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五十四話「ブラム婆」


 ファラ達と別れ、リファに待機をお願いした俺とソフィアは、早速『ドワーフの里』へと歩を進める。

 ソフィアの案内もあり迷うことなく山岳平野を進むと、山脈付近から見下ろした大集落が見えてきた。


「もう少しじゃぞ」

「おお……」


 ソフィアが指差した方向を見て、思わず声が漏れる。

 里というから木造の集落を想像していたのだが、実際は違う。

 山そのものを削って造られた巨大な集落だった。


 さらに近づいていくと、建物の細かな作りや、人影が見えてくるようになる。

 あちこちの煙突から白い煙が立ち昇り、鍛冶場からは金属を打つ甲高い音が聞こえていた。

 その一方で、俺の鼻をくすぐる香ばしい匂い。


「なんか良い匂いがするな」

「夕時じゃからの。飯の準備でもしとるんじゃろ」


 いつの間にか日が西に傾いていた。

 もうそんな時間だったのか……確かに今日は色々あったからな。

 そんな事を思いながら里へ入ると、一人の女性ドワーフがこちらへ気付いた。

 身長こそ俺の胸元ほどだが、横幅は俺よりある。

 店の看板らしきものを持った女性ドワーフは、ソフィアの姿を見た瞬間、目を見開いた。


「ソフィアじゃないかい!」

「ん? おお! ブラム婆!」


 呼ばれ、振り向いたソフィアは嬉しそうに笑う。

 どうやら知り合いらしい。


「この馬鹿娘! 今まで何処をほっつき歩いてたんだい!」

「色々あったんじゃよ」

「色々で済むかい。まったく、ラダン達も心配しとったんだよ」


 そう言って豪快に笑うブラムと呼ばれた女性ドワーフはソフィアの髪をガシガシと撫で、傍らにいた俺へと視線を向けた。


「ん? そっちの人族は誰だい?」

「カイトじゃ。ワシの命の恩人でもある」

「ほう?」

「ど、どうも」


 そう言って会釈した俺の全身をブラムは眺める。

 何というか物凄い圧を感じる。いや、貫禄がすごいというのか……とにかくこの人には逆らっちゃいけない何かを感じた。

 そんな風に少し萎縮していると、ブラムは何かを思い出したように大きな溜息を吐いた。


「まともな人族なら歓迎さね。最近来てる貴族共には、ほとほと辟易しとるからねぇ」


 ブラムは嫌そうに顔を顰めながら肩を竦める。


「カイトや」

「ああ、分かってる。十中八九アイツらだろ?」

「うむ、ほとほと困った奴らじゃ」


 先程も逃げていったから、おそらくこの里へ戻って来ているのだろう。


「全く何があったのか知らないけどね。さっきも顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたよ。今も用意させた屋敷で喚いてるんじゃないかねえ」

