四十八話「蝶たちの楽園計画」
早速アリシアに会う為、改装中の我が屋敷へと足を踏み入れる。
元はよろず屋だったと言うのに、今では立派な屋敷へと様変わりしている。
因みに原型は残っていた。
屋敷の門をくぐり、木の大扉を開けると正面右側にある控室(守衛室にするらしい)、そこが元よろず屋だ。
ちゃんと三階建てのまま残っており、屋敷の二、三階部分の通路と合体していた。
「マジで豪邸になって来てないか……こんなに立派になっちまって落ち着かないぞ」
出来れば、そのまま元よろず屋で寝泊まりしたい。
ここは俺の屋敷みたいだし、どこで寝ても自由な筈だよな。うん、そうしよう。
「っと、アリシアのところに行くんだった」
若干現実逃避をしてしまったが、本来の目的を思い出す。
アリシアの部屋は一階の左端に用意してあるので、そこまで歩いていく。
左前方には大浴場がある。
アリシアの部屋の脇に屋根付きの通路があり、そこから大浴場へ繋がっているのだ。
因みにソフィアの鍛治工房はその隣にあったりする。
そうして歩いている内に、アリシアの部屋へとたどり着いたので、扉をノックし声をかけた。
「来たぞアリシアー?」
すると、部屋の中から『ごしゅじんっ』と声が聞こえ、ててて、と足音がしたのち扉が開かれた。
「ごしゅじんっ、ごしゅじんっ!」
「お、とと」
扉が開かれると、アリシアが姿を見せ、俺の手を掴んで中へと招き入れる。
そして、大きな虫籠の側まで連れて来てくれた。
俺はその虫籠を見て、軽く感動する。
「こりゃ凄いな」
「ちょうちょさんと、むしさんの、あたらしいおうちですっ」
大きさは高さが二メートル、横幅が三メートルほどある虫籠。
虫籠と言うより、樽籠と言ったほうがいいかも知れない。
以前の虫籠と同じように、中は小さな庭のようになっており、数匹の精霊蝶と雷光兜が、以前より広くなった住処を楽しむように飛び回っている。
「なんか、ワクワクするなアリシア?」
「はい、ですっ」
見ていると楽しい気分になってくる。
前世の番組なんかでクワガタやカブトムシが好きで、大きな水槽で飼育している芸能人なんかがいたが、こんな気持ちだったんだろうか。
「(そういやあの芸能人、最終的にはあたらしい家丸ごと、虫達の楽園にしてたんだよな)」
あの時、少しだけ羨ましい気持ちがあった。お金に糸目を付けず、自分の趣味に全力になれる芸能人に。
そういや、あの番組がきっかけで、戦艦模型なんかを集め出したんだよな。
「(安物だけど)」
そんな風に考えながら、アリシアの部屋から外を見渡す。
そこはルド達ドワーフが、庭にしようとしているのか、手入れ途中の囲いがあった。
「ふむ……」
この庭、いっその事、精霊蝶とかを鑑賞できる『飼育エリア』にしたら良いんじゃねえか?
