四十一話「再会の里」
大峡谷でフィア達、翼人族と別れた俺たちは、大平原を南下していた。
眼下にはどこまでも続く草原が広がり、少し先には陽光を反射する巨湖ロタンが見える。
俺たちは、巨湖ロタンの外周を回りながら、湖畔にあるセントールの里を目指す。
途中で平原盆地へ立ち寄り、眠羊を横目に小休憩する事にした。
道のりは長い。日も傾き始めている。
俺たちは、出会う前にアリシアが住処にしていた『羊人族の集落跡』へと立ち寄って、テントを設営することにした。
簡易囲炉裏や、食事の準備を行いつつ、俺はソフィア達に話かけた。
「ケン達は無事なのか?」
「うむ、怪我はしておるが、命に別状はないぞい」
「子を失った同胞や、親を失った子供達もいるがな…」
俺はソフィアとガルドの言葉に息を呑む。
ケンは無事なようだが……そうか親を亡くした子供達もいるのか。
考えているより、被害は大きいんだな……。
「……早く戻らないとな」
「そうですね。ルド殿や無事な同胞に任せておりますが、やはり心配ですので」
「気持ちはわかるがの、休める時には休むのも大事じゃぞ」
「そうだぞリナ、この辺は比較的安全と言っても、禁域区域なんだ。夜には強い個体も現れる、隠れられる場所がある内はしっかり休むのも大事だ。それに怪我してるとはいえ、親父もいる。大丈夫だ」
「そうよね。ごめんなさい。少し心がせっていたみたいだわ」
そうだな。
ソフィアとガルドの言う通りだ。
俺は、ほぅっと息を吐き、星空を眺める。
星を眺めると、今まであった事が思い出される。
転生して、スノーやソフィア達と出会い、ルド達を助けて、ガルド達セントールと交流を持ち、飛竜を経てフィアと出会い、ハーピィ達と知り合う事ができた。
本当、色々あったな。
「(一ヶ月前までは現場で鉄骨を溶接してたのに……マジで不思議だ)」
人生何が起きるかわからないものだな…。
そんな風に感傷に浸っていると、
「かいとぉ、ねむい……」
「ごしゅじん、ありしあも……」
眠気が限界に達したのかリュノとアリシアが傍にやってくる。
「二人ともおいで」
俺は二人に声をかけ、リュノには肩を、アリシアに膝枕をした。
「リュノはすっかりカイトさんに懐いてしまったみたいですね」
「はは、母親の前ですまんな。だが俺も安心するんだ、子供達といると」
「カイトは父親に向いているかもな」
「そうか?」
「そうですね。良いお父さんになりそうです。ソフィアさんとは子は作られないのですか?」
「っぐ」
「〜〜〜〜っ!」
な、なんてことを言うんだリナのやつ。
みろ、ソフィアが真っ赤なリンゴみたいになっちまったじゃねえか。
「はは、ソフィアは、大切な仲間だ。それに、迫ったりしたらぶっ飛ばされちまうよ」
「…………鈍感なのですね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません。ソフィアさん、どんまいです」
「わ、わかっておったよ、くすん」
「???」
なんでそこで落ち込むんだソフィア。
まあ、良いか。
俺も眠くなってきたし、そろそろ寝るとしよう。
◇
ぺちん、ぺちん。
モフッとしたものに顔を叩かれる。
何だか頭が若干重い。
「んあ?」
俺は眠気眼で目が覚めると、白いもふもふが眼前へ迫った。
「あてっ」
なんだこれ? そんな風に思ったがすぐに頭上から『にゃあ〜』と鳴き声が聞こえたので犯人はスノーだと理解した。
頭の上のスノーを掴んで優しく降ろす。
「なんと言うか、こう言うのが定番になってきたな……スノー?」
「にゃあ?」
何が? みたいな顔をされたが、絶対に理解してやっていそうだ。
既にリュノもアリシアも起きていて、大人達の手伝いをしていた。
俺も立ち上がり、大きく伸びをする。
軽く身体を解し、ソフィアの元へ向かった。
「すまん、待たせた」
「大丈夫じゃよ。ほれ串焼きじゃ、食べたら出発するぞい」
「ああ、分かった」
ソフィアから串焼きを受け取り、軽く食事を済ませる。
食事が済んだ俺は囲炉裏を次元収納へしまい、出発の準備を整えた。
ガルドとリナも丁度テントの回収が終わったようで、こちらへ合流する。
「お待たせしました」
「起きたようだなカイト」
「ああ、おはようさんガルド」
「うむ、おはよう」
「さて、皆の準備もできたようじゃし、そろそろ行こうかの? リュノ、アリシア」
「は〜い」
「いきます」
ソフィアの号令で、平原盆地を出発した俺たちは、セントールの里を目指す。
朝日を浴びながら丘陵地帯を越え、たまに姿を現す巨湖をへ視線を送りながら進むと、景色はなだらかな草原地帯と変わって行った。
そして視線の先に、薄っすらとだが『セントールの里』が見えてくる。
小高い丘を縫うように街道を進む。
皆、若干駆け足気味だ。
「もう少しじゃな」
「ああ、」
ソフィアの呟きに短く返事をする。
肉眼で、里の入り口である木柵が見えてきた。
「みんな……っ」
「今行く……!」
セントールであるガルドとリナが先に駆けて行った。
俺たちもそれに続き、後を追った。
すると、里側からも、数名のセントールが俺たちに気付き、こちらへ駆けてくる。
「ガルド! 無事だったんだな!」
「リナも、良かった!」
里から駆け寄って来たセントール達が安堵の声を上げる。
「ああ、心配をかけたな」
ガルドがそう答えると、一頭のセントールが慌てた様子で辺りを見回した。
「リュノは!? 無事だったのか!?」
「だいじょうぶだよーっ!」
ガルドの後ろからリュノが元気よく顔を出す。
「リュノ!」
「良かった……!」
「本当に良かった……!」
安堵の声が次々に上がる。
皆、嬉し涙を流して喜んでいる。
「カイト殿が守ってくれたそうです」
リナがそう言うと、セントール達の視線がこちらへ向いた。
「カイト殿……?」
少し遅れて歩いて来る俺を見つけた瞬間、彼らは目を見開き、駆け寄ってきた。
「か、カイト殿! 無事だったのですね!!」
「ああ」
「本当に良かった……」
「飛竜を追って行かれた時は、もう駄目かと……」
そう言って胸を撫で下ろすセントール達。
俺が思っていた以上に心配を掛けてしまっていたようだ。
「悪いな。少し手間取っちまって」
俺がそう言うと、セントール達はほっとしたように笑った。
「いいえ、帰って来てくださっただけで十分です」
「リュノの件、本当にありがとうございます」
次々に感謝の言葉が向けられる。
その騒ぎを聞きつけたのだろう。
里の奥からも次々にセントール達が顔を覗かせ始めた。
「あれはガルド達か?」
「リュノもいるぞ!」
「本当だ!」
安堵した声が広がり、静かだった里が一気に賑やかになる。
すると、人混みの奥から聞き慣れた声が響いた。
「お前達、帰って来たばかりの連中を入口で囲むな」
人垣が自然と左右へ分かれる。
その奥から現れたのは、腕や胴に包帯を巻いたケンだった。
良かった。無事だったみたいだ。




