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五十一話「救出作戦」


 ファラたち翼人族の協力を得た俺たちは、森林を抜け、谷を渡り、山脈越えを行っていた。

 約一時間ほど飛び続けた頃。

 ファラの額には汗が滲んでいた。

 里を出てから休みなく飛び続けているのだ。やはり負担はあるだろう。

 そこで俺は身体強化の応用で、ファラの翼へ魔素を流し込んでみることにした。


「ん……?」


 淡い光が翼を包み込む。

 ファラは驚いたように翼を見下ろした。


「カイト殿これは……?」

「いや、かなり辛そうだったからさ。飛ぶ補助みたいな事が出来ないか試してみたんだ」

「こんなことができるなんて……やはりあなただけが特別なんですね。カイト殿だけを信じていればよかったです」


 そう言って後悔の見える表情で、ファラは呟いた。


「そんな事はねえさ……どう考えても、騙す方が悪い」

「……」

「いや、違うな。今回の事は俺にも責任がある。あの時見逃さなければ、今回の事は起きなかった」

「カイト殿……」


 そう、俺にも責任がある。

 崩落した洞窟から出た時、脅威にならないと判断して見逃した。

 あの時の連中はルド達を酷使し、自分達だけ助かろうとしていた。

 助ける価値があるとは思えなかった。

 だから、いずれ禁域区域の厳しさを知り、救助が来るまで洞窟へ戻るだろうと思っていた。

 その考えが甘かった。

 だが、後悔しても、過去の出来事が変わるわけではない。

 俺は気持ちを切り替えた。


「ぐだぐだ考えても仕方ないな。とにかく、今は急ごう」

「はい、必ずあの子たちを連れ帰りましょう」


 それからしばらく飛んだ俺たちは、ようやくドワーフの里周辺にたどり着いた。

 視界の先に大きな集落が見える。おそらくあそこだろう。


「あれだな。さあ行こう」

「はい」


 そう思って踏み出したが、ふと視界に映ったマップに、小さな小屋の表記が見えた。


「ん……?」


 思わず足を止める。

 集落が側にあるのに、こんな場所に小屋?

 位置関係的になんかおかしい気がした俺は、側にいるファラとソフィア、それと攫われた子供達の親に伝えた。


「すまん、こっちに行くぞ」

「カイト殿? 集落はあちらですが」

「ああ、でも、この先に小屋がある。なんか気になるんだ」

「で、ですが……」

「安心せい、こやつの感は良く当たるでな。とにかく行ってみようの」

「すまんな。見過ごしたら後悔する気がするんだ」

「分かりました。では行きましょう」


 ファラと子供達の親が頷いたのを確認した俺は、小屋のある方角へと進む。

 降り立った平野から歩くこと数分、目的の小屋が見えてくる。

 その小屋は、地面から露出した岩肌と斜面に隠されるように建っていた。

 まるで人目を避けるようにして建てられている。


「怪しいな……」


 俺は『鋼鉄剣(アイゼンシュタール)』を出現させ、ゆっくりと近づいていった。


「本当にこんな場所に……」


 ファラも本当にあるとは思わなかったのか、他の子供達の親と一緒に驚いている。

 俺はそれを横目に、さらに小屋へ近づき、中を伺う。

 すると中から声が微かに聞こえた


「や、やめてよぉ……いたいよぉ……」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は小屋の扉を蹴り破っていた。

