第十六話 「秘密と嫉妬」
「は、離れなさいよアンタ達!!///」
桐生院赤城の声が、雨音の中へ響いた。
そこでようやく、五条真昼は自分の状態を理解する。
腕の中。
佐倉紫雲を抱き寄せていた。
真昼は静かに手を離す。
「……申し訳ありませんわ」
「い、いえ……こちらこそ」
紫雲も顔を赤くしていた。
赤城だけが納得いってない顔をしている。
「何よその空気……!」
「空気?」
真昼が首を傾げる。
赤城は頭を抱えた。
「アンタ本当に天然なのね……」
その時。
ゴロゴロ、と雷が鳴る。
雨はさらに強くなった。
赤城は小さく舌打ちする。
「最悪……車呼んだけどまだ来ないわ」
「生徒会長も雨宿りですの?」
「悪い?」
「いえ」
真昼は静かに答える。
その視線が、赤城の肩へ向いた。
制服がかなり濡れていた。
「……貴女も濡れていますわ」
「え?」
次の瞬間。
真昼は自分の上着を脱ぎ、赤城へ掛けた。
赤城が固まる。
「ちょっ……!?」
「風邪を引きます」
「いやアンタは!?///」
「問題ありませんわ」
真顔だった。
赤城は言葉を失う。
紫雲はそれを見て、小さく笑った。
「真昼さんって、本当に自然にそういうことしますよね」
「?」
真昼は意味が分かっていない顔をする。
赤城は耳まで真っ赤だった。
「アンタねぇ……」
すると。
ふと、赤城の視線が止まる。
真昼の首元。
雨で少し開いたシャツ。
そこに見えた。
――包帯。
そして、その下の傷痕。
赤城の目が細くなる。
「……月夜真昼」
空気が変わった。
真昼もそれに気付く。
赤城は真昼を見つめたまま、小さく言った。
「アンタ、何者?」
紫雲が息を呑む。
雨音だけが響く。
真昼は数秒沈黙した。
やがて。
「ただの転入生ですわ」
そう答える。
だが赤城は視線を逸らさない。
「その傷」
「昔のものです」
「普通の女の子につく傷じゃない」
鋭い。
やはりこの女は勘が良すぎる。
真昼の目が僅かに細まった、その瞬間。
ゴロゴロッ!!
大きな雷。
同時に。
「ひゃっ――!?」
赤城が小さく悲鳴を上げた。
真昼も紫雲も止まる。
赤城本人も固まっていた。
数秒後。
真昼が静かに口を開く。
「……雷、苦手なのですか?」
「う、うるさい!!///」
赤城が顔を真っ赤にする。
紫雲が吹き出した。
「ふふっ」
真昼は少しだけ目を丸くする。
生徒会長。
完璧そうに見えた女。
だが今。
少しだけ“普通の女の子”に見えた。




