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四十七話「大収穫」


 どれほど時間が経っただろうか。

 洞窟の外から差し込む光が、ゆっくりと闇を押し退けていく。

 漆黒だった空は藍色へ変わり、その向こうから朝日が顔を覗かせ始めていた。

 洞窟の入り口付近に腰を下ろしていたガルドは、昇り始めた太陽を見上げる。


「もう朝か」


 夜の間は交代で火の番をしていたが、特に何事も無かった。

 焚き火の残り火を軽く弄りながら、ガルドはテントへ視線を向ける。


「カイト、起きろ。朝だぞ」


 中から返事は無いが、寝息は聞こえる。


「おい、カイト」


 ガルドはテントの隙間から中を覗き、声をかける。

 すると、もぞりと寝袋が動いた。


「んん……」


 気の抜けた声が反応する。

 ガルドは苦笑を浮かべながら伝えた。


「朝だ。帰るならそろそろ出発した方が良いぞ」

「……もう朝か」


 ガルドの声に、俺は目を擦りながら身体を起こす。

 大きく欠伸をしながらテントの外へ出ると、昇ったばかりの朝日が洞窟の入り口から差し込み、眩しく目に映る。

 冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 とても気持ちがいい。


「良い朝だな」

「ああ」


 日の出って、なんかこう、ワクワクするんだよな。

 現代にいた頃も、こういう景色は好きだったし。

 なんて言うか、ドライブ日和! 今だと、冒険日和! みたいな気持ちになるんだよなぁ。

 これって俺だけなんだろうか?

 と、そんな風に考えていると、横から干し肉と水を手渡される。


「ほれカイト、朝食だ」

「お、準備してくれてたのか、悪いな」

「良いさ、食ったら出るぞ」

「おう!」


 と言う事でガルドと共に朝飯を済ませた俺は、簡易テントの片付けを行い『山脈洞窟』を後にする。


 来た時と違い、荷物は大幅に増えている。

 主にガルドの荷物が、なんだが。


「大丈夫か? 何ならボックス内に入れても良いが」

「いや、これは俺の荷物だからな、自分のは自分で持ちたい」

「そうか、分かった。ただ、キツかったら言えよ」

「ああ、気にしてくれてありがとう」


 そう言って、隣を走るガルドは、馬体の両側に付けている革製の鞄や亜麻袋がパンパンに膨れ上がっているので、少し走りにくそうだ。

 俺自身は、『次元収納』のお陰もあり全く苦では無い。

 ただ、行きと違い、帰りは流石に自分で走った。

 荷物を持ったガルドに乗るのは流石に気が引けたんでな。


「しかし、本当にカイトの収納スキル、便利だな」

「ああ、俺もそう思う」


 正直、これが無かったら採掘どころじゃない。

 村の復興や開拓もずっと遅れていただろう。

 このスキルをくれた、あの爺さん神様には感謝しないとな。

 そんな事を考えながら山道を下っていくと、見慣れた平野が見えて来た。


「もう少しで村だな」

「ああ、しかし腹減った」

「確かに」


 村へ戻るのを優先した為、昼飯を取っていない。

 日も西に傾き始めているので、腹が減るのも当然だろう。


 次第に遠目で、村の外周の防柵が見えてくる。

 柵の側でドムが資材を担いでいるのが見えた。

 お、こちらに気付いたようだ。手を振っている。

 こちらも手を振り返す。

 すると、他の仲間たちも姿を見せ始めた。

 リュノとアリシアがこちらに駆けて来ている。


「カイト、スピードを上げるぞ!」

「ああ!」


 娘の姿が見えたからだろう、ガルドがペースを上げる。


「ぱぱ!」


 リュノが嬉しそうにガルドへ抱き付いた。


「リュノ、良い子にしてたか?」

「うん!」


 ガルドがリュノを優しく持ち上げ、肩に担いだ。

 お、もしかして、セントール流の肩車かこれ? リュノも喜んでいるし、『ままの所へしゅっぱ〜つ』と言っているので間違いなさそうだ。

 こうして親子が仲良くしてるのを見るのは良いもんだな。こっちまで嬉しくなる。

 っと、アリシアが駆け寄って来たので抱き上げる。


「おかえり、です! ごしゅじん!」

「ああ、ただいま、アリシア」

「えへへ」


 撫でつつ、返事を返すと嬉しそうに笑うアリシア。

 本当に可愛い。いや、可愛すぎる。

 こんな風に出迎えてくれるんだから、急いで帰って来た甲斐があると言うものだ。


「ん?」


 するとアリシアが、何か言いたそうにもじもじし始めた。もしかしてリュノみたいに肩車して欲しいのか?

