表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/60

二十五話「湖畔の花札」


 リュノの母親、リナから「信じさせて下さい」と言われてから数日。

 俺達は、何度か通った幻想の森を抜け、今日もセントールの集落へ向かっていた。


 頭上では精霊蝶が淡く光りながら舞っている。

 アリシアは頭へ乗った小鳥みたいな環境生物を、落ちないよう両手で支えていた。


「……リュノちゃん、あしすごく、はやい……!」


 感心したようにアリシアが呟く。


 どうやら先日、リュノと湖畔を走り回って遊んだらしい。


「セントールは走るの得意そうだしな」

「……すぐ、いなくなる」

「はは、それはしょうがない」


 するとアリシアは少し考えるように首を傾げた。


「……でも、とりさん、つかまえるの、じょうず」

「ああ」


 リュノはかなり身軽だった。


 湖畔を走り回りながら、小型の鳥を素手で捕まえた時は普通に驚いた。


 しかも、あの身体能力でまだ子供らしい。


「今度、競争でもしてみるか?」

「……!」


 アリシアの耳がぴん、と立つ。


 だが次の瞬間。


「……まける」

「諦め早いな」


 思わず苦笑が漏れた。


 そんな話をしながら森を抜けると、木々の隙間から巨湖ロタンの輝きが見え始める。


「あ! アリシアちゃん!」


 待っていたのか、リュノが湖畔から勢いよく駆けて来た。


「……リュノちゃん!」


 アリシアも嬉しそうに走っていく。


 するとリュノは、得意げに何かを取り出した。


「みて!」


 木で出来た、小さな羽根。


「……?」


 アリシアが首を傾げる。


「こうするの!」


 リュノは両手で棒を挟み、勢いよく空へ放った。

 木の羽根が、くるくる回転しながら空高く舞い上がった。


「……わぁ……!」


 アリシアの耳がぴん、と立つ。


「竹とんぼだ」


 俺が苦笑しながら言うと、リュノは満面の笑みで胸を張った。


「昨日、カイトにもらったの!」


 その声に、周囲の子供達まで集まり始める。


「なんだそれ!?」

「とんだ!」

「すげぇ!」


 更に俺は、次元収納から小さな筒を取り出した。


「こっちもあるぞ」


 輪を液体へ浸し、軽く吹く。


 ふわり。


 虹色の球体が空へ浮かび上がった。


「おぉぉぉっ!?」


 セントールの子供達が歓声を上げる。


 シャボン玉を追い掛け、湖畔を駆け回り始めた。


「……妙な玩具だな」


 後ろから声が掛かる。


 振り返ると、ケンが腕を組みながら竹とんぼを見上げていた。


「まあ、子供向けだけどな」


 俺が肩を竦めると、ケンは竹とんぼを拾い上げる。


「初めて見る遊具だ」

「実は大人向けも考えてる」

「ほう?」


 ケンの耳がぴくりと動いた。


「花札って遊びなんだが」

「はな……ふだ?」


 聞き慣れない言葉に、ケンが怪訝そうに眉を寄せる。


「簡単に言えば札遊びだな。酒飲みながらでも出来る」

「酒じゃと?」


 その瞬間。


 近くに居たドワーフ達とセントールの男達が、ぴくりと反応した。


「カイト、その“花札”とやらはどんな形をしとるんじゃ?」


 いつの間に来たのか、ルドが興味津々な顔で覗き込んでくる。


「んー、こんな感じだな」


 俺は地面へ簡単な図を描く。


 長方形の札。

 そこへ花や鳥の絵を描き込んでいく。


「ほう……」


 ルドの目が僅かに輝いた。


「実物は紙と糊で作るんだが……ルドなら木材でも作れそうだな」

「木札か!」


 ルドが食い付いた。


「面白そうじゃの! カイト、試しに作ってみるぞい!」

「ああ、分かった」

「あ、ちょ、……悪いなカイト」

「いいさ」


 ゼムが呆れたように声を掛けるが、ルドはもう聞いていない。


「カイトよ! 薄い木材は出せるか!?」

「ああ、少し待ってろ」


 俺は次元収納から加工用の木板を取り出す。


 するとルドは、目を輝かせながら木材を掴んだ。


「ほっほっほ! 久々に職人心が疼くのぉ!」


 数時間後。


「完成じゃあっ!!」


 ルドが高々と木札を掲げた。


 表面には花や鳥の絵。

 荒削りではあるが、しっかり札の形になっている。


「早っ」

「ほっほっほ! 儂を誰だと思っとる!」


 得意げに胸を張るルド。


 ゼムとドムは疲れた顔をしていた。


「全部手伝わされたんだが……」

「休憩のつもりだったのによ……」


「細かい事は気にするでない!」


 ルドは笑い飛ばしながら札を並べていく。


「で、カイト。遊び方は?」

「あー、簡単に言えば札合わせだな」


 俺は地面へ簡単な役を書いていく。


「同じ月の札を集めて役を作る」

「ほう……」


 ケンが腕を組みながら覗き込む。


「最初は“こいこい”だけ覚えればいい」

「こいこい?」

「続けるか降りるかだ」


 するとソフィアが札を摘まみながら首を傾げた。


「つまり欲張り過ぎると負ける訳じゃな?」

