四十四話「俺の休みはどこへ行った」
幻想の森を抜け、水辺の村へ戻って来た俺たち。
俺の第一声は、
「拠点にしてたよろず屋がでかい屋敷に変わってやがる」
だった。
前の三階建てのよろず屋だって立派だったのに、今はそのよろず屋が霞んでしまっている。
よく見ると、よろず屋も無くなった訳ではなく、屋敷の一部として組み込まれている。
俺は、開いた口が塞がらなかった。
「随分立派な家に住んでるんだな」
「お義父様の馬房邸より大きいです」
「親父の馬房邸は崩れちまったけどな」
「あ……そうでしたわ」
しかし俺以上に呆けた表情でツッコミどころ満載な呟きを漏らす、ガルド夫妻。
「ふむ、まだ五割と言ったところじゃな。応接室も客間もまだ作りかけじゃし」
「いや、何を作る気なんだ? 俺は普通の家でいいぞ」
「カイトよ、お主は仮にもこの村の村長じゃぞ? 村の代表が普通の家に住めるわけがなかろうて、最終的には大屋敷にまで発展させるつもりなんじゃ、細かいことを言っていたらキリがないぞい」
「大屋敷って、あ、あのソフィアさん? 国でも作る気ですか?」
「お主次第じゃの」
「い、いやあの……」
「そもそも、ケンのいる里まで道を繋げるんじゃろ? ならこのくらい大きい方がええじゃろ。ルドにもケンの屋敷は以前の物より立派にしろと伝えたからの」
「そ、そうですか」
まいった。
俺、これからこのデカい家に住むのか?
マンション住みだったから、落ち着かないぞ、多分。
あ、よろず屋で休めば良いのか!
そうだそうしよう。
そんな現実逃避じみた結論にたどり着いたところで声をかけられる。
「おお、戻ったかカイト殿」
「親父は元気にしてたか?」
ゼムとドムのドワーフ兄弟だ。
どうやら、村の外周の防護柵を設置していたようだが、俺を見つけやってくる。
「おお、ゼムにドム、村を任せっきりにして済まなかった。ルドは今、セントールの里で復興の手伝いをしてもらってるよ」
「おお、そうだったか」
「元気にしてるみたいだな、なら良いさ」
ゼムとドムは顔を見合わせ、小さく頷き合う。
父親のルドの事を心配していたのだろう。二人ともどこか安心したような表情を浮かべていた。
「それと、飛竜と戦ったと聞いたぞ?」
「親父から聞いてる。二十日も寝込んだらしいじゃねえか。聞いた時は肝を冷やしたぜ」
「あー……色々あってな。だが、もう大丈夫だ」
俺の言葉を聞き、ゼムとドムはほっと息を吐いた。
どうやら心配させてしまったようで申し訳ない。
話題を変えるため、ルドにした提案を二人に話した。
「で、だ。話は変わるんだが、ゼムとドムのどちらかにルドの補佐に行ってもらいたいんだが良いか?」
「ああ、良いぞ。なら俺が行こう、ドム後は任せられるか?」
「ああ、構わねえぜ兄貴。親父も歳だ、手伝ってやれ」
俺の頼みにゼムは迷う様子もなく頷いた。ドムも当然のようにその提案を受け入れている。
さすが兄弟というべきか、どちらが行くかで揉める様子もない。
「おう、んじゃ行ってくるぜ」
「これちょっと待たんかゼムドム」
工具を片付け、さっさと出発しようとするゼムを見て、ソフィアが慌てて呼び止める。
「「おい、一緒くたに呼ぶんじゃねえソフィア」」
「お主ら、ワシの工房は弄っておらんじゃろうの?」
「弄ってねえよ、お前弄ったら怒るだろ。だから俺も兄貴も弄ってねえよ」
「なら良いのじゃ」
「はあ、じゃあ俺はもう行くぞ、後は頼んだぜ、兄貴」
「おお、任せろい」
ゼムを見送っていたドムが、ふと思い出したように声を上げる。
「って、そうだった。カイト! 木材が足りねえ! 鉱石も尽きそうなんだ!」
「ん? マジか」
言われて改めて周囲を見渡す。
村のあちこちに並べられていた資材は残り少ない。
外周には新しい防護柵が設置され、ぐるっと村全体を囲っている。
俺が留守にしていた二十日間余りで、三人だけでよくぞここまで、と頭が下がる思いだ。
「鉱石か……木材は『禁域の大森林』に行けば取れるだろうが、鉱石はな、知ってる場所はあるがあそこは崩れてて危ないんだよな」
魔狼の出た『忘れられし坑洞』の事だ。
あそこは中には入れるが、採掘音に敏感な魔狼が居る……採掘中に来ると厄介だ。
あの時も逃げるので精一杯だので行きたくない。
もしかしたら今の俺なら勝てるかもしれないが、安全マージンは取っておきたい。
「カイトの言うとおりじゃの。ふむ、他に良い鉱石場があると良いのじゃが」
俺たちが思案していると、ガルドが顎に手を当て口を開いた。
「一つだけ候補があるぞ」
「何? それは本当かの?」
「ああ、少し遠いが大峡谷の北側の山脈に洞窟があるんだ」
「お、マジか?」
「昔見つけた場所でな、結構大きい洞窟だったぞ」
「なんじゃと! 早速行ってくるんじゃカイト!」
ガルドの話を聞いたソフィアの目の色が変わる。
さっきまで村の拡張がどうとか言っていたのに、鉱石の話になった途端コレだ。
「お、おう、ソフィアは行かないのか?」
「行きたいのは山々じゃ! しかしワシは工房の強化や村の拡張に忙しい!」
「そ、そうか」
「もちろんアリシアも眠羊の世話があるでな無理じゃ! 要は皆、仕事があるんじゃ! カイトも仕事せい!」
「お、俺、帰ってきたばっかりなんだが……」
「ワシだって今帰ってきたばっかりじゃ!」
そう言って胸を張るソフィア。
いや、答えになってないぞ、まったく。
とは言え、資源不足は放って置けない。ドムに言われる前に、ルドにも頼まれていたしな。
ここは素直に向かうか。
確かフィア達のいる大峡谷の北側だったよな。
俺は『次元収納』の中を整理しながら準備する。
すると、そんな俺を見て、リナがガルドへ近づき提案してくれた。
「ガルド、あなたも手伝ってあげたらどうかしら? 流石に私も行くとこの村の防衛が心配だから、私は残るけど」
「そうだな。だが、リナ一人で大丈夫か? 子供達もいるし少し心配だ」
「そこは安心せいガルドや、ワシもドムも武器を新調したでな角兎や岩狼くらいなら苦労せず倒せるわい」
「それだったら心配はいらないわ。私なら強化個体だって倒せるし、カイトさんの力になってあげて」
「分かった。なら、カイト。俺が道案内をしよう。距離的に一日は野営する形になるから準備を怠らずにな」
「ああ、分かった。ありがとうなガルド、助かるよ。リナさんも提案ありがとう」
「なぁに、良いってことさ」
「ふふ、お役に立てれば光栄です」
という事で、俺とガルドは大峡谷北部の山脈へと向かうことになった。
村長というのも、なかなかに忙しいものだ。
だが、楽しみなのも事実だ。
俺は自然と頬が綻ぶのを感じ、単純な自分に苦笑しながら出発したのだった。




