五十三話「ドワーフの里へ」
フィア達の治療が終わり、翼人族の親子が再会を喜んでいるのを穏やかな気持ちで眺めていると、ふと、俺は思い出した。
そう言えば、そもそもの理由が『ドワーフの里』へ連れて来て貰うために翼人族の里を訪れたんだったと。
俺はフィアと共に『陽果実』を口にするファラへと近づき、頭を掻きながらその旨を伝える。
「あーっと、ファラ。ちょっといいか?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「実はな、元々ハーピィの里を訪れたのには理由があってだな……」
そこまで言って少し口籠る。
なんて説明するべきか……こんな事があったばかりだし、少し頼みづらい。
「カイト殿?」
「あー、いや、その、な?」
「何をボソボソと喋っとるんじゃカイトや……実はなファラよ。こやつが言った通り、ワシらがお主の里を訪れたのには理由があっての。こやつの村作りに必要なドワーフ達の力、簡単に言うとワシの知り合いのドワーフに頼むため、主達に山越えの協力を願いに来たんじゃよ。こうして山越え自体は叶ったんじゃがな」
「そうでしたか。と言うことは帰りも?」
ソフィアの言葉を聞いて納得がいったのか、ファラが頷く。
「その通りじゃ。最終的には二、三十人は連れて行きたいと考えておってのぅ」
「それは結構な重労働になりそうですね……」
ソフィアの言葉に、ファラが僅かに目を見開く。
流石に予想より人数が多かったのだろう。
苦笑を浮かべながら空を見上げている。
「そ、そうだよな? な、なあ、やっぱり村作りはゆっくりでも良いんだぞ?」
俺自身は村作りはゆっくりでも良いと考えているのでそう助け舟を出すが、『何を言うか、あんな図面を見せられたらチマチマなんぞ出来んわい!』そう言って即座に否定されてしまった。
……くすん。
「のう、ファラや? 山越えは休みながらでも構わんのじゃよ。協力してもらえんかの?」
「あ、休めるなら全然大丈夫ですね」
「本当かの!」
ファラの言葉にソフィアの瞳が輝く。
あ、そうだよな。行きと違い、帰りはこちらのペースで飛べるんだ。
そこを失念していた。
それなら俺も賛成だ。ファラ達に負担が掛からないなら、お願いしたい。
アリシアの為にも、屋敷は完成させたいからな。
「ええ、それではお知り合いのドワーフの方々との話が終わるまで、お待ちした方がよろしいでしょうか?」
「いや、それじゃとしばらく待ってもらう事になるかも知れんからの、一度ファラたちには里に戻ってもらって、後ほど迎えに来てもらいたいのじゃよ」
「それでしたら、我らから一人伝令役として待機させましょう」
「母様、それでしたら私が残ります。カイト様にはフィアを助けていただきましたし、少しでもお力になりたいです」
「分かりました。ですがリファ、くれぐれも無理をしてはいけませんよ?」
「はい、母様」
リファの言葉を聞いて頷いたファラは、立ち上がり俺へと向き直る。
「それでは、我らは一度里へ戻ります。子供達も安心させたいので」
「そうじゃの、子供達はここに長く居たくないじゃろうしの」
ソフィアの言葉にファラが頷く。
そうだな、俺もその言葉には賛成だ。
フィアたちをいつまでも拐われた場所に置いておきたくない。
「分かった。それと、俺と同じ人族が心労をかけてしまい申し訳なかった」
俺が頭を下げると、ファラはゆっくりと首を振った。
「カイト殿のせいではないことは重々承知しておりますから。それに、貴方は孫や里の子供達を救ってくださいました」
そういってファラは穏やかに微笑む。
「ですので、どうかお気になさらないでください。リファもそうですよね?」
「はい。あの時は、いっぱいいっぱいになってしまっており、お恥ずかしい姿をカイト様にはお見せしてしまいました」
「娘が拐われたんだ、仕方ないさ」
「そう言って頂けると助かります。改めて私からも、娘のフィア、それと里の子供達を助けてくださり、ありがとうございました」
「堂々巡りになりそうだな」
「ふふ、そうでございますね」
だが、その言葉に肩の荷が降りたのは事実だ。
なので、俺は素直に感謝を受け取り、ファラ達には俺の謝罪を受け取ってもらった。
「ではリファ、何かありましたらお願いしますね」
「かしこまりました、"長"」
話がまとまり、ファラは子供達へと声をかける。
「さあ子供達、帰りますよー」
「「「はーい!」」」
元気よく返事をする子供達の表情に怯えた様子はもうない。
心の傷にならなかったようで、良かったとホッと胸を撫で下ろした。
いや、そうとも限らないな。この子達が酷い目に遭わないように、対策をこれから考えないとな。
そんな風に思っていると、フィアがこちらに駆け寄ってくる。
「カイトおにいちゃん!」
「ん?」
そう言えば俺の呼び名が『カイトー!』から『カイトおにいちゃん!』にランクアップしているな。
嬉しいので訂正はさせないが、もう『お兄ちゃん』という年齢(実年齢四十二歳)では無いので少しだけこそばゆい。
「はやくかえってきてねー!」
「ああ、分かったよフィア」
「えへへ〜」
そう言って嬉しそうに笑うフィアはファラの元へと戻っていった。
リファも元気に飛ぶ娘の姿に嬉しそうにしている。
その様子を見届けた俺は、『次元収納』から数日分の食料と飲み物が入った亜麻袋を取り出し、リファへと持っていく。
「じゃあ、リファ。悪いが頼む。数日分の食料を入れておいた」
「はい、確かに」
「もし危険に遭遇したら、俺たちの事は気にせず里に戻ってくれ」
「はい、かしこまりました」
リファは俺の言葉を聞き、頷いて袋を受け取った。
「では、私は山と山の間に隠れられそうな場所がありましたので、そこで待機させて頂きますね」
「ああ、頼む」
「カイト様は指笛は吹けますか」
「ああ」
昔、職場内で指笛が流行った事があったので、実は吹けたりする。
「では、私を呼ぶ際は指笛を吹いて頂ければと思います」
「承知した」
「では、カイト様。また後ほど」
「ああ、気を付けてな」
こうして、俺の言葉に頷いた後、リファは山と山の間へと飛んでいき、身を隠した。
さあ、本来の目的を遂行しよう。
「さあ、行こうかの」
「ああ、ドワーフの里へ向かおう」




