四十話「再会の約束」
翌朝、出発の準備を整えた俺達は、翼人族の里の入り口まで来ていた。
見送りの為、族長であるファラがわざわざ足を運んでくれている。
ここを出発することを伝えた所、見送りに来てくれたのだ。
「少し寂しくなりますね」
「急ですまんな……」
ファラの言葉にそう返すと、彼女は微笑みながら言葉を続けた。
「大丈夫です。それにこれで終わり、というわけではないでしょう? また会えますから」
「ああ、今度は俺たちの村を案内するよ」
「ふふ、その時はフィアも大喜びするでしょうね」
その時の光景が浮かんで、思わず苦笑する。
「正直、初めて貴方を見た時は、こうして見送る日が来るとは思っておりませんでした」
「そうだな……」
それは俺も同じだった。
まさか飛竜がきっかけで翼人族と交流する事になるとは思ってもいなかったからだ。
「ですが、これからは些細な事でも協力させて頂きますから、何か困った事があったら、遠慮せずに仰ってくださいね」
「ああ、その時はよろしく頼む。そちらも何か困った事があればいつでも頼ってくれ」
「はい。その時はよろしくお願い致します」
そう言ってファラと握手を交わす。
本当に良い縁を結ばせてもらった。彼女達が困っていたら必ず助けになろう。
と、そんなふうに思っていると、
「か、カイトーーーーーーーっ!」
峡谷中に響くような大きな声が響き渡る。
その声を聞き、俺は頭を掻いて少し困った顔をした。
「あ〜……見つかっちまったか」
「もしかして、まだ伝えていなかったのですか?」
「ああ、昨日言おうと思ったんだがな、あまりにも楽しそうにしてたから、つい……」
「そうでしたか……あの子、嫌がるでしょうね」
そう言ってファラは、こちらへ向かって来るフィアへと視線を向けた。
翼を慌ただしく羽ばたかせながら、涙を浮かべて飛んでくる孫娘。
その姿に少し切ない思いが胸をつくが、ファラは隣の青年の背をポンっと叩いた。
「さあ、ちゃんとお別れをしてあげて下さい。たくさん泣かれると思いますが、そこは覚悟して下さいね?」
「ああ」
そうして、こちらへ向かって来る、フィアを優しく抱き留めた。
「か、かえらないよね?」
「フィア……」
「カイト、かえらないよね……?」
フィアは大粒の涙を溜めながら俺へと聞いてくる。
まいったな、これはかなり堪える。
だが、そうも言ってられないので、俺は小さく答えた。
「ごめんな、フィア。村には仲間もいるんだ。だから帰らないと……」
「やだぁ…」
俺の言葉を聞いたフィアの手が、離すまいと服を掴む。
「かえっちゃやだぁぁぁぁぁ!!」
峡谷中にフィアの泣き声が響き渡る。
耐えていた涙は、ぽろぽろと溢れ、フィアは必死に首を振る。
「もっとあそぶのぉ!!」
「フィア……」
「ひこーきもつくってもらうのぉ!!」
次々に溢れる涙を止めもせず、俺へと縋りついて泣くフィア。
「(まいったな…)」
これは流石に心にくる。
連れて行ってやってもいいが、ファラも母親であるリファも心配で首を縦に振らないだろう。
ちらりと見たが、小さく首を横に振っていたので二人の意思を尊重する。
それに来たとしても、翼人族を迎え入れる準備が整っていない。
だから、俺は安心させるようにフィアへ伝えた。
「また来るから、そんなに泣くな」
「ひぃく……ぅぅ……ほんとぉ?」
「ああ、それに今度はフィア達が俺の村へ遊びに来れるように、いろいろ準備しておいてやる」
「ほんとぉ!?」
「ああ、だからそんなに泣くな……ってもう泣き止んでやがる」
「じゃあもういきたーい!!」
「今は無理だ」
「な、なんでよぉ……」
再び涙目になるフィア。
そんなフィアの頭を、ぽんぽんと撫でながら俺は続けた。
「さっき言っただろ? 村へ迎えるための準備が出来てないからだ」
「じゅんび……?」
「フィアが来た時に退屈しないよう、いっぱい面白いものを作っておきたいんだ。だから、今は我慢してくれ」
「おもしろいもの!」
「お、ととっ」
俺の言葉に反応したフィアがバサっと翼を広げて笑顔になる。
「たのしいのがいっぱいっ?」
「ああ」
「おっきいヒコーキもつくる?」
「ああ、とてもでっかいのだ」
「でっかいのー!」
さっきまで大泣きしていたとは思えないぐらいフィアは元気になった。
泣かれるよりは良いので、ほっと安心する。
すると、後ろで見ていたファラとリファが小さく笑いフィアの頬を突く。
「ぅぅ、まま? ばぁば?」
「本当に単純な子なんですから」
「良い子に育っているでしょう?」
「ふふ、そうですね」
ファラもリファも楽しそうに微笑んだ。
さあ、そろそろ出発しないとな。
俺はフィアを地面へと降ろし、その頭を撫でて約束する。
「じゃあ、約束の指切りをするか」
「ゆびきり?」
「手を出してごらん」
「こう?」
おずおずと翼と一体化した小さな手を出すフィア。
俺はフィアの小さな手の小指に自分の小指を絡ませて、誓った。
「絶対にまた会おうな、約束だ」
「うん! やくそく!」
フィアは満面の笑みで頷いた。
その様子を見て俺も小さく笑う。
「よし、それじゃあ行くか」
俺は忘れ物がないか確認し、ソフィア達へ視線を向ける。
「もう良いのか?」
「ああ」
「では参りましょうか」
「そうじゃの」
「おうちにかえります」
「しゅっぱつー!」
こうして、俺とソフィア、アリシアとリュノ、ガルドとリナは大峡谷を後にしたのだった。
『ぜったいだからねー!』と一生懸命に手を振る、フィアに見送られながら。




