四十三話「ガルド家の移住」
ケンと同盟締結を済ませた俺は、一度『水辺の拠点』へ戻る事にした。
「それじゃあ、すまんが頼むなルド。ゼムとドムには着き次第声を掛けておく。どっちかには来てもらうように頼んでおくから」
「おう、頼むぜ!」
「資材は足りそうか?」
そう聞くと、ルドは積み上げられた資材へ目を向ける。
「今んところは大丈夫だ。ただ念のため、集めておいてくれ」
「分かった」
セントールの里の復興には知識も人手も必要だ。
ルドにはこの里へ残って貰い、俺とソフィア、アリシアの三人で村へと戻る事にした。
「よし、じゃあ戻るか」
「うむ、行くぞい、アリシアや」
「はい、ですっ」
ルドに後の事を任せた俺達は、セントールの里を後にする。
だが、少し出たところで、『おー、待て待て』と後ろから声を掛けられた。
振り返ると、ケンにガルド。それとリナとリュノがいる。
「どうした、みんな?」
旅支度のような格好をしているが、ケン達も出掛けるのだろうか?
そんな風に思い尋ねたのだが、帰ってきた言葉は俺にとって喜ばしいものだった。
「カイト、息子夫婦と孫を連れて行け」
「良いのか?」
「ああ、ガルドは左腕が上がらねぇがそれでも、里で一番強え、リナも脚の速さはピカイチだ。アリシア嬢ちゃんも、歳の近い友達がいた方がいいだろ?」
「はいっ」
アリシアも嬉しいのか笑顔を見せている。
俺もケンの提案に思わず頬が緩む。
だが、ガルドは次期族長の筈だ、本当に良いのだろうか?
「俺としては助かるが……」
すると、俺の考えを察したのかケンは豪快に笑いながら答えた。
「細けぇ事気にしてそうだな! だが、問題ねぇ!」
そう言いながら、俺の背中をバシンッ、と叩く。
「俺もまだまだ、くたばる気はねぇしな。それに、ガルドには色んなもんを見せてやりてぇんだ」
「カイト、俺はお前について行きたいんだ。娘のリュノを救ってくれた恩もある」
「私からもお願いします、カイトさん」
そう言って、夫婦共々頭を下げてくる。
ここまで言ってくれるとは、こんなに嬉しい事はない。
「りゅのちゃん、いっぱいあそびますっ」
「うん! たのしみだねっ! アリシアちゃん!」
二人の様子にも、思わず笑みが溢れる。
アリシアもリュノも、これから一緒に暮らせるのが嬉しいのだろう。
俺の答えは最初から決まっていたが、二人の様子を見て、迷う理由も無くなった。
「分かった。それに元々協力を申し出たのはこっちだからな、ガルド達が来てくれるなら本当に嬉しい。これから宜しく頼む」
「ああっ!」
「ありがとうございますっ」
こうしてガルドと固く握手を交わし、ガルド一家が正式に俺の村へと来てくれる事になった。
住人も増え、村も賑やかになるだろう。
やっと村らしくなってきて、何だか、ワクワクしている。
さて、セントールの里を離れた俺たちは、雑談を交えながら『幻想の森』へと向かう。
道中、ガルドとリナの馴れ初めなんかを聞いた。
「なるほど、じゃあリナさんはエルフが治める大陸から来たってことか」
「はい。自然豊かで良い所なのですが、いかんせん私には退屈でして」
「リナはこう見えてかなりヤンチャだからな、リュノを見ればわかるだろう?」
「ちょっとガルド!」
「ははは、すまんすまん」
そう言って、ガルドをポカポカと叩くリナ。
最初出会った時は毅然とした姿に目を見張ったが、こんなお茶目な面もあるのかと俺は少し微笑ましい気持ちになった。
しかし『エルフ』か。
ソフィアやルド達ドワーフが居るので、エルフもいるだろうと踏んでいたが、本当にいるようだ。
やはり閉鎖的な種族で、人間を嫌い、皆美しい容姿をしているのだろうか?
アニメやゲームなんかじゃ大抵ヒロイン枠だよな。
俺は少しだけ、想像しどんな感じなのかと思考を巡らせた。
すると、脇腹に強烈な痛みが走る。
横を見ると、ソフィアがジト目で俺を見ていた。
「い、痛えぞソフィア」
「ふん、うるさいわい」
そう言って、鼻を鳴らし、そっぽを向くソフィア。
な、何で抓ったんだ……、痛いだろ。
「……カイト、今のはお前が悪い」
「……そうですね、乙女心が分からないカイトさんが悪いです」
そしてなぜか二人からも責められた。
いや、何となくは思っていたが、まだ出会って二ヶ月くらいしか経ってないぞ?
