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三十七話「風の守護者ヴァファーナ」


 ヴァファーナの瞳が赤く発光し、大きく四枚羽を羽ばたかせた。

 無数の緑光がヴァファーナの周りに出現し、圧縮した風の粒刃へと変化していく。

 粒刃は周りの魔素を取り込み圧縮され、殺傷力を増していく。

 その数は百ほど。

 ヴァファーナが大きく翼を羽ばたかせると、それを合図にしたかのように、無数の粒刃が一斉に俺へ襲いかかってきた。


「___!」


 俺は瞬時に反応し、その悉くを斬り弾く。

 時間にして一秒弱。


「これなら、いけそうだ」


 俺は地を蹴り、ヴァファーナの頭部へと跳躍する。

 ヴァファーナの瞳が驚きに見開いているのが分かった。


「驚いてるところ悪いが、貰ってくぞ」


 そう言って、額の緑石を抉り取るように刀身を斬り弾く。

 だが、そこは大峡谷の元々の主と言ったところか、寸でのところで躱されてしまった。

 流石にそう易々と、取らせてはくれないようだ。


 そんな風に考えている最中も、翼を刃と化し、発達した鉤爪を駆使して無数の攻撃を仕掛けてくる。

 俺はその猛攻にも対応し、剣で全ていなした。


 フシュゥゥゥゥゥゥゥ_________、キュォォォォォォォォォォォォン!!


 全て往なしたのが気に食わなかったのか、ヴァファーナは怒りの咆哮を上げ光の風となり俺へ強襲してきた。

 俺も魔素で身体を強化しヴァファーナの動きに合わせる。

 粒刃、翼刃、突進、鉤爪、俺はその悉くを弾き返し、目で緑石の位置を確認し、額の緑石を狙った。


「ここだ」


 そして一瞬の隙をついて、ヴァファーナの額から『風霊石』を切り離す。

 不意を突かれたヴァファーナは額に走る激痛に苛まれながら魔水晶の壁へと激突した。

 俺はその間に『風霊石』を回収し、『次元収納』へとしまう。

 これで任務は完了だ。

 俺は剣を納刀し、ヴァファーナがもがいている内にこの場を離れようと思ったのだが……。

 体勢を立て直し、怒り狂ったヴァファーナに出口を抑えられてしまった。


「まぁ、そうなるわな」


 何となくだが、薄々は勘付いていた。

 さて、ここからが本番だ。

 今の俺であれば倒すのは出来ると思う。

 だが、翼人族の長ファラは倒すなと言っていた。

 となると逃げるしかない。

 問題はどうやって逃げるかだ。

 もちろんだが、峡谷の中腹や上層には連れて行けない。

 あそこは翼人族達の住む集落があるからだ。

 となると、諦めてもらえるまで下層を逃げ回らないと行けない。


「コイツ、諦めてくれるだろうか……」


 怒り狂っているコイツを見ると、どう見ても無理だと思ってしまう。

 長の妹さんはどうやって持ち帰ったのだろうか。


「うぉ!? あぶねぇ!!」


 俺は飛んできた粒刃を躱しながら、洞窟内を飛び回る。

 背後では無数の粒刃が魔水晶を切り裂き、甲高い破砕音を響かせていた。

 一発でも当たればただでは済まない。


「くっ、洒落にならねぇな!」


 ヴァファーナの猛攻に対処しながら、なんとか洞窟を脱出する。

 魔水晶の通路を駆け抜け、そのまま最下層の岩壁へ飛び移った。


 背後から怒り狂った咆哮が追い掛けてくる。


 俺は岩壁を蹴りながら一気に高度を上げ、下層の岩棚へと身を隠した。

 一呼吸遅れて、憤怒状態のヴァファーナが姿を現す。


「お、おい、ちょっと待て……!」


 するとあろう事か、上空を意識するヴァファーナ。

 大きく羽ばたき、飛ぼうとしたので慌ててヴァファーナの背へ飛び乗る。


「待て! 上に行くんじゃねぇ!!」


 くそ! 外に出たのは間違いだったか!?

 あの水晶の洞窟で気絶させれば良かったんじゃ!

 そう思うが、後の祭りである。


「ぐっ、くそ! 滅茶苦茶に暴れやがって!」


 俺が背に乗った事で、不快に思ったのか身体を大きく揺らし振り落とそうとしてくる。

 このままでは拉致が明かないと思い、その首筋に強烈な掌底を叩き込んだ。

 ぐらりと傾くヴァファーナの巨体。

 そのまま、峡谷下層の床まで落ちていき、大きな音を響かせて、動かなくなった。


「や、やべえ、やっちまった……か?」


 俺は恐る恐る、ヴァファーナに近付き、様子を窺う。

 すると、小さく呻き声を上げているのに気付き、ホッと胸を撫で下ろした。

 俺はそのまま近場の陰へと隠れ様子を見守る。


「目が覚めた時に、そのまま洞窟まで戻ってくれれば良いが……」


 すると、十分ほどでヴァファーナは目を覚まし、大きく首を振った。

 圧が消えている気がする。

 気絶したことで憤怒状態が切れたのだろうか?


