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三十一話「ん〜〜ってやるの!」


 フィアは『陽果実(サンピーチ)』を両手で抱えながら、嬉しそうに頬張っていた。


「おいしい〜〜っ!!」


 翼をぱたぱた揺らしながら、尾羽までぶんぶん振っている。

 本当に分かりやすい奴だ。


「そんな気に入ったか?」

「だってこんな甘いの初めてだもん!」


 果汁で頬をべたべたにしながら、フィアは満面の笑みを浮かべる。

 隣では、リュノが小さな口で『雫葡萄(ドロップベリー)』を食べている。

 俺も続けて口にする。


「これ、止まらなくなるな」

「うん、いっぱい食べたいっ」

「見た目は巨峰なのに、味はマスカットに近いんだな」

「きょほー? ますかっと?」

「ん? ああ、なんでもないぞ」


 俺の呟きに反応したリュノの頭を撫でて、誤魔化す俺。

 思わずあっちの世界の果物名を出してしまったが、伝わるわけがない。

 気を付けないと、そう思いながら俺は、フィアへ視線を送る。

 余程、『陽果実(サンピーチ)』が気に入ったのか目を輝かせながら、上機嫌に宙を跳ね回っている。

 そんな折、はしゃぐフィアを見て少し気になる光景があった。


「ん?」


 フィアが翼を羽ばたかせた瞬間、白い羽根の隙間から、淡い緑色の光が周囲に散ったのだ。


「(……羽の周囲が発光した?)」


 気になった俺はフィアに尋ねる。


「フィア」

「ふぁ〜に?」


 もぐもぐしながら返事をするフィアへ、視線を向ける。


「お前、飛ぶ時に翼が光ってないか?」

「ふえ?」


 フィアはきょとんとした。


「そうなのー?」

「……自覚ないのか?」


 するとフィアは、自分の翼をぱたぱた動かし始める。

 やはり、羽根全体が淡い光を纏っている。

 周囲に粒子状の緑光が煌めき、とても綺麗だ。


「ひかってる?」

「ああ、光ってるな」


 宙へ浮かびながら、フィアがえへんと胸を張る。

 なぜ胸を張った? まあ良いか。


 それよりも、やはりただ羽ばたいてる訳じゃないようだ。

 風そのものが、フィアの身体を持ち上げているように感じる。


(スノーと似てる……?)


 脳裏へ、白銀の獅子の姿が浮かぶ。

 巨大化した時のスノーも、背中の翼が淡く輝いていた。


「どうやって飛んでるんだ?」

「ふえ?」


 もう一つ『陽果実(サンピーチ)』を掴むフィアに聞くが、不思議そうに首を傾しげるのみ。

 てか、何個食う気だ? それ五個目だぞ……まあ、まだストックはあるから良いんだが。


「どうやってって……こう?」


 ん〜〜、と唸りながら翼を広げる。


「風さんに、ふわーってしてもらうの!」

「……?」

「ん〜〜ってやるの、こう!」


 言葉の通り、ふわりと、フィアの身体が空気に溶けるように浮き上がる。


「…………」

「…………」


 俺とリュノは、揃って首を傾げた。

 感覚で言われても俺にはわからん。隣のリュノも首を傾げているので、二人揃って突っ込んだ。


「わからん」

「わからない」


「えぇぇぇ!? なんでぇ!?」


 フィアがショックを受けたように翼をばたつかせる。


「感覚だよ感覚!」

「感覚で分かれば苦労しないな」

「……むずかしい」


 リュノまで困った顔をしていた。


「むぅ〜……」


 フィアは少し考え込む。


「じゃあね! こう、体の中を、ん〜〜って流すの!」


 体の中? 気の流れってことか?

 そういえば昔、鍼灸院で治療をしてもらった時、体は気の流れが滞ると不調が出るって説明されたな。

 人の肉体は気が巡るように元々出来てるってことか?


「ふむ……」


 俺はなんとなくだが、理解する。

 早速、試してみようと思い、動く右手を前に突き出す。


「……ん〜〜?」


 でも、それよりも先に、フィアの真似をしてリュノが踏ん張った。

 リュノの後ろ脚が、淡く金色に発光する。


「……え?」


 気付けば、大きな音を立てて、リュノの足元の地面が蜘蛛の巣状にひび割れる。


「「…………」」


 峡谷内が静まり返った。

 ぱらぱらと崩れ落ちる岩片。

 リュノ本人が、一番驚いた顔をしている。


「……ぇ?」


 呆然と、自分の脚を見下ろしている。


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 フィアが翼をばたばたさせながら叫んだ。


「な、なんで壊れたのぉ!?」

「し、しらないよ……!」


 リュノが半泣きになる。

 そんな中俺は、砕けた床岩をじっと見つめていた。


(……今の)


 飛竜の鱗を斬った時、多少の手応えはあったがかなり硬かった。

 もし、今見たような衝撃を俺も使えれば、飛竜相手でも通用するんじゃないか?