 そんな風に思ったが、丁度現れたソフィアとドムへ視線を向けた。


「ごしゅじん。あとで、みせたいもの、ありますっ」

「お、何だろう?」

「えっと、でも、おしごと、さきです」


 そう言って一歩下がるアリシア。

 どうやら、何か見せたい物があるみたいだ。

 何だろうか? とても楽しみである。


「分かった。後で見せてくれな」

「はいっ!」


 アリシアとそう約束すると、嬉しそうにこの場を離れた。

 すると今度は、アリシアとすれ違ったソフィアが、挨拶を交わした後、ドムとやってくる。


「おかえりカイト。どうじゃ? 戦果は上々かの?」

「ああ、こんな感じだ」


 そう言いながら、ソフィアの前に『山脈洞窟』で手に入れた鉱石の山を出していく。

 まずは、目に付いた『金鉱石』『銀鉱石』『鏡鉱石』『竜水晶』からだ。


「ちょ、ちょ、ちょっと待つのじゃ!」

「ん? どうした?」

「ん? どうした? では無いわ!! いきなり希少鉱石を出すでない! ってなんじゃとぉ!?」

「お、おいカイト、こりゃあ『煌炎鉱石(こうえんこうせき)』じゃねえか……滅多に見つけられねえ鉱石だぞ」

「そうなのか? 結構あったぞ?」


 そう言って、今ドムが言った『煌炎鉱石』を筆頭に炎熱系統の鉱石達を出していく。

 『耐熱石』『火精鋼石』など。

 鉱石の山が増えていくにつれて、ソフィアとドムの口が塞がらなくなっていった。

 あまりにも驚きすぎると、こんな反応になるのだろうか。


「な、なあ、カイト? 出来れば希少鉱石じゃなくて、『鉄鉱石』が欲しいんだが、あ、あるよな?」

「そ、そうじゃぞ! さっきから希少石ばかり出しおって! 開拓に必要なのは『鉄鉱石』じゃぞ!」

「ああ、それなら大量にあるぞ」


 そう言って、希少鉱石の山の三倍はある鉄鉱石の山を出現させた。

 すると、ソフィアが驚きすぎた目から、遠い目へと変化させ現実逃避を始めた。

 ドムが、深いため息を吐きながら俺の肩をポンっと叩いて呟く。


「カイト、取って来すぎだ……もう一つ村が出来ちまうぞ……」

「いや、あれば困らないかと思って」

「そりゃあ、困らねえが……今の鉱石置場じゃ置き切れねえ。わりぃが、ふた山は戻してくれ」

「あー、なるほど。確かにそうだな。悪い、今戻す」


 ドムに言われ、確かに今の鉱石置場じゃ保管しきれない事に気づき、『鉄鉱石』の山二つを『次元収納』へと戻す。

 そして代わりに『石灰細岩(せっかいさいがん)』を取り出した。

 すると、遠い目をして現実逃避をしていたソフィアが戻ってきて、ポツリと呟いた。


「ん? 岩くれなんぞ出して、どうしたんじゃ? 記念に持って来たのかの?」

「いや、この岩な? 高温で焼いて粉にした後、水と混ぜると固まるんだよ」

「「……???」」


 そう説明するが二人とも揃って頭上に疑問符を浮かべる。


「んー? 石と石をくっ付ける糊みたいな物って言えば分かるか? 間に挟んで一日ほど置くと固まってくっ付くんだよ」

「……なんじゃと」

「それが本当なら……おい、ソフィア!」

「うむ! 直ぐに試すぞい!」

「え、今からか?」

「当たり前じゃ!!」

「そんな面白え事聞かされて動かねえなんてドワーフじゃねえからな!」

「そ、そうか」


 俺がそう説明すると、二人とも『石灰細岩』を抱えて、慌ただしく鍛冶場へと走っていった。

 すごい行動力である。

 まあ、あの二人なら放っておいても勝手に研究を始めるだろう。

 ドワーフの探究心は本当にすごいと思う。この分だとコンクリートが出来るのも時間の問題なんじゃないか?


「さて、見せたいものがあるって言ってたし、俺はアリシアのところに行くか」


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