そりゃ俺だって男だし、ソフィアに対して好意の感情はある。
でも、だからってそう言う関係になりたいか、と問われると、俺も答えが出ない。
そもそもソフィアが本当にそう言う目で俺を見ているかなんて分からないからな。
それに今は、村の開拓に集中したいのだ。
だから恋愛云々は二の次なのだ。
「ん、んん……! それにしても本当に綺麗な森だな」
「(話題を逸らしたな)」
「(話題を逸らしたわ)」
「はぁ、全く、前にも説明したじゃろ、この『幻想の森』は『巨湖ロタン』から水の恵みの恩恵を貰っとるから、精霊達が好んで棲みついとるんじゃと」
「そ、そうだったか……?」
初めて聞いた気もするが、よく覚えていない。
「全く、エルフなんぞにかまけとるから忘れるんじゃ。そんな時間があるなら、自分の村周辺の環境調査くらいせんかい。まったく」
う、うぐ。
す、少し厳しくねえか? ちょっと想像しただけだろ? そんなに怒ることなくねえか?
ま、まあ、いつの時代も女は強しだからな。
逆らうのは得策ではない。
いや、ちょっと待て、俺がエルフのことを想像してたって何でわかったんだ? え、エスパーか……?
お、恐ろしすぎる。やはりここは反論しない方がいいな。
「わ、悪かった。気をつけるよ」
「ふん!」
「お、おい、機嫌を直してくれよソフィア」
「知らんわい!」
そんな感じでどうにかソフィアの機嫌を直そうとしていると、アリシアとリュノが綺麗な鳥を頭に乗せてやってきた。
「ごしゅじん、とりさんっ」
「おおー、随分綺麗な鳥だな。羽根も透き通ってるし、ただの鳥じゃないな」
「『神秘鳥』ですね。私も故郷の森で何度か見た事ありますが、こうして懐く個体は初めて見ます」
「マジか、そんなに珍しいのか」
久々に『鑑定眼』を使ってみる。
◇
『神秘鳥』
・魔素の豊富な森林を棲家にする、珍しい環境生物。
・魔素を豊富に含む湖のほとりの森や、世界樹の側にある精霊樹の森でよく見かける事がある。
・環境生物でも特に希少度の高い『精霊種』である。
◇
マジで珍しい鳥だった。
いや、姿を見れば一目瞭然なんだがな。
当たり前のように、こういう出来事に出会うから、少し感覚がおかしくなっている気がする。
ミスリル鉱石を手に入れた時も思ったが、こんな簡単に遭遇していいのか、おい。
「ごしゅじん、とりさん、いっしょにきてくれる、って」
「おー良かったな。ん? もしかして言葉が分かるのか?」
「えっと、はい、すこしだけ」
「凄いじゃないか!」
どうやら、アリシアは鳥の言葉も分かるらしく、凄い才能だと、俺は優しく抱き上げて褒めた。
すると、リュノが尻尾をピンと立て、俺の側へとやってくる。
リュノもアリシア同様、頭に『神秘鳥』を乗せていた。
「あ、あのねっ、リュノもすこしわかるよ!」
「おおー、マジか。リュノも凄いじゃないか! もしかして獣人種は、みんな分かるのか?」
そう思い、俺はリュノを褒めながら、ガルドとリナへ視線を送る。
すると苦笑を浮かべて、二人は答えた。
「はは、残念ながら俺たちには分からん」
「ふふ、カイトさん。この娘、リュノは『先祖返り』なんです。私たちの頭に馬耳は無いのは分かりますか?」
「ああ、言われてみればそうだな」
言われて気付いたが、ガルドとリナは体躯こそ馬だが、上半身は人間そのもの。
対してリュノの頭には、小さな馬耳が生えている。
この『馬耳』が先祖返りってやつだろうか?
ってことはアリシアも?
「そうじゃな、アリシアの場合は『羊の巻角』じゃろうの」
「ええ、私も『角』持ちの羊人族を見るのは初めてですが、おそらくリュノと同じなんだと思います」
「そうだったのか、二人とも、似合ってるし可愛いよな」
俺が素直にそう伝えると、ガルドは目を開き、ソフィアとリナは目を二、三度パチパチと開閉させてから吹き出した。
「そうじゃよな、お主ならそういう反応になるわな」
「ええ、カイトさんはこういう人でした」
「そうだな、カイトはこういう男だ」
え、何だよ。
俺、なんか変なこと言ったか?
「ごしゅじん、ありしあ、かわいい……?」
「ああ、似合ってるし、可愛いぞ」
「えへへ」
「かいと、かいと、リュノは…?」
「もちろん、リュノも可愛いぞ」
「にひひ〜」
まあ、二人とも喜んでるし、気にしない事にしよう。
「! え、えっとね、ごしゅじんっ、とりさん、ありしあとリュノちゃんのそばはおちつく、っていってるよっ!」
「へぇ〜そうなのか。じゃあ連れて行くか!」
「うんっ、つれてこー!」
「はい、ですっ!」
アリシアとリュノは仲睦まじくはしゃいでいる。
そんな二人を見て、改めて思った。
リュノを飛竜から助ける事が出来て、本当に良かった。と、
さて、そろそろ『幻想の森』も抜ける。
抜ければ、俺たちの村だ!




