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四十六話「新たな資源」


 早速、裂け目の入り口から中へと足を踏み入れる。


「……こりゃ、すげえ」


 洞窟内部を見た瞬間、思わず呟きが(こぼ)れた。

 中は想像以上に広く、天井は遥か頭上にあり、無数の鍾乳石が氷柱のように垂れ下がっていた。

 赤茶けた岩壁は幾層にも重なり、まるで大地の断面をそのまま見せ付けられているようだ。

 所々に地下水が溜まり、小さな水たまりを作っている。


 光は差し込んでいないのに、岩肌に含まれる鉱物の反射なのか、洞窟内は薄ぼんやりと周辺を照らしていた。


「子供の頃、兄と良く来ていた場所でな。よく探検ごっこと称して遊んでいたよ」

「そうか、お兄さんと……。ガルド、そのお兄さんは?」

「だいぶ前にお袋と一緒に……」

「そうか……すまん」

「大丈夫だ。もう随分前の事だからな。それよりも、あそこの綺麗な石の塊なんかはどうなんだ? 鉱石ってやつじゃないのか?」


 踏み込んだ事を聞いてしまったと思ったが、ガルドは気にしていないようなので、俺も気にしない事にした。

 俺は、ガルドが指さした石の塊、鉱脈へと視線を移し、『鑑定眼』を使ってみる。

 すると、『灼炎鉱石(しゃくえんこうせき)』と呼ばれる炉の強化に使える、滅多に見られない鉱石である事がわかった。

 そう、希少鉱石だ。

 一発目から当たりである。


「ガルド、ビンゴだ」

「おお、そうか! それは良かった。実はな、連れてきた手前少し心配していたんだ」

「そうなのか?」

「俺には全て、綺麗な石ころにしか見えないからな」


 そう言いながら、ガルドは足元で淡く輝いていた綺麗な石を拾い上げる。


「石ころて……」


 俺は何となく気になったので、その石を調べる。




星涙石(せいるいせき)


・超希少鉱石。

・高い魔力保持能力を持つ宝石。

・素石が大気中の魔素に晒され、数万年かけて結晶化した物。




 ……うん。とんでもないレア物だった。

 俺は、後で驚かせる意味合いも込めて、今は伝えず周囲に点在する鉱脈へ『鑑定眼』を滑らせる。


 『竜水晶』『鏡鉱石』『金鉱石』『金剛砥石』、etc。


 うん、こりゃヤバい。

 ガルドが拾った『星涙石』で何となく予想は付いていたが、その鉱脈の殆どが、稀少価値の高い鉱石だった。


「これ、ソフィアがこの場にいたら、涎垂らしてへばり付くぞ……きっと」

「そ、そんなにか」

「目安で言うと、そうだな。ガルドが持ってるその石、それ一つで立派な屋敷が一つ建つ」

「屋敷か……屋敷の価値は俺にはよく分からん。飯で例えると何食分だ?」

「そうだな……ざっと、計算して…………五十万食くらいか? 約十年は持ちそうだな」

「な、なんだと……!?」


 あまりにも驚いたのか、ガルドが手に持っていた石ころ(希少鉱石)を落とす。


「あ、ああ! し、しまった!」


 慌てて拾い上げるガルド。

 馬装の裾で拭き上げ、傷が無いか確認している。

 慌てすぎである。

 心配しなくても、落としたくらいで傷が付くほど柔い鉱石ではない。


「はは、まぁ、取っておけよ。いずれ使い道もあるだろうしな」

「そう、だな。そうしておく」


 そう言ってガルドは馬体に括り付けている亜麻袋にその鉱石『星涙石(せいるいせき)』を仕舞った。

 あの宝石だけでかなりの食い扶持になるからな。


 ん? 待てよ。そうか、使い道か。

 ガルド達も増え、村も少しずつ大きくなっている。

 そうなると、自給自足じゃ手が回らなくなって来るかも知れない。

 フィア達も招待するつもりだし、もしかしたら村に居ついてくれる翼人族(ハーピィ)達も居るかも知れない。

 人が増えれば、その分必要な物も増えてくる。

 そう考えると、(いず)れは外との繋がりも作った方が良いかも知れん。

 ガルド達セントールは嫌がるかも知れないが、俺自身はまともな人族であれば、取引したいとも考えているし。

 ソフィアの話に出て来たラティアと言う人物は、話を聞く限りは信用出来そうだった。

 会う事があれば話をしてみるか。


「カイト?」

「ああ、すまん。何でもない」


 どうやら考え事に夢中になっていたみたいだ。

 今は、先の話より目の前の仕事の方が先決だろう。

 俺は『次元収納』を開き、中からピッケルを取り出して、一つをガルドに渡した。


「さあ、採掘するか」

「おう」


 ソフィアやルドに頼まれた鉱石集めを開始する。

 外周の柵はまだ途中だったし、武具や農具はこれからも必要になりそうなので、鉄鉱石は多めに取っておく事にしよう。


 そういえば、村の外れに掘り返したような跡があったな。

 新しい土壁も増えていたし。


 そこで、俺は考える。

 土壁も良いが、補強するなら、コンクリみたいな壁の方が強度が出るし、あるならそっちの方が良いんじゃないか?


