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十八話「小さな手伝い」


 勢い良く振り被る俺。

 そのままの勢いで黒斧を振り抜く。

 空気を裂く音が刃から発せられ、間を置いて重い衝撃音が森中へ響いた。


「……っ、おお!?」


 思わず声が漏れる。

 肩から振り下ろした黒斧は、堅木樹の幹へ深々と食い込み、三分の一を削っている。


 前回、鉄剣を粉々にされた相手だ。

 なのに今回は違う。

 堅木樹というだけあって、確かに硬い。

 だが、刃が負けていない。


「もう一発……っ!」


 力の割合を増やし、脚と腕に力を込め、捻りを加えて振り被る。

 戦斧を一閃し、その勢いのまま横薙ぎ。

 物凄い轟音と重音が響いた。

 幹が大きく軋み、葉が震えて枝先から鳥が飛び立っている。


「すげぇ……!」

「当たり前じゃろ」


 テンションそのままに声を発すると、後ろから呆れた声。

 振り返れば、腕を組んだソフィアがドヤ顔で見ていた。


「誰が打ったと思っとる。前の鉄屑と一緒にするでない」

「鉄屑って……前の剣も十分助かったんだけどな」

「ふん」


 照れ隠しみたいに顔を背ける。


「にゃ」

「……ぁ」


 少し離れた場所では、アリシアの肩へ乗ったスノーが喉を鳴らしている。

 アリシアはそんなスノーを撫でながら、俺の方を見ていた。

 珍しく視線を逸らさない。

 応援でもしてくれてるんだろうか。

 そう思うと、少しだけ気合いが入った。


「よし、倒すぞ……!」


 再び斧を握り直し振りかぶる。

 轟音、重音、衝撃音、全部で三撃。

 幹の直径は約三十メートル。

 それが、たった三回の打ち込みで傾いた。

 ミシミシっと音を立てて揺れる『堅木樹』。

 倒壊の一歩手前だ。

 大きく黒斧を振りかぶり、トドメの一撃を浴びせる。


「っ、らぁ!!」


 全身の力を乗せた一撃。

 切り込みとは反対の樹肌が振動し、木片が飛び散った。

 ギギギ……ッ、と巨木が傾き始める。


「下がれ!」


 俺の声に反応し、ソフィアとアリシア、そしてスノーが距離を取る。

 支えを失った巨大な堅木樹は、地響きと共に倒れた。

 森が揺れ、葉が舞う。


「お、おお……」

「ふむ、問題なさそうじゃの」


 ソフィアが腕を組み、黒斧の刀身を確認しながら言った。

 

「刃こぼれも無し、傷もなし、うむ、我ながら良い武器ができて満足じゃわい」

「本当にもらっていいのか? 金取るとしたら結構するんじゃねえか?」

「そうじゃの。金貨100枚はするかの」

「……金貨100枚」


 日本円でどのくらいなのだろうか。

 基準がわからないので反応に困ってしまう。


「それってどのくらいなんだ?」

「……」


 金の価値がわからないと伝えたからだろうか、『マジかこいつ』みたいな視線を向けてくるソフィア。


「……おおきい、おうち……」

「マジで……?」


 代わりにアリシアが答えてくれた。

 でかい家が買えると。

 少しずつ心を開いてくれている様で嬉しいが、それよりも俺はアリシアが発した言葉に戦慄してしまう。

 この斧一本で家が買えるって、マジか。

 俺はとんでもない物をもらってしまったのではないのだろうか?

