第十三話 「嫉妬」
昼休み終了後。
教室にはまだ妙な空気が残っていた。
皆、一輝のことを引きずっている。
当然だ。
あの男は普通ではない。
だが。
五条真昼が気にしていたのは別だった。
隣の席。
佐倉紫雲が、ずっと静かだった。
「……佐倉さん」
紫雲が小さく顔を上げる。
「はい?」
「手が震えていますわ」
紫雲は少しだけ目を丸くした。
そして困ったように笑う。
「見られていましたか」
「ええ」
真昼は少し黙る。
こういう時、何を言えばいいのか分からない。
慰め?
励まし?
知らない。
だから。
「嫌なら断ればいい」
思ったままを口にした。
紫雲は苦笑する。
「そんな簡単な話ではないんです」
「何故です」
「家のため、ですから」
真昼は理解できないという顔をした。
「貴女が嫌なのに?」
「はい」
「理解不能ですわ」
即答だった。
紫雲は少し驚いた後、ふっと笑う。
「真昼さんらしいですね」
だがその笑顔は、少し寂しかった。
真昼は胸の奥が妙にざわつく。
気に入らない。
この顔。
無理に笑っている顔が。
その時だった。
ガタッ!
勢いよく椅子が引かれる。
「真昼!!」
教室へ飛び込んできたのは、桐生院赤城だった。
息を切らしている。
珍しい。
真昼は少し目を細めた。
「どうしましたの」
赤城は真昼へズカズカ近づく。
そして。
「聞いたわよ!!」
「何をです?」
「漢江会の若頭と話したんですって!?」
教室が静まる。
赤城は真剣だった。
真昼は少し考える。
「……桐生院一輝のことですの?」
「そうよ!」
赤城は真昼の肩を掴む。
「アイツには近付かないで」
声が強い。
感情が乗っていた。
真昼は静かに赤城を見る。
「危険ですの?」
「危険なんてもんじゃないわ」
赤城は眉を寄せる。
「アイツ、気に入ったもの絶対手放さないの」
その言葉で。
真昼は昼の一輝を思い出す。
“気に入った”。
あの目。
妙に粘つく視線。
すると赤城は、はっとしたように口を閉じた。
「……ごめんなさい」
「?」
「いきなり怒鳴って」
真昼は少しだけ目を細める。
「貴女は」
「?」
「優しいのですね」
赤城が固まる。
数秒。
そして。
「はぁ!?///」
顔が真っ赤になった。
「な、何よ急に!!」
「事実を言っただけですわ」
「だからそういうの天然で言うなっての!!」
赤城は頭を抱える。
教室の女子達はニヤニヤしていた。
乃亜はもう笑いを堪えてない。
「いやぁ〜会長チョロいなぁ」
「柊ィ!!」
その騒がしい空気の中。
紫雲だけが、静かに真昼を見ていた。
そして小さく思う。
――ずるい。
あんな風に、真っ直ぐ誰かを救えるなんて。
その感情が何なのか。
紫雲はまだ、言葉に出来なかった。