「ふむ……」


 俺は鉄鉱石を採掘しながら、思考を巡らす。

 確か、コンクリートの原料には石灰石(せっかいせき)が必要だった筈だ。

 セメントの材料だったよな、確か。

 都合良くあったりしないだろうか? そんな思いも込めて洞窟の壁へ視線を向けた。

 すると___




石灰細岩(せっかいさいがん)


・建材として利用される白色の岩石。

・焼成する事で接着材の原料となる。

・水と混ぜる事で固化する性質を持つ。

・城壁や建造物の建築に利用される事が多い。




「はは! あるじゃねぇか!」

「ど、どうしたカイト?」


 突然叫んだ俺に、ガルドがびくりと肩を震わせる。


「ガルド! これだ!」

「な、何がだ?」

「これがあれば村を劇的に住みやすく出来る!」

「そ、そうなのか!?」

「ああ! 上手く行けば道も作れるし、建物も頑丈に出来る!」

「おお……」

「希少鉱石も凄いが、俺からするとこっちの方が嬉しいかもしれん」

「俺にはただの岩にしか見えんのだが……」

「はは、まあ、そこは気にするな」


 マジでこの発見は大当たりだ。

 直ぐに実用化、とは行かないだろうが、そこは腰を据えて少しずつやっていけば良い。

 村作りなんて、一朝一夕で出来るものでもないしな。

 時間はたくさんある。少しずつ、出来る事を増やしていこう。


「さあ、続きだ!」

「お、おう!」


 と言う事で採掘を再開する。

 『鉄鉱石』を掘り出し、『次元収納』へ放り込む。

 『灼炎鉱石』を見付ければ回収し、『石灰細岩』も見かける度に掘り出していく。


 ガルドも別の場所で黙々とピッケルを振るっていた。

 時折、良さそうな鉱石を見付けては呼び合い、また作業へ戻る。


 そうしてしばらく作業を続けていると、違う場所で採掘していたガルドが、袋一杯の鉱石を肩に担いでやって来た。


「カイト、そろそろ引き上げないか?」

「ん? ああ、そうだな」


 洞窟内では景色が変わらないので、どのくらい時間が経過したのか分からない。

 採掘道具を片付け、ガルドと共に出入り口付近まで移動して気付いた。



「……これは、今日はここで野営だな」

「……ああ、少し夢中になりすぎたみたいだ」


 外はすっかり暗くなり、星々が煌めいていた。

 今から戻るのはやめておいた方が良いだろう。


 俺達は、洞窟の出入り口付近に簡易テントを建て、寝床の準備を行う。

 ガルド用に巨大なクッションも取り出しテントの中に置いた。

 クッションの中身は眠羊の羊毛だ。

 因みに簡易テントはガルドも入れる用に大きくしている。


「カイト、この膨らんだデカイ布はなんだ?」

「クッションって言ってな、ガルド達セントールが身体を預けるのに良いと思って、翼人族の里にいる時にソフィアに作ってもらってたんだ」

「ほう?」


 ガルドは興味深そうにクッションへ近付く。

 そして恐る恐る身体を預けた。


「……おお」


 ガルドの馬体をクッションが優しく包み、補助する。


「おおおおっ!?」


 初めての感覚なのか、ガルドは驚いたように声を上げた。


「なんだこれは!? 身体が沈むぞ!?」

「はは、気に入ったか?」

「気に入ったなんてもんじゃない! 凄いなこれ!」


 ガルドは尻尾をぱたぱたと振りながら何度も身体を預け直している。

 どうやら大成功らしい。


「リナやリュノにも作ってもらえないか!」

「ソフィアに言ってあるから今頃、堪能してると思うぞ」

「おお、そうか!」


 そう言うと、ガルドは嬉しそうに頷いた。

 その後、俺達は簡単な夕食を取る。

 昼間に仕留めた突牙猪の肉を焼き、山菜と一緒に頬張る。

 派手さは無いが十分美味い。


「外で食う飯も美味いな」

「同感だ」


 そんな他愛のない会話を交わしながら夕食を終えると、ガルドは早々にクッションへ身体を預け、気持ち良さそうに目を閉じた。

 余程、気に入ったみたいで作った甲斐がある。

 作ったソフィアも喜ぶに違いない。


「それにしても今日は大収穫だったな」


 『次元収納』を眺めて思わず笑みが漏れた。

 この洞窟一つで、村の未来がまた少し広がったように感じる。

 目指す理想は、みんなが過ごしやすく、それでいて楽しく暮らせるような村だ。


「アリシアやリュノが笑ってくれるのが一番だからな」


 俺は、そんな未来に想いを馳せながら、火の番をしたのだった。



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