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間話「悪意」


 カイトがフィア救出の為、翼人族の里を離れた頃___。


 大陸北西部にあるドワーフの里では、勇者の国から来た貴族が一月程、音信不通となっていたお抱えの商人と話をしていた。


「グラウスよ、色々と難儀な思いをしたようではないか」

「ええ、使えない鉄いじりのせいで、とんだ目に遭いましたわ」


 雇い主である貴族の男に、肩を竦めながらそう話した男の名はグラウスと言い、中立国では禁止されている奴隷売買を生業にしている商人だった。


「洞窟崩落の知らせを聞いた時は焦ったが、こうして戻ってくるとは大したものよの」

「ふふ、恐れ入りますシタン様」


 そう言いながらもグラウスは思う。

 洞窟の崩落……あれさえ無ければ、今頃は禁域区域の希少素材を抱えて帰路についていた筈だった。

 まったく、こう言う時の為にドワーフを連れて行ったと言うのに、穴掘りすらろくに出来ないとは、本当に使えない奴らであった。

 そう毒ずく。

 自分達は禁域の魔物に手も足も出なかったと言うのに。


「かっかっか! ランディの連中も散々反対しておったが、聞いたぞ? 無事、レア物を手に入れたのであろう?」

「ええ、わたしの十八番ですよ? 口先八寸は」

「クックック、そうであったな!」

「ええ。あの姫騎士も『禁域区域には近付かないで下さい』などと五月蝿い事をほざいておりましたが、無視して正解でしたよ! あれだけの資源を奴隷民に持たせておくなど勿体なさすぎます!!」

「かっかっか、そうであろう、そうであろう!」


 そう言って二人は嘲笑する。

 小国ランディは禁域区域との緩衝地帯であるドワーフの里を重視していた。

 この二人は別大陸にある勇者の国の人間で、人族至上主義を掲げているが、中には小国ランディのように亜人に理解を示し、友和を結びたいと本気で思っている中立国もある為、この貴族が提示して来た計画に最後まで異議を唱えていたのだ。

 話に出てきた小国ランディの王族である姫君も異議を唱えていた内の一人である。


「しかし驚きましたぞ」

「何がだ?」

「鳥共ですよ」


 グラウスは堪えきれないと言わんばかりに吹き出し、伝える。


「勇者様が魔王を倒して以来、奴隷ど……おっと、失言! 亜人(・・)でしたな!」

「かっかっか! ここには儂とお主しかおらん、奴隷どもで構わんぞ」

「クックック、ではそのように。で、その奴隷どもは人族を蛇蝎(だかつ)の如く嫌っていると聞いておりましたよな?」

「うむ、儂もそう聞いておる!」

「だからこそ驚いたのです!」


 洞窟の崩落により、食料は底を尽きかけていた。

 護衛の冒険者達も疲弊し、誰もが死を覚悟していた。

 そんな時に見つけたのが翼人族の里だった。

 聞いていた通りなら、我らを見捨てていてもおかしくない。

 なのに奴らと来たら、

 グラウスは堪えきれないと言わんばかりに笑い主人へと伝える。


「鳥どもは、私らに食料を与え、寝床まで用意したんですわ! 全く仰天でしたわ!!」

「ほう? それはまた、興味深い話であるな?」

「ええ、聞いていた話と違いますからな! しかもですぞ? 鳥のボスが『全ての人族が悪い訳ではないですから……』などと申しておりましたわ!」

「かっかっか! それで信用したか!」

「ええ。お陰で随分と楽をさせて頂きましたわ!」


 そう言いながら醜悪に笑うグラウス。

 グラウスは、翼人族の里に滞在する中で里の様子を常に観察していた。


 見張りの位置、食料の保管場所、誰がボスで、誰が発言力を持つのか。

 そして、どの子供を連れて行けば従わせやすいか。


「そして頃合いを見て子供を連れ出したという訳だな?」

「ええ。流石に親共が騒ぎましたのでな、首輪を使わせてもらいましたわ」

「クックック! 構わね構わぬ。あれは便利な代物だからな!」

「フフフ、まったくです。少し痛みを与えるだけで大人しくなりますからな」


 グラウスは酒を口に運ぶ。


 首輪の苦痛に顔を歪める翼人族の子供達を思い出して、思わず口角が上がる。

 奴隷共が苦しむ様はいつ見てもいい物だ。

 しかし大事な商品なので、理性を抑え込むのが大変だったと嗤う。


「しかし山越えは骨が折れたであろう?」

「ええ。子供共ですからな。何度も足を止められましたわ」

「かっかっか! 泣き喚いたか?」

「それが、一羽だけ妙に威勢の良い鳥がおりましてな」

「ほう?」

「自分も満足に飛べぬ程弱っているというのに、他のガキ……っと子供達の面倒を見ておりましたわ」

「かっかっか! 馬鹿な鳥だ!」


 何がおかしいのか、だが、シタンは腹を抱えて笑う。


「自ら家畜の世話役を買って出たようなものではないか! 本当に傑作だ! 全くその場面を見たかったぞ!」

「クックック。残念でしたな。ですが、ええ。本当に殊勝な鳥でしたわ」


 二人は愉快そうに、酒の入ったグラスを傾け、嗤い合う。

 するとそこで、シタンがグラウスに問いかけた。


「ところで、その威勢の良い鳥はどうしておるのだ?」

「ちゃんと鎖に繋いで、逃げられぬようにしております」

「かっか! では、儂が買い取るかの!」

「おお! お買い上げありがとうございます」


 そう言ってシタンは醜悪に口元を歪める。

 脳裏には、想像もしたく無い方法で、子供達を痛ぶる光景が浮かんでいるようだ。

 そしてそれを見ていたグラウスも、笑みを歪める。

 どうやら、二人にとって日常的な事のようだ。


 そしてその頃、当のフィア達はと言うと___。

 ドワーフの里の外れにある小屋の中で、肩を寄せ合うように身を縮めていた。


「ふぃあちゃん」

「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ」


 不安そうな声に答える。

 フィアだって怖いはずなのに、涙を湛えつつ笑った。

 みんなを安心させるように、自分に言い聞かせるように。


 大丈夫。きっとカイトお兄ちゃんが助けに来てくれると。

 そう信じて他の友達へ言葉を伝えた。


「ほ、ほんとぅ……?」

「ぅん、だいじょうぶ。かえれるよ」

「わ、わかったぁ」


 そう言って友達を抱きしめ、自分の中の恐怖を追い出す。


「(まま、ばあば……こわいよぅ)」


 でもやはり怖いのだろう。

 友達を抱きしめる翼は震えていた。


「(かいと、お兄ちゃん……たすけてよぉ)」


 だが、その願いも虚しく、小屋の扉が開く。

 そして、聞こえてくる足跡。


「っ……」

「ふぃ、ふぃあちゃんっ」


 その音を聞いた瞬間、フィア達の表情は恐怖に染まっていた。


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