「悪い……それ多分俺のせいかもしれん」

「ん? そうなのかい?」


 そこで俺は、先程あった出来事をブラムに伝えた。


「なるほど、それで冒険者だの護衛を集めるだの喚き散らしておったのかい」

「すまん」

「なあに、あんたのせいじゃ無いさね。聞いた限り悪いのは貴族の方だとわかるからね。ただ、集めているのは確かみたいなんでね。気をつけるんだよ」

「ああ、そこは大丈夫だ」


 飛竜に比べれば大した事はないからな。

 そもそも、フィアを拐った時点で敵だ。


「向かってくるって言うんなら、ブチのめすだけだからな」

「ほお、あんた良いね! 気に入ったよ! 名前は確か……カイトと言ったかい?」

「ああ」

「こんな所ではなんだね。店の中で続きを話すかい?」

「うむ、ブラム婆の料理は絶品じゃからの! カイトや続きは中で話そうの!」

「そうだな。じゃあお邪魔するよ」


 他にも色々と話を聞きたいので、ブラムの提案に乗り、店へと入らせてもらうことにした。

 店の中へと案内された俺とソフィアは、出された料理を口にしながら話の続きを行う。


「しっかし、本当に勇者の国の連中は碌な事をしないねえ……そもそもこの里は中立さね! 奴隷売買だって禁止されとると言うのに。本当に頭の痛い奴らさ」

「あの話も出したんじゃろ?」

「ああ、出したさね。あまり騒ぐようならこの里からの武器援助は打ち切ると、そう、ラダンたちも伝えたと言っておったからね」


 ソフィアの言葉に頷いてそう口にするブラム。

 だが、状況は芳しく無いのかブラムは、またもや深いため息と共に続きを口にした。


「だが、聞きやしないよ。里の若い衆も相手にしてないって言うのに」

「そうじゃろうの。自分勝手なことばかり言っとるからの」

「人族至上主義だかなんだか知らないけどね。さっさといなくなって欲しいよ。ランディ王も何で滞在を許したんだか……はあ」

「ルドにも聞いたが、やっぱ追い出すのは難しい感じなのか?」

「ああ、難しいみたいだねえ。相手は勇者の国の貴族だからねえ……下手に刺激して戦争にでもなったら困っちまう。まあ、だからランディ王も滞在を許可してるんだろうけどね」

「そうか……」


 となると、あまり関わり合いにならない方がいいのか?

 だが、近隣にそんな奴がいるとなると、俺も安心出来ないな。

 村にはアリシアやリュノも居る、フィアだって遊びにくるはずだ。

 今は洞窟崩落で何とかなっているが、いずれ通れるようになったら、他人事じゃなくなるぞ。

 これは早急に解決しないとマズイ気がする。


「この里にも抑止力になってくれる様な傑物がいれば話は別なんだけどねえ」


 そう言ってブラムは苦笑を浮かべて肉を口に放り込む。

 傑物か。

 確かに英雄並みに強い人物がいれば抑止力にはなるな。


「何処かにいればな」


 そんな風に思っていると、ソフィアが俺に視線を固定してジィッと見つめてきた。

 ど、どうした? そんな風に見られると少し照れるぞ。


「おるぞブラム婆」

「何? それは本当かい?」

「マジか、ソフィア?」


 何だよ、そんな人物がいるならもっと早く言ってくれよ。

 そう思って、ソフィアを見るが、相変わらず俺から視線を外さない。

 いや、それどころかジト目になっている様に見えるのは俺の気のせいだろうか。


「カイトや、お主マジかの?」

「え、何がだ?」


 そう答えるが、物凄い呆れた顔でため息をつかれてしまった。

 な、何だよ。わかる様に答えてくれよ。何でため息ついたんだよ? 俺なんかおかしなこと言ったのか?


「お主、自分が"災厄の飛竜"を倒したこと忘れとるのか?」

「え、あ……」


 言われてみれば確かにそうだった。

 リュノやフィアの為、必死に倒したが……そういえば倒したのは竜だったんだよな。


「ま、待て! 今何と言った……ソフィア?」

「ん? ここにいるカイトが"災厄の飛竜"を倒したと言ったんじゃよ」

「な、何だって!? それは本当かい!?」

「う、うお!? あ、ああ、一応素材も、あ、あるぞ?」


 物凄い勢いで、肩を掴まれ驚いてしまったが、何とかそう答える。

 すると今度は揺さぶりながら尋ねてきた。


「か、カイトや! 属している国はあるのかい!?」

「い、いや、禁域で廃村を開拓してるくらいで、ど、どこにも属してはないぞ……?」

「___!」


 ブラム婆の目が見開かれる。


「ソフィアや! 絶対にこの青年(カイト)を逃すんじゃないよ!!」

「な、何を言っとるんじゃ?」

「何を言っとるじゃないよ! 災厄の飛竜を討伐した者なんてそうそう居るもんかい!」


 そう言うや否や、ブラム婆は勢いよく立ち上がった。


「ラダン達を呼んでくる! こんな話を聞いて黙っておれるかい!!」

「お、おい!?」

「そこで大人しく待ってるんだよ!」


 そう言い残し、ブラム婆は店を飛び出していった。

 後に残されたのは俺とソフィアだけだ。


「……何か大事になってないか?」

「うむ、なってしまったの」


 ソフィアは肉を頬張りながら頷く。


「他人事みたいに言うなよ……」

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