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四十九話「蝶たちの楽園計画②」


 アリシアとリュノを屋敷に残し、早速ドワーフの大工房へとやってきた俺はソフィアとドムを探す。

 ドワーフの大工房は『鍛治』『彫金』『木工』『革裁縫』『調合錬金』と大きく五つに部屋分けされており、ソフィアとドムは『調合錬金室』の『炉釜』の前で作業を行なっていた。

 側には木桶に入った灰色の砂。

 もしかして本当に出来たのか? 俺は確認のため、二人に声を掛けた。


「おーい、ソフィア。ドム」

「おお、カイト。ちょうど良かった」

「うむ、試作品じゃが、出来たぞい見てみてくれんかの?」


 そう言って白っぽい塊をソフィアが手渡してきた。

 おお、これは確かにコンクリートだ。懐かしい手触りに何度も表面を撫でる。

 前世では当たり前のように目にしていた物だが、こうして異世界で目にすると、妙な気分になるな。


「どうだ、カイト?」

「ああ、間違いない。ちゃんとコンクリートだ」


 俺がそう言って頷くと、ソフィアとドムは顔を見合わせて嬉しそうに破綻した。


「しっかし、本当に岩を焼いただけでここまで強度のある塊が出来ちまうとはな」

「しかも、水の分量を調節すると、固まるまでの時間が変わるようじゃ」

「ああ、そこがコンクリートの良いところだな。混ぜたら粘り気のある土に変わっただろ?」

「うむ」

「あの状態なら、木枠で作った型にも流し込めるし、壁にも塗れる。石を積むだけじゃ作れない形も作れるんだ」

「それは凄いの、人の国で流通しとる『強化粘土』より遥かに効率が良いの」

「『強化粘土』?」

「鉄粉と粘土、砂を混ぜて作るものでの、人の国の城なんかによく使われておるんじゃよ」

「へえ、コンクリに似たものはあったんだな」

「うむ、じゃがの『鉄粉』を削り出すのに手間がかかるんで、時間が掛かるんじゃよ」

「その点、この『こんくりーと?』は短時間で作れるし、手間もないからな! マジで大発見なんだカイト!」


 そう言って、ドムは興奮した様子で俺が持つコンクリートの塊をいろんな面から観察する。

 ソフィアも何度も頷いており、二人ともすっかり夢中になっているようだ。


「はは、気に入ってもらえたんなら良かったよ」


 俺はそんな様子のドムにコンクリートの塊を渡し苦笑した。

 どうやら二人の反応を見る限り、実用化に問題はなさそうだ。

 コンクリの件もなんとかなりそうだし、この辺りでアリシアの庭の件を聞いてみるか。


「っと、悪い、実は別件で二人に相談したいことがあって来たんだ。取り敢えず、コンクリの用途は二人に任せるんで、話を聞いてもらえるか?」

「お、そうだったのか。なんだ?」

「また斬新なアイデアでも思いついたんかの?」

「はは、まあそんな所だ。ソフィア、何か書く筆みたいなもんてあるか?」

「筆かの? ちょっと待っとれ」


 そう言って、ソフィアは描くものを取りに、一度この場から離れた。

 その間、俺はガルドから受け取った『羊皮紙』を広げ、ドムに軽く説明する。


「今さ、俺の屋敷の裏手に庭を作ろうとしてるだろ?」

「ん? ああ、あそこか。まだ具体的な案が決まってなくて保留にしてる庭だな」

「そう、そこだ。でだ、その庭をアリシアが鑑賞できる『精霊蝶たちの庭』みたいにしたいんだよ」

「ぬ? ああ〜! もしかしてアリシアの嬢ちゃんの虫籠を見てアイデアが浮かんだかっ?」

「はは、その通りだ。俺たちも鑑賞できるように、庭の外周は通路にして囲ったり、各部屋に蝶が来れたりできるように敢えてガラスで塞がなかったりさ」

「おお! そりゃ良いな!」


 俺の話を聞き、頷き返してくれるドム。


