表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/60

二十七話「空を裂く災厄」


 翌朝、水辺の村へ、激しい蹄の音が響き渡った。


「た、助けてくれ!! カイト殿!!」


 切羽詰まった叫び声が俺を呼ぶ。

 反射的に家から飛び出した。


「どうした!?」


 そこに居たのは、全身傷だらけのセントールだった。

 肩で息をし、顔面は蒼白。

 表情だけで、ただ事ではないと分かる。


「む、村が……!」

「っ!」


 その瞬間、小さな影が駆け抜ける。


「リュノ!?」

「みんな……!」


 リュノだ。

 顔を真っ青にしたまま、巨湖の村へ向かって走り出している。


「待てリュノ!!」


 ガルドが叫ぶ。

 だが、リュノは止まらない。

 巨湖の村には、友達がいる。

 それを理解しているからこそ、止まれなかった。


「くっ……!」


 ガルドとリナも駆け出す。


「ソフィア!」

「ああ!」


 俺達も後を追った。

 後方では、ルドが慌てたように叫ぶ。


「儂らもすぐ向かうぞい!」

「……っ!」


 アリシアも不安そうに頷き、

 ルドと共に走り出した。



 ◇



 巨湖の村へ近付くにつれ、空気が変わっていく。

 焦げ臭い嫌な臭いだ。

 地面が、小刻みに震えている。


「……なんだ、これ」


 嫌な汗が流れる。

 瞬間、轟音が響いた。

 まだ距離があると言うのに、物凄い地響きが伝わってくる。

 遠くで、建物のような物が吹き飛ぶのが見えた。


「っ!?」


 丘を越えた瞬間、その姿が見えた。


 巨大。

 ただ、それだけで理解出来る。


 体長二十メートルはある、漆緑の飛竜。

 漆緑の翼に鋭い鉤爪。

 大きく羽ばたきながら、金色の瞳が、地上を見下ろしていた。


「なっ……」


 あまりの光景に言葉を失う。

 村は壊滅状態だった。

 建物は崩れ、地面には巨大な爪痕。


 傷付いたセントール達が、あちこちで倒れている。


 悲鳴に泣き声、それに怒号。

 焼け落ちた建材が散乱し、湖畔には血が飛び散っている。

 まるで災害だった。


「族長ォ!!」


 誰かの叫び声。

 視線を向けるとそこには、血塗れのケンが居た。


 全身傷だらけだ。

 肩で息をし、片腕から血を流している。

 ケンの背後には、怯える子供達が居た。


「巫山戯るなァァァァッ!!」


 咆哮。

 ケンが槍を突き出す。

 だが巨大な鉤爪が槍ごとケンを吹き飛ばした。


「がっ……ぁ……!」

「族長!!」


 地面を転がるケン。

 それでも震える脚で、再び立ち上がる。


「ハァァァァァァァァァ!!」


 物凄い槍捌きだ。

 槍先が赤く染まっていくが、それでも飛竜は意にも返さない。

 黄金の瞳が、ゆっくりと周囲を見回す。

 すると、視線が俺たちで止まった。


「……っ」


 飛竜の視線の先。

 そこに写っていたのはリュノだった。


 本能的に理解する。

 狙われたと。


「リュノ!! 下がれ!!」


 力の限り叫び、突貫する。

 同時に、飛竜が地面を砕きながら突っ込んで来た。

 地が割れ、暴風が荒れ狂う。


「ぐっ!!」


 ガルドが槍で受け止めるが、止まらない。

 圧倒的な質量に膂力。


「ガルド!!」


 リナが横から飛び込む。

 ガルドの槍に合わせて、鉤爪を逸らす。

 だが、無慈悲にも二人まとめて弾き飛ばされた。


「っぁ……!」

「パパ!! ママ!!」


 リュノの叫び声。


 その声に、飛竜の瞳が真っ直ぐリュノを捉える。

 捕獲しようと、巨大な鉤爪が迫った。


「リュノ!!」


 なんとか間に合い、リュノを抱えて転がる。

 轟音と共に、さっきまで居た場所が飛竜の爪で砕け散った。


「カイト!!」


 ソフィアの叫ぶ。


 気付けば、巨大な尾が迫っていた。

 咄嗟にリュノを投げて攻撃から反らせる。

 が、俺は無慈悲に薙ぎ払われた。


「がっ___!?」


 呼吸が潰れる。

 同時に物凄い力で弾き飛ばされる。

 地面を転がり、視界が揺れた。


「カイト!!」


 ソフィアの悲鳴。

 何とか立ち上がる。

 だが、


「いやぁぁぁぁっ!!」


 リュノの泣き叫ぶ声が耳に届いた。


 慌てて、顔を上げる。

 飛竜の鉤爪が、リュノの身体を掴み上げていた。


「ま、待て!!」


 飛竜が翼を広げる。

 瞬間、暴風が炸裂した。


「っ……!!」


 砂埃が巻き上がり、

 視界が茶色に染まる。


 それでも俺は、

 必死に前へ踏み出した。


 手を伸ばす。


 だが届かない。


 飛竜の巨体が、

 リュノを掴んだまま空へ舞い上がっていく。


「いやぁぁぁっ!! カイトォォォ!!」


 泣き叫ぶ声。


 伸ばした指先の向こうで、

 リュノの姿がどんどん小さくなっていく。


「待て!!」


 声の限り叫ぶ。

 だが、飛竜は止まらない。


 巨大な翼が空を叩く度、暴風が地上を蹂躙し、漆緑の巨体は遥か上空へ離れていく。


「リュノォォォォッ!!」


 ガルドの絶叫が、崩壊した村へ響き渡った。

 同時に駆け出す。

 奪われた。

 奪われた!!


「クソったれ!!」

「ま、待てカイト!!」


 血塗れのケンが叫ぶ。


「相手は飛竜だ……! 今追えば、お前まで死ぬぞ……!」

「そうじゃ! 落ち着け!」


 ソフィアも叫ぶ。

 だが、俺の耳には届かない。

 俺は飛竜が消えた空を睨み続ける。


「リュノが攫われた」


 それだけだった。


「流暢な事言ってられるか!」

「馬鹿者!! 相手は災害級じゃぞ!?」

「だからどうした!?」


 即答だった。

 胸の奥が、嫌なほど冷えている。


 守れなかった。

 さっきまで、俺の側に居たのに。

 リュノの泣き声が、頭から離れない。

 拳を握る。


「……カイト殿」


 その言葉に振り返る。

 そこには、ガルドとリナが居た。


 二人とも満身創痍だった。

 それでもガルドは、震える拳を握り締めながら頭を下げる。


「頼む……」


 掠れた声。


「リュノを……娘を助けてくれ……!」


 その声は、今にも壊れそうだった。

 リナも、唇を噛み締めながら頭を下げる。


「飛竜の巣は、北東の大峡谷にあります……」


 震える声。


「あそこは飛竜の縄張りです。本来なら、近付くだけで死ぬ場所」


 それでもリナは俺へ深々と頭を下げた。


「お願い……します」


 絞り出すような声だった。

 俺は静かに頷く。


「絶対に連れて帰る」


 俺は飛竜が飛び去った空を見上げた。

 遥か北東、大峡谷の先へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