「そのまま、帰ってくれ……」


 そう呟くと、願いが通じたのか、ヴァファーナはふわりと翼を広げ、ゆっくりと元いた洞窟『深部の秘奥』へと戻って行った。


「よ、良かった」


 俺は岩場に背を預け、深く息を吐く。

 これで今度こそ依頼は達成だ。

 大きな怪我は無いが、擦り傷が結構あるな。


「まあ、唾付けときゃ治るだろ」


 という事で、下層から脱出し、中層へ。

 もちろん帰りの道中も素材採取は怠らない。


「お?」


 すると、峡谷の裂け目の間に一輪の花が咲いているのに偶然気付いた。

 鑑定眼で調べてみる。



 ◇


 『雫草(ドロップリーフ)

 ・回復効果の高い薬花草。

 ・高位回復薬(エクスポーション)の素材の一つ。

 ・希少度:A


 ◇


「おお! こういうレア素材を手に入れると、やっぱテンション上がんなぁ〜」


 俺は手に入れた『雫草』を次元収納へしまい、素材採取へと戻る。

 しばらく夢中になっていると、あたりが少しずつ影に包まれていく。


「ん? げ、やべえ!」


 気付けば日が落ちて来ていて、慌ててみんなの居る翼人族の集落へと戻った。

 集落へ戻ると、ソフィアが呆れた顔で出迎える。


「カイトや、どこをほっつき歩いとったんじゃ……」

「あー…いや、珍しい素材がいっぱいあったからさ」

「全く……気持ちはわかるが、一言伝えてから、行って欲しかったぞい……」


 そういえば、長のファラから依頼を受けた事をソフィアに伝えずに出てしまっていた。

 これは完全に俺が悪い。


「すまん。気を付ける」

「この前も、そう言っておったの、お主」

「うぐ……」


 痛いところを突かれてしまった。

 だが、これでも気を付けている方なんだ、多めに見て欲しい。

 そう思ったが、ソフィアはジト目だ。

 すすーっと視線を逸らす事にする。


「ふふ、」


 すると、背後から、俺たちのやりとりを見ていたのかファラの微笑が聞こえてくる。

 振り返ると、ファラは一瞬だけ目を開いて、いつもの状態へと戻った。

 もしかして俺の状態を気にしてくれたのだろうか。


「これくらい舐めときゃ治るから気にしないでくれ」

「! ……そういうところなのでしょうね」

「ん?」

「いえ。何でもありません」


 ???

 ソフィアは頷いているが、どういう意味だろうか。

 ま、まあ良いか。


「これが頼まれてたもんだ」


 俺は次元収納から『風霊石』を取り出して、手渡す。


「まさか本当に手に入れてしまうとは……」

「倒さないってのがマジでキツかったけどな。何とか手に出来たよ」

「歌無しでできるなんて……貴方は本当に」

「?」

「いえ、さあ、『風の間』の祭壇へ参りましょう」


 その後、俺はファラに言われて風の間の祭壇へとやってくる。


「おお、来たかカイト」

「ガルド、まだ掃除してたのか」

「ファラ様には腕の古傷を治してもらったからな」

「ん?」


 そう言われて気付いた。

 今まで左腕を庇いながら動いていたガルドが、今は普通に木箒を動かしている。


「飛竜戦の礼の一つだと伝えたのですが、この子は昔から頑固ですからね」

「ファラ様、先ほどもお伝えしましたが、飛竜を倒したのはカイトです」

「知っておりますよ。ですが、カイト殿を最初に受け入れたのは貴方なのでしょう?」

「そ、それは……」

「貴方の娘のリュノから聞きましたからね。カイト殿と一番最初に仲良くなったのは貴方だと」

「ファラ様……」

「人族だからと遠ざけるのではなく、一人の人として貴方も向き合ったのでしょう? カイト殿と同じように」


 そう言って一度俺へも視線を向けるファラ。


「その結果、この里が救われたのです。ですからそのお礼なんですよ」

「で、ですがやはり飛竜を倒したのはカイトですから、このくらいはさせて下さい!」

「堂々巡りですね全く、本当にこの子は頑固なんですから」


 俺がヴァファーナと(じゃ)れていたときも、こんな風に語っていたのだろう。

 何となく、その時の光景が浮かんで苦笑が浮かんでしまった。

 ソフィアも隣で同じような表情を浮かべている。


「こほん、さあ、行きますよ『風の祭壇』はもう直ぐです」


 そんな俺たちの様子に、少し照れくさかったのか、ちらりと俺たちへ視線を送った後、ファラは『風の間』の奥へと歩いていった。


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