二十二話「職人達の加入」
暫くして、水辺の拠点が見えてくる。
老ドワーフ達はかなりキツそうだ。
「もう少しだから頑張ってくれ」
「ふぅ、ふぅ、あぁ…大丈夫じゃ…」
大丈夫に見えない。
だが、日も落ちてきてしまったので、頑張ってもらうしかない。
俺はドワーフ達を支えながら村まで移動した。
角兎を退けながら進み、村へ到着する。
「ほれ、薬草茶じゃ」
「はぁ、ふぅ、すまねぇの」
ソフィアから薬草茶を受け取ったルド達ドワーフは、食堂の椅子で一息つく。
俺も薬草茶を貰い、椅子に腰掛ける。
すると、ソフィアが口を開いた。
「カイトや、こやつはルド、先日話した洞窟の先にあるドワーフの国の職人じゃ」
「自己紹介がまだだったな。ルドだ。そんでコイツらはワシの倅のゼムとドムだ」
「「よろしくだ」」
ルドと名乗った老ドワーフは息子を紹介する。
双子だろうか? そっくりなので見分けがつかない。
「ああ、よろしくな。俺はカイトだ。一応、この拠点の主人になるのか?」
「そうじゃな」
「……ここ、の……ごしゅじん」
俺の言葉に同意してソフィアとアリシアが相槌をうつ。
それにしても、崩落に巻き込んでしまったのは申し訳ないが、何であんな場所に居たのだろうか。
いや、ドワーフだから不思議ではないが、気になるのはなんで『あんな連中』と居たのかだ。
そう思っていると、ソフィアが尋ねてくれた。
「ルドよ、もしかしてじゃが、強制されたのか?」
ソフィアが険しい表情で聞く。
「ああ、今までは何とかかわして来たが、最近厄介なやつが里に来ての…」
「厄介な奴?」
「勇者の国の貴族がの……この禁域区域の素材目当てに里へ居座り始めたんじゃ」
薬草茶を啜りながら、ルドが深く溜息を吐きながら言った。
「そう言う事じゃったか」
「あぁ。魔鉱石に魔力樹、禁域の素材は高値で売れるからの。さっきの商人も、そやつのお抱えじゃ」
なるほどな。
だからあんな横柄だった訳か。
「追い出せねぇのか?」
「……難しいのぉ」
ルドは苦々しい顔で髭を撫でる。
「小国ランディの姫騎士殿が間へ入ってくれとるんじゃが……どうにも上手くいっとらん」
「ラティアの奴が…そうか、じゃから『堅木樹』がないか尋ねて来とったんじゃな」
「ラティア?」
「ワシの知り合いなんじゃよ。これは憶測じゃか、ラティアはその貴族が来る事を事前に知っておったんじゃろ」
そう言って木製の湯呑みを置いたソフィアは続きを口にする。
「実はのカイトや、ワシがこちらに来たのは、ラティアが『堅木樹』を求めていたからなんじゃよ。恐らくじゃが、こちら側の木材である『堅木樹』を交渉の材料にしようと考えたんじゃろな」
ああ、だからソフィアはあの森に居たのか。
「あの貴族は強欲なんじゃ…」
ルドが苦々しい顔で吐き捨てる。
「『禁域区域を我が領土にすれば全て解決する』などと抜かしとるらしい」
「禁域を領土に……?」
思わず聞き返す。
洞窟だけでも、女王土竜や魔狼みたいな化け物が居る場所だ。
人間が簡単に手を出していい場所には思えない。
「……勇者側の人間は、どうも好かん」
ソフィアが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
だが、その表情には、僅かな陰りも混じっている。
夜も更けてきた。
「色々ありそうだが、一先ず今日は休んでくれ。昨日出来た風呂もあるからな」
「風呂?」
ルドが首を傾げた。
「人の貴族が入ると言うやつじゃな。まぁ、ワシらは側にある水辺で身体を拭うから大丈夫じゃぞ?」
そう言って立ち上がろうとしたルドの肩を、ソフィアが掴む。
「ルドよ」
「ぬ?」
「一度騙されたと思って入ってみぃ」
ソフィアが真顔で頷いた。
「……度肝を抜くぞぃ」
「そ、そこまで言うのか?」
「あぁ。儂も最初は意味が分からんかった。じゃが今では毎日入りたい」
断言した。
そこまで言われると気になるのだろう。
ルド達ドワーフは顔を見合わせる。
「……まぁ、試すだけ試してみるかの」
「「おう」」
数分後。
「「「ふぉぉぉぉぉぉっっっ!!?」」」
ドワーフ達の絶叫が村へ響いた。
「な、なんじゃこれぇぇぇ!?」
「身体が溶けるぅぅぅ!!」
「気持ち良すぎるじゃろこれぇぇぇ!!」
めちゃくちゃ騒がしい。
風呂場の外に居る俺にまで声が響いてくる。
するとソフィアが、どこか誇らしげに頷いた。
「……じゃろ?」
何故お前が得意気なんだ。
その後、夕食を済ませた俺達は、それぞれ休む事になった。
◇
翌朝。
外から響く音で目が覚めた。
「……ん?」
木材を打つような音に何かを削る音、金属音まで混じっている。
俺は寝ぼけ眼のまま外へ出た。