 いや、そう言えば、朝方、未来投資とかソフィアは言ってたような……もしかして俺は取り返しのつかない取引をしてしまったのでは。


「お、おい、マジでもらっちゃっていいのか?」

「良いぞ。その代わりちゃっちゃか働くのじゃ」


 これはマズイ。

 少しでも早めに拠点の村を充実させてソフィアを満足させないと、怖い借金とりに変貌しそうだ。

 俺は気を引き締め、ソフィアの言葉通り、次々に堅木樹を切り倒していく。


「……す、ごい」

「そうじゃな」


 アリシアの小さな声にソフィアが反応する。


「そろそろ分かったんじゃないかの? あやつは違うと」

「……う、ん……」


 アリシアを虐げていた人族とは違うと、カイトは信じても良いんじゃないか? そんな視線を瞳に乗せて、ソフィアはアリシアを見つめる。


「……まだ、ちょっとこわい……でも……」

「……」


 ゆっくりだが、それでも自分の気持ちを言葉にしてアリシアは伝える。


「……あのひと、は……あんぜん……」

「そうじゃな。あやつは絶対にアリシアに危害は加えんよ」

「……う、ん」

「ほれ、あやつがきたら渡してみい」

「……は、い」


 カイトは必死に堅木樹を切り倒している。

 そんなカイトを見て少しずつ表情が柔らかくなっていく羊耳の少女。

 いつしか彼女は、カイトを目で追うようになった。

 そんなカイトが、肩で息をしながらやってくる。

 ちょっぴり、体が震える。

 やっぱりまだちょっと怖い。

 アリシアは、手に持った木製の水筒を握りしめる。


「はあ、はあ、」

「お疲れじゃ、しっかしお主相変わらずの剛力じゃの」

「はあ、え? 何だって?」


 ソフィアが何か伝えてくるが、久々に全力を出したので聞き取れない。


「……お、みず……」

「ん、お?」


 気付けば、アリシアが側で水筒を渡して来てくれる。

 若干まだ震えている。

 怖いのを我慢しながらも勇気を出して渡しに来てくれたのかも知れない。

 自然と表情が柔らかくなる。


「ありがとな、アリシア」


 自然と笑みが溢れた。

 礼を言って受け取り木蓋を外して水を飲む。


「……っ」


 そんな俺の様子を観察し、アリシアの羊耳がぴくりと跳ねた。

 隣でソフィアが耳打ちする。


「(どうじゃ? 役に立ったじゃろ)」

「(こくり)」


 とても小さい声なので内容は聞こえないが、頷いたアリシアの表情は柔らかくなっているので良しとしよう。


 それから暫くして、日が傾く頃には切り倒した『堅木樹』の山で視界が埋まっていた。


「ちと、張り切りすぎたか……」

「カイトや、お主は極端すぎやせんか」


 ソフィアも積み上がった『堅木樹』の山を見て深いため息と共に呟く。


「いや、早く開拓しねえーと、と思って」

「それでも限度があるじゃろ。これだけの木、拠点と同じ建物が十棟は立つぞい……」

「ま、まあ、素材はある事に越した事はねえだろ?」


 そう言って、『次元収納』へ『堅木樹』の山を次々放り投げていく。


「……ごしゅ、じん……すご、い……」

「ん?」


 素材をせっせと収納しているとアリシアが俺に対してそんな事を呟いた。


「……ちか、ら……もち……」

「そうか? なら頑張っちまうか!」


 アリシアに話しかけられ嬉しくなった俺は、『堅木樹』を2本同時に持ち上げる。


「ぐ、お__っ!」


 流石に重かった。

 地面に足がめり込む。


「何しとるんじゃお主、馬鹿なのかえ?」

「う、うるぜえ……」


 ソフィアのツッコミに、んぎぎぎぎっ、と力みながら答える。

 アリシアは目を大きくさせ、あっけに取られていた。

 はは、あんな顔もできるんだな。

 なら無理して持ち上げた甲斐があったな。



 ◇



 『堅木樹』の回収を終え、拠点へと戻ってくる。

 長時間、堅木樹を持ち上げていたので腕が張りまくっている。


「カイトや、これから風呂作りじゃぞ? そんなに疲れてて大丈夫なんじゃろうな?」

「……ぶっちゃけ明日にしない?」

「ど阿呆、お主が風呂欲しい言うたんじゃろ。わしらは水浴び出来ればええんじゃ」

「……こくり……」


 そう言われては頑張るしかない。

 風呂の良さを教えるためにはここでもう一踏ん張りが必要だ。

 本音は水辺の水は冷たすぎるので、暖かい湯が欲しいのだ。


「…さあ、やろうぞ」

「なんじゃその口調」

「……やろ、うぞ……」

「真似せんでいい」

「……!」


 ソフィアのツッコミを彼方に、拠点裏へと移動する。

 場所は鍛冶場の真横。

 詳しく説明すると、拠点の裏口から数十メートル離れた場所に建築する事にした。

 拠点裏戸口から風呂場の入り口までは、庭を作ろうかと思っている。

 日本庭園風だ。

 これはソフィアとも相談して決めた。

『なんじゃ、この様式は! こんな様式見た事もないぞ!』と簡単な絵を起こして見せたら鼻息荒く説明をせかされた。


 と言うことで石材や木材を取り出し、準備を始める。


「まずは土台じゃな。カイト、そっちの角材をこっちへ頼むぞい」

「おう」


 俺はソフィアから指示をもらい次々と作業をこなしていく。

 最初の頃は戸惑ったが、今は指で教えてくれるので効率が上がった。


「ああ、その丸太はそっちの柱じゃ」

「こっちだな」


 組み立て方も教わり、順調に土台が組み上がっていく。

 っと、そろそろ、前回ストックしていた加工材が切れそうだ。


「ほれ上がったぞい」

「おっと」


 だが、そこはソフィアである。

 加工木材が切れそうなのを見越して、次々に加工木材を生産していく。指示の合間にだ。

 この辺はすごいとしか言いようが無い。

 アリシアは平然と見ているので、やはりこれがドワーフの基準なのだろう。

 俺には真似できないが。


「ん? アリシア、お主も手伝ってくれるのかの?」

「……は、い……はこび、ます…」


 すると、アリシアが自発的にソフィアの手伝いを願い出た。


「じゃあ、これをあの板のところに並べてくれるかの?」

「……は、い」


 アリシアは小さな補強板を抱え、ちょこちょこと資材置き場へと移動する。

 置き終わったアリシアは、ソフィアの隣へ戻る。

 ソフィアから受け取り、資材置き場へ行きまた戻る。

 なんだか可愛くて、ついつい目で追ってしまう。


「…カイト」

「ん?」

「手が止まっとる」

「あ、わりぃ」


 ソフィアに突っ込まれてしまった。

 アリシアもこちらを見て、小首を傾げている。

 俺は苦笑を浮かべて誤魔化し、作業へと戻る。


「まったく、お主はすぐ余所見するの」

「いや、だって可愛いだろ?」

「それは否定せんが、作業を進めんと終わらんぞい」

「わ、分かってるって」


 俺はソフィアのお小言を耳に受け、作業を再開した。

 因みにスノーは拠点の屋根でくつろいでいる。


 暫くして、夜が深けてきた。

 俺は木材を手に、地面に突っ伏している。

 流石がに限界だ。眠くて仕方ない。


「しょうがない奴じゃの……今日はここまでにするかの」

「そうしてくれ……」


 まじで、こんな夜更けまで作業させるなんて、人使いが荒すぎる。


「……まあ、明日には完成するじゃろ」


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