四十二話「友との盟約」
「ケン! 傷は大丈夫か?」
「ああ、数日もあれば治る! それよりもカイト、飛竜相手に生き残るとはな……本当に驚きだ」
「親父、カイトは生き残っただけじゃなくて、倒してしまったみたいだぞ」
「___な、なに? それは本当か!?」
ケンは驚き、俺の肩を掴んでガルドの言葉の真偽を聞いてくる。
俺は苦笑を浮かべつつ、だが、確かに頷いた。
「ああ、かなりギリギリだったがな。飛竜の素材も持ってきてる」
そう言って、広場の中央へ、飛竜の亡骸を出現させた。
出現させると、セントール達から悲鳴の後、沢山の歓声が上がる。
飛竜が倒された事で、その脅威に怯えなくて済むと、皆安心したのだろう。
「ま、まさか、本当に……し、信じられん……!」
ケンは恐る恐る飛竜の亡骸に近づき、その鱗へと触れた。
そして、硬く拳を握り、喜びを露わにする。
「本当なんだな。飛竜の脅威に怯えなくて良いんだな」
「ああ、大丈夫だ」
俺がそう伝えると、俺へと抱きつき、『良かった。本当に良かった』と男泣きを見せてくれた。
そんなケンの様子を肌で感じた俺は、本当に倒す事ができて良かったと、心から思う。
もし倒す事ができなかったら、こうして再会を喜び合う事も出来なかったのだから。
そんな風に俺がケンと抱擁を交わしていると、前方からどすどすと足音を響かせてルドがやって来る。
「無事じゃったかカイトよ!」
どうやら、こっちの里に来ていたみたいだ。
「ああ、ルドも元気そうだな! ゼムとドムは一緒じゃないのか?」
「息子達なら、拠点開拓に精を出しとるぞ! 少し、気になる事があったんでの、防柵周りを強化しておる」
「ん? なんかあったのか?」
ルドの言葉が気になり、尋ねる。すると___、
「うむ、実はの、あの時の商人達が村の近くに姿を見せたんじゃよ」
「なんだと?」
洞窟で会った、人間の商人と冒険者が?
ルド達を酷使させ、悪びれもせずドワーフを道具のように扱っていた連中が、側に居るだと?
威圧しただけじゃ足りなかったか。
出会った時の弱っていたルド達と違い、今のルドたちなら遅れを取ることはないから心配はしていないが、こっちにはアリシアやリュノ達、セントールの子供達もいる。
今のままは少し、心配だな。
そこで俺は考えた。
「なあ、ルド、ソフィア」
「なんじゃ?」
「どうかしたかの?」
俺は飛竜の亡骸に手を当てながら言った。
「コイツを使って、セントール達に装備を作ることはできねえか?」
「コイツ?」
ルドが首を傾げる。
「お主、何を指して___」
そこまで言いかけて、ようやく広場中央に横たわる巨大な影へ視線を向けた。
「ぬ?」
ルドは目を細める。
「なんじゃあの黒い壁は」
「飛竜だ」
「ほう、飛竜か」
ルドは何度か頷いた。
「…………」
「…………」
「飛竜?」
次の瞬間。
「な、な、な、な、おいカイト!! こ、こりゃあ本当に飛竜じゃないかっ!!」
素っ頓狂な声が里中へ響き渡った。
「だから飛竜だって言っただろ」
「馬鹿者っ! 儂はてっきり岩か崖か何かだと思っておったわ!!」
ルドは慌てて飛竜へ駆け寄る。
低身長のドワーフであるルドからすれば、二十メートル近い飛竜は壁のようなものだ。
遠目では巨大な黒い塊にしか見えなかったのだろう。
「ワシも驚いた方がいいんじゃろうのぉ……慣れてしもうた自分に同情してしまうわぃ」
先ほどから飛竜を見ていたソフィアが呆れたように呟いた。
「そ、それでどうなんだ?」
俺が本題へ戻すと、ルドは飛竜の鱗や爪を食い入るように眺め始める。
「どうもこうも、コイツがありゃ一級品の装備が作れるぞ!」
「この竜骨、柵へ組み込ませれば立派な魔除け柵になるんじゃないかのぉ?」
ソフィアも興味深そうに竜骨を見上げる。
「なに!? 見せてみろソフィア!」
ルドは竜骨を叩きながら興奮気味に叫んだ。
「こいつぁ凄ぇぞ! 飛竜ほどの魔力を持った骨なら簡易的な結界代わりになるかもしれん!」
「本当か!?」
「ああ! それだけじゃない! この鉤爪は槍や戦斧に加工できる! 牙も上物じゃ!」
ルドの目は完全に職人のそれになっていた。
「おいカイト! すぐに加工へ取り掛からせてくれ!!」
「そんなに凄いのか?」
「凄いなんてもんじゃない! これ一つで村の防備も、セントール達の装備も、一気に強化できるぞ!」
「お、おう」
ルドが鼻息荒く迫ってくる。
どうやら飛竜素材の加工は、ルドとソフィアに任せておけば問題なさそうだ。
俺は苦笑しながら、改めてケンへ向き直った。
「なあ、ケン。提案があるんだがいいか?」
「ああ、言ってみろ。なんとなく予想は付くがな」
そう言って、ニヤリと笑うケン。
「俺と同盟を結んでくれないか? 頼みたい事があるんだ」
「ああ、カイトの村の見回りだろう? 先ほどの言葉でピンと来たわ! その為の装備であろう?」
「はは、話が早くて助かる。ああ、装備をセントール全員分用意する。村にも休める場所を作る。だから、俺たちの村の見回りを頼みたい」
「心得た。その代わりこちらからも頼みがあるんだが構わないか? 装備を用意すると言ってもらった手前、こんな頼みをするのは心苦しいのだが」
「村の復興か?」
「カイト……」
「もちろん復興の手伝いはさせてもらう。なんなら、俺の村から、セントールの里までの道も舗装しようと考えててな」
そこまで言うと、ケンは大きく目を見開き、次の瞬間豪快に笑った。
「ハハハハハハッ!! そこまで考えているのか! ああ、分かった!! 俺たちセントールは全面的に貴公に協力すると誓おう!!」
「助かる!」
こうして俺とケンは固く握手を交わし、正式に手を結んだ。
『水辺の拠点村』と『セントールの集落』。
この二つの集落を繋ぐ、新たな一歩が……後に『開拓王』と呼ばれる一歩目になるとは、この時の俺には予想も付いていなかった。