「ほれ、持ってきたぞい。で、何を描くんじゃ?」


 と、そこでソフィアが戻ってくる。

 手には筆と、小さな墨壺の容器が握られていて手渡される。


「図面だ。ちょっと待っててくれ」

「お、『羊皮紙』を手に入れたんじゃな。納得じゃ」


 そう言って、ソフィアが俺が筆を走らせている図面を覗く。

 まず描いたのは、屋敷の簡単な見取り図だ。

 なるべく今の状態を維持しつつ、本館、控え室、大浴場、ソフィアの工房、アリシアの部屋を描き込んでいく。


「ふむ」


 ソフィアとドムが黙って見守る中、俺は更に裏庭の部分へ線を描き足した。


「ここの庭だが、まずは外周をこんな感じの通路で囲うんだ」


 さらさらと筆を走らせながら説明を加えていく。


「中央は精霊蝶たちが自由に飛び回れる庭園。植林も考えてるから、『幻想の森』からいくつか良さげな木を見繕ったり、花を植えたり、水場なんかも作りたい」

「なるほどの」

「で、俺たちはこの通路を歩きながら蝶を眺められるようにするんだ」

「ああ、それでこの見取り図なのか! こりゃ面白え」

「うむ、ドワーフの血が騒ぐのぉ」


 ドムが顎下の髭を触り、ソフィアが腕を組みながら頷く。

 どうやら賛同してくれたみたいでホッとする。


「正直、客人であるソフィアやドムにここまで頼むのは気が引けるんだが、アリシアの為にも実現してやりたくてさ」

「ん? ぬははははは! ああ、気にすることぁねえ! ぶっちゃけると、里に戻れたとしても、俺はここに住みたいと思ってるからな!」

「いいのか?」

「ああ、こっちで、村づくりしてる方がはっきり言って楽しいからな! 兄貴も親父も同じだと思うぜ? 当然ソフィアもだよな?」

「もちろんじゃ。というか、今客人扱いされて、少し悲しかったわい」

「わ、悪い! でも、そうか。ありがとう」


 そう言って頭を下げる俺。

 正直、こう言ってくれて助かった。俺一人では不可能に近かったからだ。

 本当、二人の心の深さに感謝する。


「ふむ、となると、やはり人手が欲しいの」

「そうだな、あと二、三十人は欲しいぜ」

「うむ」


 そう言って何やら思案顔になるソフィア。


「やはり、一度里へ行きたいのう、話せば喜んでついてくる知り合いはいそうじゃ」

「そうだな。しかし崩落がなあ」


 まあ、確かに人手は必要だよな。

 俺自身はゆっくりでもいいと思っているが、二人はそうでも無いらしい。

 となると何か手はないだろうか? 洞窟を通らずにドワーフ達を連れてくる方法。

 そこで、ふと、フィア達、翼人族の事を思い出した。

 子供のフィアでも、俺を掴んで、峡谷の谷底から引き上げる力を持っていた。

 彼女達に頼めば、山を越えることができるんじゃないか? 早速提案してみる。


「なあ、翼人族(ハーピィ)達に運んでもらうのはどうだ?」

「ぬ?」


 俺の提案にドムが一瞬固まる。

 やっぱり距離もありそうだし無理があるか? そんな風に思ったが、ソフィアが豪快に笑って背中を叩いた。


「それじゃあ! ナイス案じゃぞカイト! ハーピィ達は風を操って飛ぶエキスパートじゃ! ワシらドワーフを掴んで山越なんぞ、お手のものじゃ!」


 良かったどうやら可能らしい。


「確かにそうだな。カイト、飛竜を倒した時にハーピィに世話になったって言ってたな? 頼めそうか?」

「ああ、多分協力してくれると思う。明日あたり、聞きに行ってみるか」

「そうじゃの!」


 こうして方針が決まり、明日の朝一でソフィアと一緒に翼人族の里へと向かう事になった。

 四日振りくらいだが、フィアにも会えるし、とても楽しみになってきた。


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