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五十二話「フィアの治療」


 子供達全員の首輪の解除を行った後、俺たちは小屋から離れ、休める場所を探す。

 小屋にはまだ商人が気絶しているし、あそこにはフィア達を居させたくない。

 ソフィアもファラも同じ考えのようで、少しでも落ち着ける場所が良い。


「あの辺りはどうでしょうか?」

「うむ、木陰になっておるし、死角もある。良さそうじゃの」

「よし、じゃあそこにしよう」


 二人が提案した場所に移動する。

 ソフィアが『魔法収納(マジックボックス)』から大きな布を取り出し、そこにフィア達を休ませた。

 俺も『次元収納(アイテムボックス)』から加工された細い木の棒を何本か、それと藁で編んだ糸を取り出す。

 フィアの折れた翼を矯正するためだ。

 痛そうに翼に触れるフィアに近づき、目線を合わせる。


「フィア、これから少し痛いことするが、俺を信じてくれるか?」

「いたい……の……?」

「ああ、痛い。でも痛いのは一瞬だ。その後は楽になるから」

「か、カイト殿? 一体、フィアに何を?」

「翼の矯正を行うんだ。このままじゃ変に治っちまうからな」

「矯正……?」


 俺はファラの戸惑いに気付かないフリをし、折れ曲がったフィアの翼に触れ、矯正を行った。


「___!?」

「もう一本行くぞ、我慢してフィア」

「か、カイト殿!?」


 矯正の意味を理解したファラが俺を止めようとするが、俺は意に介さず、『鑑定眼』を使用して、残りの折れた翼を矯正していく。


「あぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「カイト殿!!」


 あまりの痛みにフィアが声を上げ、ファラが俺を地面に押さえつける。

 でも、矯正は終わった。

 後は固定するだけだ。

 俺は、ファラに押さえつけられてしまい動けなくなってしまったので、近場にいるソフィアに固定をお願いする。


「ソフィア、そこの木の棒と藁糸(わらいと)で固定をしてやってくれ。俺はこの通り動けなくなっちまったから」

「うむ、分かったぞぃ。さあ、フィアや動かして痛くならないように固定するぞい」

「う、うん」


 俺の指示に従い、ソフィアが慣れた手つきで、翼を固定していく。

 ちなみにフィアはキョトンとした顔をしている。

 どうやら、元の位置に翼が戻り、痛みが緩和したみたいだな。

 それを見ていたファラが、フィアに尋ねる。


「フィア、痛くないのですか……?」

「う、うん! もういたくないよ。ばあば!」


 涙こそ残っているが、先ほどの表情とは全く違い、落ち着いている。

 そして何より、ありえない方向へ折れ曲がっていた翼が元の位置へ戻っていた。


「も、もしかして」


 そこでようやくファラは気付いたようだ。

 俺がフィアを傷付けたのではなく、治療していたのだと。

 慌てて、ファラが俺の上から離れた。


「も、申し訳ありませんカイト殿」

「はは、良いさ。勘違いするのは分かってたからな」

「そ、そうなのですか?」

「ああ、骨の矯正は大抵痛がるからな」


 そう言って俺は笑う。

 こうなるって分かっていたので、フィアには悪いが矯正を急いだのだ。


「よし、とりあえず応急処置は完了だ」


 そう言って、ファラからフィアへ視線を移す。


「フィア、少し辛いかもしれんが、一ヶ月くらいは安静にしてな?」

「あんせい?」

「じっとしてるって事だ」

「そら、とびたい……」

「飛ぶのは痛いのが無くなってからだな」

「いま、あんまり、いたくないよ?」

「今はな。でも動かそうとしたら痛みが出るから、治るまでは我慢だ」

「うぅ……」


 不満そうに頬を膨らませるフィア。

 その様子に苦笑いし、『次元収納(アイテムボックス)』から『陽果実(サンピーチ)』を取り出してフィアに渡した。


「そんな顔すんな。治れば飛べるからな」

「さんぴーちだ! えへへ〜」


 無事な方の翼___翼人族特有の翼手(よくしゅ)で支えながら受け取るフィア。

 さっきまで泣いていたのが嘘みたいだ。


「良かったですね。ほら剥いてあげますから貸してごらんなさい」

「うん! はい、ばあば!」


 片翼だと食べづらいので、ファラが補助に入る。

 二人とも今は穏やかな顔になっているので、俺もほっとした。

 と、そこでソフィアが思い出したように言う。


「そういえばカイトや?」

「んあ?」

「お主、『雫草(ドロップリーフ)』持っておらんかったかの? アレなら折れておっても綺麗に治ったんじゃぞ」

「え……」


 俺はすぐに『次元収納(アイテムボックス)』内にある『雫草(ドロップリーフ)』を取り出し、詳細を確認する。


「あ、回復効果の高い薬草花って書いてあった……」

高位回復薬(エクスポーション)の原料じゃからのそりゃそうじゃ」

「……」

「……」


 俺とソフィアの間に微妙な沈黙が流れる。

 すると、俺の肩がツンツンと叩かれた。

 振り返ると、微笑んだフィアがにっこり。でも圧がすごい。


「おにいちゃん?」

「あ、いや、そのだな……」


 冷や汗が流れる。

 俺は誤魔化すように、『雫草(ドロップリーフ)』の雫で出来ている花弁(はなびら)をフィアの口元へ移動させる。


「ほら、口を開けて」

「むう〜……あーん」


 フィアは頬を膨らませながらも、口を開く。

 俺は頬を掻きながら『雫草』の花弁を一枚摘み取り、そのままフィアの口へと入れる。

 すると、花弁は淡い光となりフィアの身体へと溶け込んでいった。


「わあ……!」


 フィアの身体が淡い輝きに包まれ、傷ついていた翼の修復が始まる。

 時間にして三十秒ほど。

 光が収まると、翼は完全に修復されていた。

 俺が添木(そえぎ)を外し、フィアは恐る恐る翼を動かす。


「いたくない!」


 その声と共に、大きく翼を広げる。

 どうやら痛みはないようだ。

 嬉しそうに翼を羽ばたかせる様子に、ファラ達も安堵の表情を浮かべている。


「良かったですね、フィア」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべるフィアだが、彼女の翼手が俺の頭を叩く。

 ぽかぽかぽか。


「い、痛いぞフィア」

「いたかったのは、ふぃあ、だもん!」

「そ、そうだな」


 こればかりは俺が悪いので、甘んじてお叱りを受けた。

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