「……身体強化、か」


 いや、待てよ?

 俺は岩壁に立てかけてある剣へ視線を向ける。


「(この剣、魔力を通しやすいってソフィアが言ってたな)」


 じゃあ、剣へ魔力の上乗せが出来れば___。

 そんなふうに思考を巡らせていると、フィアの興奮した声に戻される。


「りゅ、リュノすごい! すごい!! 床がわれたよ!? ばーん! って!」

「わ、わたし、なにも……!」


 リュノは半泣きで後ずさる。

 自分がやった事を、まだ理解出来ていないみたいだった。


「……リュノ、お手柄だ。今のを見せてもらったおかげで、糸口が見つかったよ」

「……?」


 よく分かっていなさそうなリュノ。

 伝わるか分からないが説明する。


「多分、“魔力”を身体に流して、力に変換したんだろうな」


「まりょく?」

「……ん〜〜?」


 リュノとフィアが揃って首を傾げる。

 やはり分からないか。

 と言うことで実践して教えることにした。


 右手を前方に出し、瞳を閉じる。

 身体の中心から指先へ魔素が移動するイメ___


「ぐはっ!」

「ダメだよぅ!」

「そうなんだよ! 今何をしようとしたの! カイト、じゅーしょーなんだからね!」


 そう言って、リュノにタックルされ、フィアに薬草を額に叩きつけられる。

 おい、扱いが雑になってきてないか?



 ◇



 そこから数日間、俺は身体を治す事へ専念した。 

 フィアが峡谷の果実を採って来てくれたり、次元収納へ入れていた角兎の干し肉を齧ったり。

 時には、暇を持て余したリュノ達と遊ぶ事もあった。


「まわったぁぁぁ!!」

「わーっ! すごいすごい!!」


 峡谷の地面を、鉄ゴマが高速で回転している。


 元の世界で、子供の頃にハマっていた遊びだ。

 次元収納へ入っていた糸縄と金属片を削って簡単に作ってみたのだが、これが妙にフィア達へ刺さったらしい。


「フィアもやるー!!」


 勢いよく紐を引っ張る。

 だが、上空高く、明後日の方へ飛んでいく。

 ってか俺の頬を掠めたぞ。


「あっ」

「フィアさんや?」


 俺はにっこり笑って頭を掴む。


「ご、ごめんなさーい!!」

「お前は加減を覚えろ!」


 そんなやり取りをしながら、時間はゆっくり過ぎていった。

 そして四日目。


「……よし」


 俺は怪我の具合を確かめる為、ゆっくり拳を握る。

 そのまま、拳を突き出し蹴りを上段に放つ。


 まだ痛みは残っている。

 だが、飛竜と戦った直後に比べれば、かなり身体は動くようになっていた。


「カイト、もうだいじょうぶ?」

「まあ、何とか動ける程度にはな」


 隠れ家の外では、フィアが朝の風を受けながら羽ばたいている。

 淡い緑光。

 ふわりと浮かぶ身体。

 俺は腕を組みながら、その光景を見上げる。


(……やっぱり)


 数日間観察して、確信が持てた。

 フィア達は、無意識に体内の“魔素”を循環させている。

 身体の中に流れる力を、翼や脚へ集めて使ってる……そんな感じか。


 フィアなら翼。

 リュノなら脚。


 恐らく、種族ごとに適性が違うのかも知れない。


「試してみるか」


 俺は右手を突き出しイメージを構築する。

 意識を身体の奥へ沈め、身体の中心から指先へ力が流れるように。

 意識を深めると、身体の中で熱のような何かが流れている感覚があった。


「……これか?」


 次の瞬間、右手が淡く光る。

 が、制御が不十分だったのか、右手がピリッと痺れた。


「いで!? ぐぐっ、あでででで!?」

「……カイト、へた」

「そう言うなって……!」


 これ、マジで痛いぞ!

 腕を枕にして長時間寝た後に、腕を解放した時の痛みの数倍は痛い!

 俺は涙目になりながら腕を擦る。

 だと言うのに、


「だいじょーぶ! フィアが教えてあげる!」

「ギャアアアアア!?」


 フィアが抱きついてトドメをさしてきたのだった。



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