三十九話「フィア達との時間」
風の間を心地よい風が吹き抜けて行った。
「気持ちの良い風だな」
「そうだな。少し神聖な感じもするな」
言われてみれば、風が身体の奥まで染み渡るような不思議な感覚がある。
祭壇を中心に広がっていた緑色の光は空気へと浸透し、周囲を淡い粒子の光で包んでいる。
翼人族の人たちもその光景を安堵した表情で見ていた。
「これで一安心です」
ファラがほっと息を吐き、そう呟く。
「この風があるおかげで、周辺の魔物が里へ近付きにくくなるのです」
「ああ、なるほどな」
やはり、この緑の石は、ファラたち翼人族にとって必要なアイテムだったらしい。
と、そこで俺はふと気付く。
「この石って平原とかにある村でも効果あるのか?」
「どうでしょうか。私は渓谷から離れたことがないので分かりませんが、昔この地を治めていたお方は『精霊石』を祭壇へ置くことで、外敵から民を守っていたと聞いたことがありますね。私が数百年前にこの『風の間』を作ったのも、それがきっかけですし」
「精霊石か、どこにあるんだろうか」
「そこまでは……すみません」
「ん? はは、謝る必要はねえさ」
見つけるのも一つの楽しみだからな。
「……お主、今『村に置けたら便利そうだ』とか考えておったじゃろ?」
「ん?」
隣を見ると、ソフィアが苦笑を浮かべて問い掛けてくる
「まあ、少しはな」
「少しどころではないじゃろ、顔に書いてあるぞい?」
「そ、そんなに分かりやすいか?」
「分かりやすいのぅ〜」
そ、そうか、俺ってそんなに分かりやすいのか。
俺は頭を掻きながらソフィアに反応していると、
「もしや、カイト殿はこの地に住んでいるのですか?」
と、ファラが不思議そうに聞いてきた。
俺は頷いて答える。
「ああ、禁域の大森林って知ってるか?」
「ええ、この峡谷の南西に広がる森林地帯ですね」
「そこからしばらく下に降りたところにある、村に住んでるんだ」
「下に降りたところというと、巨樹の丘がある辺りでしょうか?」
「ああ、そこから近いな、『水辺の村』を開拓してるんだ」
その瞬間、ファラが僅かに目を見開いた。
「巨樹の丘の側にある……水辺の村」
「もしかして知ってるのか?」
「ええ、昔、獣人族が生活していた村ですね。確か猫人種が住んでいた気がします」
そうだったのか。
猫妖精のスノーがいた場所だし、関係あるんだろうか?
「今は俺とソフィア、羊人族のアリシア、ルド達ドワーフ三人衆と住んでるんだ」
「ふふ、見事に異種族が集まっているのですね、実にカイト殿らしい」
ファラはくすくすと上品に笑い納得したように頷いた。
「『精霊石』に興味を持ったのも頷けますね」
「まあな、少しでも暮らしやすくしたくてさ」
「ふふ、やはりカイト殿らしいですね」
「そうか?」
「ええ」
ファラはどこか楽しそうに微笑む。
すると、風の間の外から聞こえてくる話し声も少しずつ減り始めていた。
祭壇の復旧に安堵したのか、翼人族の人たちが棲家へと戻り始めたのだ。
気付けば峡谷から見える空も、星灯りで包まれていた。
「夜も更けて来ましたし、本日はこの辺りにしておきましょうか?」
「そうだな」
「ワシも、流石に眠いわい」
「このまま寝そうだ……」
ソフィアもガルドも流石に眠いのか、欠伸をしている。
俺もヴァファーナと追いかけっこをした後だ、流石にそろそろ休みたい。
「じゃあ世話になったな」
「こちらこそ、本当にありがとうございました」
そう言って、静かに頭を下げファラと別れた俺たちは、各々のテントへと行き、ゆっくりと休息をした。
◇
翌朝、モフッとしたものを感じて、目が覚めた。
「尻尾?」
鼻先でゆらゆらと揺れる、小さな尾はスノーの物だ。
「ふわ〜、このパターンなんだか久々だな」
俺は胸の辺りで丸くなっていたスノーを布団の上へと下ろし、テントの外へと出る。
「ん〜〜〜〜〜!」
大きく伸びをして、峡谷の朝の空気を肺いっぱいに吸い込む。
すると、少し離れた場所から楽しそうな声が聞こえてきた。