 中にいた男達が固まる。


「な、なんだ貴様!」


 そんな風に尋ねてくるが、俺はフィアの様子を見た瞬間、理性の糸が千切れる。


「な、な、なん___グア!?」

「おい」


 俺は尻餅をついて後退した男の顔面を掴み、頭上へと無理やり引き摺り上げる。


「ガッ!? グァぁぁぁぁぁぁ!?」

「てめえ、誰に手を出してやがる」


 そう言って、指に力を込めていく。

 ミシ、メキッと指先に伝わり、男の頭蓋が軋む感触が伝わってきた。

 だが、それでも、俺はやめない。


 フィアの翼がありえない方向へ折れ曲がっていたからだ。

 ソフィアとファラ達がフィア達に近づき、介抱を行う。

 するとそれを見ていた貴族風の男が、懐からリモコンのようなものを取り出した。


「こ、この! 儂の奴隷達に近づくで___」

「死にてえのか___?」


 リモコンを操作しようとした貴族風の男へ殺気を飛ばす。

 空気が震え、軋み、余りの圧に小屋の木壁に亀裂が走った。


「ひ、ヒィぃぃぃぃぃぃ!?」


 俺の殺気を受け、リモコンをその場に残し、外へ逃げ出す貴族風の男。


「し、……シタン……ざ、ま……!…?……」


 激痛に苛まれながらも、指の隙間から自分の雇い主が逃げていったことに気づいたのだろう、そう呟きを漏らす男。

 だが、俺にとっては関係ない。

 更に指に力を込め、次弾として力の限り地面へと叩きつけた。

 地面が砕けクレーターが出来る。


「ガッ___ハッ!」

「……」


 白目を剥き、そのまま気を失う男。

 それを確認した俺は、男の顔面から手を離し、立ち上がった。

 飛んでいた理性もだいぶ戻る。


「か、かいと…おにいちゃん……?」

「フィア……遅くなってごめんな」

「おにいちゃん……おにいちゃん!」


 そう言ってフィアの瞳から大量の涙が零れ落ちた。

 今まで必死に耐えていたのだろう。

 怖かったはずだ、辛かったはずだ。

 俺は縋り付いてくるフィアを優しく抱き止め、ゆっくりと背中を撫でた。


「こ、こわかったよぉ……」

「もう、大丈夫だからな」

「うんっ」

「翼、痛むか……?」

「いたい……よ……」


 フィアは涙を浮かべながら頷いた。

 俺は大丈夫だと、落ち着かせる。

 だが、直ぐに治療してやりたいが、まずは安全を確保しなければならない。


「もう少しだけ、痛いの我慢できるか?」

「……うん」

「いい子だ。我慢出来たら後でご褒美をあげるからな?」

「ほんと?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、がまんしゅる」


 フィアの言葉に微笑んだ俺は、彼女の首元に嵌められた黒い首輪が目に入る。


「……これがファラ達の言っていた首輪か」


 視線を横へ向ける。

 そこには先程、貴族風の男が落としていったリモコンが転がっていた。


「まさか、これで操作していたのか……?」


 鑑定眼を使用し、リモコンの詳細を確認する。

 すると、やはりフィアのつけている首輪と連動していることがわかった。

 視線をフィアのつけている首輪に向けると、今度は解除方法が記された。


「良かった。解除できそうだ」


 鑑定眼の指示に従い、首輪の解除を試みる。

 首輪の側面には、赤と青と緑のボタンのようなものがあり、その脇に魔素の形跡があった。

 リモコンからは、青のボタンへ魔素が流れているように見える。

 どうやら当たりのようだ。

 俺は『次元収納』からソフィアに作ってもらった小型のナイフを取り出し、ボタン横の線を切り落とす。

 すると、カツンと言う音を鳴らし、首輪が地面へと落ちた。


「よし、これで大丈夫だな」

「くびわ……くびわ、とれた!」


 フィアは自分の首を何度も触る。

 そして再び俺へ飛びついてきた。


「おにいちゃん! あぅ、い、いたい」

「だ、大丈夫か? ほら、無理はするな」


 そう言って俺はフィアを優しく抱き止め、他の子供たちへ視線を移す。

 子供達の首輪にも同じ魔素の流れが見えるので、解除方法も同じはずだ。

 俺はソフィアとファラたちに指示を出し、子供たちの首輪の解除をお願いしたのだった。


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