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第十七話 「月夜様の正体」

昼休み。


天女学院の廊下は、今日も騒がしかった。


「月夜様ー!」


「こっち向いてください!」


「今日も綺麗……!」


五条真昼は、既に少し疲れた顔をしていた。


囲まれる。


触れられそうになる。


距離が近い。


理解不能。


「……戦場の方が静かですわ」


「比較対象がおかしいからね?」


隣で柊乃亜が笑う。


その時だった。


「た、大変です!!」


女子生徒が慌てた様子で走ってくる。


「体育館裏で男子校の人達が……!」


空気が変わる。


「え?」


「男子!?」


「なんで学院に……?」


女子達がざわつく。


真昼は静かに目を細めた。


「一年生の子が絡まれてて……!」


その瞬間。


真昼は歩き出していた。


乃亜が慌てて後を追う。


「ちょ、真昼!?」


体育館裏。


そこには三人の男子生徒がいた。


制服は他校。


見るからに不良。


その前で、一年生の女子が怯えている。


「だからちょっと遊ぼうって言ってるだけじゃん」


「別に減るもんじゃねぇだろ?」


女子生徒は涙目だった。


その時。


「――その辺にしてくださいませ」


静かな声。


全員が振り向く。


風に揺れる黒髪。


白い肌。


蒼い瞳。


真昼がそこに立っていた。


男達が一瞬見惚れる。


だが次の瞬間。


その目に宿る冷たさへ気付き、表情が引き攣った。


「……誰だよお前」


真昼は女子生徒の前へ立つ。


「嫌がっていますわ」


「だから?」


男の一人が真昼へ近づく。


そのまま肩へ手を伸ばした瞬間。


ガシッ。


「っ!?」


男の腕が止まる。


真昼が掴んでいた。


細い腕。


だが異常な力。


男の顔が歪む。


「い、ってぇ……!」


真昼の目が冷たく細まる。


その瞬間。


男達の背筋に悪寒が走った。


本能だった。


目の前の存在は危険だと。


「二度は言いませんわ」


真昼は静かに告げる。


「失せなさい」


男達が後ずさる。


だが一人が舌打ちした。


「調子乗んなよ!!」


ポケットからナイフを取り出す。


女子達が悲鳴を上げた。


乃亜が顔をしかめる。


だが。


真昼は動かない。


静かに、自分の髪へ手を伸ばした。


次の瞬間。


――ヒュッ。


銀色の簪が一直線に飛ぶ。


カンッ!!


鋭い音。


男の手からナイフが弾き飛ばされた。


「……は?」


全員が固まる。


真昼はゆっくり歩き出す。


その蒼い瞳には、一切感情が無かった。


「次は」


低い声。


完全に“俺”の声だった。


「こんなんじゃ済まさねぇぞ」


空気が凍る。


男達の顔が青ざめた。


理解した。


勝てない。


これは人間じゃない。


数秒後。


「ひっ……!」


男達は逃げ出した。


静寂。


その場にいた女子達は、呆然と真昼を見る。


乃亜は頭を抱えていた。


「あーあ……」


やっちゃった。


その時。


真昼はようやく気付く。


周囲の視線。


そして。


自分が、“俺”と言ったことに。

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