その方が蝶達ものびのび過ごせるだろうし、アリシアも喜びそうだ。
うん、我ながら良い考えな気がしてきた。
と言うことで聞いてみる。
「なあ、アリシア? この庭、ちょうちょさんたちのお家にしちゃおうか?」
「ちょうちょ、さんの、おうちです?」
「ああ、こんだけ広ければ、いっぱいのちょうちょさんが見れるぞ?」
「わぁっ! いっぱい、ちょうちょさん、みれますっ!」
そう伝えると、アリシアの目が輝き出した。
なら決まりだな。
となると、ソフィアとドムのところに相談に行くか。
「ははっ、じゃあ俺は庭のことを伝えにソフィアのところに行くな?」
「はい、です! いってらっしゃい、ですっ」
「ああ、行ってくる」
俺の言葉を聞いて、嬉しそうに何度も頷くアリシアの頭を撫でた後、アリシアの部屋を後にする。
すると、部屋の中から『えへへ。ちょうちょさんのあたらしいおうち、ですっ』と聞こえてきたので、思わず俺の心もほっこりとした。
ああ、どうせなら植林もすると良いかも知れないな。
精霊蝶がいた『幻想の森』の木なんかがあれば、蝶達も過ごしやすい筈だ。
そんなこんなで、アリシアの部屋を後にした俺はその足でソフィアの工房へと足を運ぶ。
「おーい、ソフィアー?」
そう声を掛けるが、中から反応は無い。
もしかしたら、村の大通りに面した場所にある『ドワーフ達の大工房』の方にいるのかも知れない。
今いる場所はソフィアの専属工房だって言ってたからな。
「そっちをのぞいてみるか」
と言うことで、そちらの工房へ足を運ぶ。
屋敷を出て、村の大通りを歩きながら南西へと向かう。
すると、革鎧と得物を身に着けたガルド夫妻と出会った。側にはリュノも居る。
「あらカイトさん、村の進捗確認ですか?」
「まあ、そんなとこかな。今は少しソフィアに話があって大工房へ向かうところなんだ。ガルド達は狩りか?」
「ああ、久々に焼いた鳥が食いたくなってな」
「鳥?」
「この人ったら、ドムさんに良いお酒をもらったみたいで、おつまみが欲しいみたいなんです」
「ああ、なるほど」
リナに理由を聞き、思わず苦笑が漏れる。
確かに酒のつまみに焼いた鳥はかかせないからな。俺も焼き鳥は好きだし。
「それでですね、狩りの間、リュノを預かって欲しくて、アリシアちゃんはお屋敷に居ます?」
「ああ、アリシアなら屋敷にいるぞ。よし、ならリュノ? アリシアのところに行くか」
「うんっ!」
「良いのですか? 先ほどソフィアさんのところに行くって」
「ああ、そのくらいならリュノを送った後でも、全然大丈夫だ。あ、ただ、良かったら俺にも鳥を分けてもらいたいんだが、いいか?」
「ええ、全然構いませんわ。皆さんの分も取ってくるつもりですし。ね、ガルド?」
「ああ、元々そのつもりだからな。っと、そうだ。これをカイトに渡してくれと親父から頼まれてたんだった」
そういって、ガルドは馬体の革鞄から数枚の束になった『羊皮紙』を取り出し、渡してくる。
おお、念願の紙じゃないか!
今までは紙になるものが無かったから地面に書いていたが、これで書き残すことができる!
俺はありがたく『羊皮紙』受け取り、礼を言った。
「これは助かる。ありがとうガルド。ケンにも後で伝えておくよ」
「なら良かった。じゃあ、リュノの事頼むな。行ってくる」
「おう、気を付けてな二人とも」
「ぱぱ、まま、いってらっしゃいっ!」
ガルド達を見送った後、俺はリュノへ視線を向ける。
「よし、それじゃあアリシアのところに行くか」
「いこぉー」
リュノが元気よく頷き、俺の手を取って屋敷へと歩き出す。
こう言うところは友達だからだろうか、アリシアに似ている。
そんな風に思っていると、リュノが俺を見上げ話しかけてきた。
「かいと! ありしあちゃんのちょうちょ、みたー?」
「ああ、見たぞ」
なんせ、ついさっきまで精霊蝶の話で盛り上がってたからな。
リュノも加われば、さらに賑やかになることだろう。
そんな会話をしながら、屋敷の門をくぐり、数分前に訪れていたアリシアの部屋へとやってくる。
「アリシアー、ちょっと良いかー?」
そう声をかけると『ごしゅじんっ』と先ほどと同じ感じで部屋の扉が開く。
開いた扉の向こうから顔を覗かせたアリシアは、俺の隣にいるリュノを見つけると、パァッと表情を喜ばせ、駆け寄ってくる。
「りゅのちゃん、ですっ!」
「ありしあちゃーん!」
二人は楽しそうにはしゃぎ、部屋へと入っていく。
「ちょうちょさん、みたいっ!」
「はい、ですっ!」
アリシアは得意げに頷くと、リュノの手を取って部屋の隅にある樽籠へと引っ張っていった。
「こっち、ですっ!」
「わぁーっ!」
元気な声が部屋に行き渡り、すっかり楽しそうにしている。
二人揃って、仲良く樽籠にへばり付いている。
これなら大丈夫そうだな。
「じゃあ、アリシア。リュノと一緒にいてな? 村の外に出たらダメだぞ?」
「はい、ですっ!」
「リュノ、ありしあちゃんとあそんでるー!」
二人の返事を聞いて頷く俺。
さて、それじゃあ今度こそソフィア達のところへ向かうとするか。




