第十四話 「雨」
放課後。
空はどんよりと曇っていた。
「……降りますわね」
五条真昼が窓の外を見る。
その直後。
ザーッ!! と激しい雨が降り始めた。
教室がざわつく。
「うわ最悪ー!」
「傘ないんだけど!」
「駅まで走る?」
そんな中。
真昼は静かに立ち上がった。
「帰りますわ」
すると隣から声。
「えっ」
佐倉紫雲が困った顔をしていた。
「どうしましたの?」
「……傘、忘れてしまって」
真昼は少し黙る。
それから、自分の鞄を見る。
折り畳み傘。
一本。
「使いますか」
紫雲が目を丸くした。
「でも真昼さんは……」
「寮まで近いですので」
本当は近くない。
だが別に濡れても問題なかった。
すると紫雲は小さく笑う。
「では、一緒に帰りませんか?」
真昼が止まる。
「……一緒に?」
「はい」
紫雲は当然のように言った。
「一本ありますし」
意味を理解するまで数秒かかった。
相合傘。
真昼は何故か少しだけ落ち着かなくなる。
だが断る理由もない。
「……構いませんわ」
数分後。
校門前。
雨はかなり強くなっていた。
真昼が傘を開く。
紫雲が隣へ入る。
近い。
肩が触れそうな距離。
女子特有の甘い香り。
真昼は少しだけ視線を逸らした。
「……狭いですわね」
「ふふっ、そうですね」
紫雲は楽しそうだった。
二人で歩き出す。
雨音だけが響く。
しばらく沈黙。
だが不思議と気まずくない。
やがて紫雲が小さく口を開いた。
「真昼さん」
「何でしょう」
「今日は、ありがとうございました」
「何の話ですの?」
「一輝様の時」
真昼は少しだけ目を細める。
「あれは事実を言っただけですわ」
「それでも嬉しかったんです」
紫雲は雨を見つめながら笑う。
「私、“嫌だ”って言ってくれる人、初めてだったので」
その言葉に。
真昼は何も言えなくなる。
家のため。
そう言って笑っていた少女。
だが本当は。
ずっと苦しかったのかもしれない。
真昼は小さく息を吐いた。
「……貴女は」
「?」
「もっと我儘でもいいと思いますわ」
紫雲が目を丸くする。
真昼は続ける。
「嫌なものは嫌だと言えばいい」
「欲しいものは欲しいと」
「そういう生き方の方が、分かりやすいですので」
紫雲はしばらく黙っていた。
やがて。
ふわりと笑う。
「真昼さんって、不器用なのに優しいですね」
真昼の足が止まる。
胸が妙にざわつく。
優しい。
また知らない言葉だった。
「……よく言われますの?」
「私は初めて言いました」
雨音が響く。
真昼は少しだけ顔を逸らした。
その耳が、ほんの少し赤かったことに。
本人だけが気付いていなかった。