「そんな感じ」


「ほう……面白そうじゃの」


 そして。


 数十分後。


「ぬぁぁぁっ!? またソフィアか!!」


 ケンが頭を抱えた。


「甘いのぉ!」


 対するソフィアは絶好調だった。


「なんでそんな強いんだよ……」

「勘じゃな」


「絶対嘘だろ」


 俺が呆れていると、隣でリナが真剣な顔で札を睨んでいた。


「……これと、これ」


「お、役だな」

「……っ!」


 リナが少し嬉しそうに耳を揺らす。


 最初は遠巻きだったセントール達も、今では普通に卓を囲んでいた。


「長! そこ捨てたら負けます!」

「うるさい! 分かっとる!」


「ケン、それ振るんじゃ!」

「黙れルド!」


 湖畔へ笑い声が響く。


 気付けばドワーフとセントールが入り混じり、酒を飲みながら花札を囲んでいた。


それから数日。


 昼は仕事。

 夜は花札。


 今ではドワーフ達がセントールの村へ来る事も、セントール達が廃村へ遊びに来る事も珍しくなくなっていた。


 そして今日も。


「ぐっ……また負けた……」


 ケンが机へ突っ伏す。


「ほっほっほ! 勝負は非情じゃな!」


 ソフィアは上機嫌だった。


「嬢ちゃん、絶対運だけじゃないだろ……」

「知らんの」


 そんな中。


「そう言えばカイト」


 突っ伏していたケンが、ふと思い出したように口を開いた。


「眠羊放牧の協力者は見つかったのか?」

「……あ」


 俺は固まった。


「……忘れてた」

「忘れておったんかい」


 ソフィアが呆れた声を上げる。

ルドなんて腹を抱えて笑っていた。


「かっかっか! お主らしいのぉ!」

「いや、花札作りから遊びまで一気に流れたからな……」


 俺は頭を掻く。


 するとケンが酒杯を傾けながら鼻を鳴らした。


「変な男だとは思っていたが、ここまでとはな」

「否定出来ない」


 その時だった。


「……眠羊、って」


 小さく呟いたのは、リュノの父親だった。


 隣ではリナもこちらを見ている。


「あぁ。毛を取るために放牧しようと思ってる」

「狩るんじゃなく?」

「増やす方だな」


 すると、リュノの父は少し考え込むように黙り込んだ。


「……成程」


 ぽつりと零す。


「だから、あの時言っていたのか」

「ん?」

「群れの管理が必要だと」


 俺は頷いた。


「アリシアは世話は出来る。でも群れを走らせたり、追ったりするのは難しいからな」

「……確かにな」


 セントール達は足が速い。

 放牧管理とは相性が良いのだろう。


 少しの沈黙。


 やがて。


「……なぁ、カイト」


 リュノの父が、静かにこちらを見る。


「何か困ってるなら話せ」

「……え?」


「協力出来るかは分からん。だが、お前は俺達へ誠実に接した」


 真っ直ぐな視線だった。


「なら、一度くらい話を聞く義理はある」


 その言葉に、周囲の空気が少し変わる。


 花札で笑っていたドワーフ達も、

 酒を飲んでいたセントール達も、

 静かにこちらを見ていた。


 ケンはそんな空気を感じ取ったのか、小さく口元を緩める。


「……どうやら、お前は思った以上に気に入られているようだな」

「そうみたいだ」


 俺は苦笑しながら頭を掻いた。

 笑い声が響く。


 花札を囲むドワーフ達。

 酒を飲むセントール達。

 リュノとアリシアは精霊蝶を追い掛け回していた。


 最初、あれだけ警戒されていたのが嘘みたいだ。


「……変わるもんだな」


 俺がぽつりと呟くと、隣でリュノの父が鼻を鳴らした。


「お前が変えたんだろう」

「俺だけじゃないさ」


 ケンやルド達を見る。


 こういうのは、一人じゃ無理だ。


 すると。


「……で?」


 リュノの父が酒杯を傾けながら俺を見る。


「本題はいつ話す」

「ん?」


「眠羊だ」


 その言葉に、俺は「あー……」と頭を掻いた。


「完全にタイミング逃してたな」

「忘れてた訳じゃないんだな?」

「半分くらい忘れてた」


 リュノの父が呆れたようにため息を吐く。


 だが、その口元は少し笑っていた。


「……それで?」

「ああ。改めて頼みたい」


 俺は真っ直ぐリュノの父を見る。


「眠羊の放牧をしたい。力を貸してくれないか」

「……」


 リュノの父は少し黙り込む。

 隣ではリナも静かにこちらを見ていた。


 そして。


「……分かった」


 短く、リュノの父が頷く。


「俺とリナ、それにリュノも手伝おう」

「リュノも!?」

「わーい!」


 リュノが元気よく耳を立てる。


 その様子を見て、リナは困ったように小さく笑った。


「この子、もう行く気満々なんです」

「……まあ、助かるけどな」


 するとリュノの父が口元を吊り上げる。


「明日だな?」

「ああ」


 俺も頷いた。

 いよいよ、眠羊捕獲作戦開始だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