第十五話 「通り雨」
「……止みませんね」
紫雲の家へ向かう途中。
雨はさらに強くなっていた。
傘だけでは防ぎきれない。
制服の裾も濡れ始めている。
佐倉紫雲は困ったように空を見上げた。
「このままだと風邪を引いてしまいそうです」
五条真昼も空を見る。
雷まで鳴り始めていた。
その時。
「……あ」
紫雲が指を差す。
少し先。
古い洋館風の建物。
どうやら誰も住んでいない別荘らしい。
「少し雨宿りしませんか?」
真昼は数秒考え、頷いた。
「ええ」
二人は建物の軒下へ入る。
激しい雨音。
濡れた制服。
近い距離。
妙に静かだった。
紫雲は髪についた雨を払う。
その仕草を見て、真昼は一瞬だけ目を逸らした。
綺麗だと思った。
だが。
何故そう思ったのかは分からない。
「寒くありませんか?」
紫雲が心配そうに覗き込む。
近い。
真昼は少しだけ後ろへ下がった。
「問題ありませんわ」
「でも濡れていますし……」
紫雲は鞄からハンカチを取り出す。
そして。
そっと真昼の頬へ触れた。
「っ――」
真昼の身体が止まる。
柔らかい感触。
近すぎる距離。
紫雲は気付いていないのか、真剣な顔で水滴を拭っていた。
「……佐倉さん」
「はい?」
「近いですわ」
紫雲がきょとんとする。
そして数秒後。
「あっ……」
ようやく気付いた。
顔が赤くなる。
「す、すみません!」
慌てて離れる。
だがその瞬間。
ツルッ。
「きゃっ――」
紫雲の身体が傾く。
真昼は反射的に腕を掴んだ。
そのまま。
抱き寄せる形になる。
沈黙。
雨音だけが響く。
紫雲の顔が、すぐ目の前にあった。
長い睫毛。
濡れた髪。
少し開いた唇。
真昼の心臓が大きく鳴る。
知らない感覚。
戦場では絶対に感じないもの。
紫雲も真昼を見上げたまま固まっていた。
距離が近い。
近すぎる。
その時だった。
ガタン。
背後で音がした。
真昼の目が鋭く細まる。
瞬間。
紫雲を庇うように抱き寄せ、背後を見る。
完全に戦闘の動きだった。
だが。
そこにいたのは。
「……何してるの?」
傘を持った桐生院赤城だった。
空気が止まる。
真昼。
紫雲。
赤城。
全員固まる。
数秒後。
赤城の顔が真っ赤になった。
「はぁ!?///」
真昼はまだ紫雲を抱き寄せたままだった。