「おお、起きたかカイト」
「……何してんだ?」
村の中央では、ルド達ドワーフが木材を運び、何かを作り始めていた。
「見て分からんか? 家の修繕と改築じゃ」
ルドが当然のように言う。
「いや、何で?」
「何でとは?」
本気で分かっていない顔をされた。
すると近くに居たソフィアが苦笑する。
「儂が話したんじゃよ。カイトがこの廃村を開拓しようとしておるとな」
「もしかして、それで手伝ってくれてんのか?」
ドワーフ達は俺の言葉に頷く。
「洞窟が崩れとる以上、すぐには帰れんしの」
「なら何もしないで世話になるのは性に合わん」
「職人じゃからな」
ゼムとドムも当たり前のように作業している。
ルドは髭を撫でながらこちらを見る。
「と言うわけでカイトよ。悪いが、ワシらもしばらく世話になって良いかの?」
「ああ、俺としても助かる」
正直、ソフィアと二人で開拓するのは限界があった。
俺は補助しか出来ないし、ソフィアに負担が掛かる。
だからルド達の提案は助かった。
そこから、ドワーフの後をついて回ってみる事にした。
ルドは修復された家屋を見回しながら、感心したように頷く。
「ふむ、まあまあじゃな」
「俺には完璧に見えるが……」
何せソフィアが建てたのだ。
俺の目には不具合など見えない。
「人族から見ればそうかもしれんがの。柱がコンマずれとるわい。組み方も繋ぎ目に線がある。ソフィア、速度を重視したの?」
「うぐっ」
ソフィアが図星を突かれたように唸る。
「長く住むつもりなんじゃろ? ならまだ甘い、荷重の逃がし方が弱いの。ソフィア、精進が足らんぞ」
「ぐぬぬ……」
そう言いながら、ルドは壁を軽く叩いた。
ま、マジか、0.5ミリすら言われるとか、ドワーフって厳しいんだな。
すると、後ろにいたゼムとドムも周囲を見て色々と指摘を始めた。
「こっちの屋根も木目に違和感がある」
「ここは作り直した方がいい」
「井戸周りも全直しだな」
次々にドワーフ目線で問題点が出てくる。
……流石、職人集団だ。
と言いたいが、ソフィアが涙目なのでそろそろ勘弁してやって欲しい。
でも、ルド達の駄目出しは止まらなかった。
「この食堂も広げた方が良いの」
「人数が増えたら手狭になる」
「倉庫も必要じゃな」
次々と改築案が飛び出していく。
……あ、ソフィアがいじけて地面に『の』の字を描き始めた。
俺が苦笑を浮かべてソフィアを見ていると、不意にルドが尋ねてくる。
「ふむ……衣類はどうしとるんじゃ?」
「衣類?」
「布製品じゃよ。服に毛布、袋、包帯、色々あるじゃろ」
言われてみれば、確かに不足していた。
今使っている布も、大半が廃村に残されていた物ばかりだ。
最近、アリシアのお陰で、多少は増えたが。
「眠羊の毛で少し作っとる」
ソフィアがそう言うと、ルドが目を丸くした。
「ほぉ、眠羊を確保しとるのか?」
「確保はまだだな、アリシアに協力を頼んで野生の眠羊から毛を分けてもらったんだ」
「……アリシア、が……おせわ、できる」
アリシアが控えめに手を挙げる。
「ほう?」
ルドが感心したように目を細めた。
「嬢ちゃん、眠羊の扱いが出来るんか」
「……うん」
「そりゃ助かるの」
ドワーフ達が頷く。
するとゼムが腕を組んだ。
「なら放牧した方がいいな」
「数を増やせば布不足は解決する」
ドムも続ける。
「冬越しも楽になるぞ」
……なるほど、羊を増やす発想か。
「じゃが、放牧には管理役が必要じゃ」
ルドが髭を撫でながら言った。
「群れ管理?」
「眠羊は大人しいが、群れになると移動範囲が広くなる。慣れん者では逃がすんじゃよ」
確かに、アリシア一人では限界があるか。
するとルドが、ふと思い出したように頷いた。
「……なら、馬人族に頼むのが良いかもしれんの」
「セントール族?」
どこかで聞いた事がある名称だった。
しかし思い出せない。
俺が首を傾げると、ソフィアが説明してくれた。
「移動と放牧が得意な種族じゃよ。馬の体躯に人の様な見た目の種族じゃ」
「あぁ、ケンタウロス族か」
「お主、戦闘に特化した馬人族の名称は知っとるんじゃな」
「え? あ、あぁ」
俺の認識と少しズレるみたいだな。
しかし、ケンタウロス族まで居るのか。
いや、今更か、獣人に妖精猫、ドワーフまで居る世界だ。
馬人族が居ても不思議ではない。
「奴らは群れの扱いに長けとる。眠羊を増やすなら、かなり助けになるじゃろうな」
ルドが頷く。
「そのセントール族は協力してくれるのか?」
「さてのぉ……」
ルドは少し考え込んだ。
「昔馴染みはおる。じゃが最後に会ったのは……五十年くらい前かの」
「長ぇな」
「ドワーフ基準じゃと最近じゃ」
スケールがデカ過ぎる。