「わ〜! フィアちゃんすごい!」
「へへ〜」
クルクルと回転しながら峡谷の空を上昇する竹トンボ。
その下で嬉しそうに飛び跳ねていたのはフィアだった。
「もっと! わあ! すごいとんだ〜!」
両手を広げながら竹トンボを追いかけるフィアに思わず頬が緩む。
「ずいぶん気に入ったみたいだな」
リュノもいるので、以前作ってやったのを持っていたのだろう。
アリシアとスノーも一緒に混じって遊んでいる。
フィアは落ちてきた竹トンボを拾い上げると、再び勢いよく飛ばした。
「えいっ!」
朝日に照らされながら、風を掴んで飛んでいく竹トンボ。
それを眺めているうちに、ふと前世で作った木工キットのことを思い出した。
「そういや、あんなのもあったな」
竹トンボも良いが、せっかくならもう少し面白い物、凝ったものを作ってみるか。
俺は『次元収納』から平たく加工された、木材を取り出し、ソフィア製のナイフを走らせ、削っていく。
「まずは胴体部分かな」
すると、俺が何か作っているのに気付いたのか、フィア達三人が側までやってきた。
「なに作ってるのー?」
早速フィアが覗き込んできたので、見せながら説明してやる。
「飛行機って言ってな空飛ぶオモチャだ」
「ひこーきー?」
「まあ、見てれば分かるさ」
翼部分も削り、胴体と組み込ませ、エンジン部分に昨日採取した小ぶりの『微風石』を捩じ込む。
そして身体強化の応用で、その『微風石』へ魔素を少量流し込んだ。
ふわりと浮かび、ゆっくりと上昇していく木製飛行機、カイト一号。
「わわ! すごいすごーい!」
「いけいけ〜、びゅーんっ!」
「……とびましたっ!」
三人とも目をキラキラさせながら、カイト一号を追いかけている。
「ふむ、もう少しデザインに凝ってみるか」
という事で今度は零戦の形を模倣して作る。
そんなに精巧に覚えているのかと思うかも知れないが、そこは『鑑定眼』の出番である。
実は、この鑑定眼……今気付いたのだが、俺が前世で一度観たものをグラフィックとして投影する機能があるのだ。
もはや鑑定眼の枠を超えていると思うが、出来てしまうのだから仕方ない。
というか、飛竜戦を経てなんかパワーアップしていた。
もしかすると『神技昇華』のスキルのせいな気がするが、あまり気にしたくないのでスルーする。
そう、スルーする。大事なので二回言った。
「色が塗れれば最高だが、塗料はまだ手に入れてないからな。いずれ探しに行かないと」
「お主、またけったいなものを作っておるの」
そんなふうに趣味に没頭していると、ソフィアが起きてきて話しかけてきた。
「飛行機だ」
「ヒコウキ?」
まあ、そういう反応だよな。
という事で完成したので、カイト二号を飛ばす。
「ぬお!? ま、マジかの!?」
「わ〜!! 新しいのきた〜!!」
「カイトすごいすごい!!」
「ごしゅじんっ!」
ソフィアは本気でびっくりしたのか腰を抜かしているが、子供達は目を輝かせている。
キラッキラだ。
ちなみにカイト一号はフィアの手に、
今作ったカイト二号はリュノが追いかけている。
そして俺へ期待の眼差しで見つめるアリシア。
これは欲しいって事だろう。
俺は任せろと親指を立てて、カイト三号機の制作に取り掛かる。
「しかしほんに器用に作るのお主……ドワーフの血が入ってたりせんよな?」
「生粋の人族だ」
「疑わしいのぅ」
「なんでだよっ」
こういう作業は前世から好きだったんだから良いだろ。
「カイトー! もう一個っ!」
「次はもっと大きいのがいいっ!」
「……わたしもほしいですっ」
「分かった分かった」
結局その日は、三人のお姫様にせがまれ、飛行機製造マシーンと化した。
フィア達が楽しそうに走り回る姿を眺めながら、ナイフを動かす。
こういう時間が一番いいな。
だが、いつまでもここにいるわけには行かない。
飛竜にやられたケンたちセントールの事も、水辺の拠点で待つルド達の事も気掛かりだ。
名残惜しいが、そろそろ帰る準備を始めるべきだろう。
___フィア達とも、もうすぐお別れだ。




