歌は、希望になりますか?
昼の暑さも、陽が落ちれば少しマシになる。
それでも、歩き進めればじんわりとにじむ汗に思わず眉をしかめる。
手を引くサクラの首もとにもじんわりと汗が滲んでいた。
「この近くに湖がありまして。そこの近くに蛍が群生してるんですよ」
そう地元の人から教わったのは先週の昼のこと。
生憎の雨や俺の仕事が終わらず、来れたのは今日になってしまった。
屋敷から少し歩くが、この街の名物らしい。
ひまわりが植えられたあぜ道を進み、開けた先には満点の星空が見えた。
違う。
あれは、蛍だ。
飛び交う蛍はまるで星のようで。
蛍の軌跡が、まるで流れ星のようにも見えた。
『湖畔に蛍が見える』
そう言って誘ってくれたのはいつだったか。
王子としての毎日に追われ、結局今日まで見に行けなかった。
「綺麗だな…。こんなに綺麗なら、もっと早くに来ていればよかった。」
目の前に広がる景色に目を奪われる。
「サクラ、遅くなってごめんな」
ふわりふわりと飛んでいた蛍が、ふと指先に止まった。
「ほら、サクラ。蛍が…」
ぽわり。
ぽわり。
ゆっくりと点滅を繰り返す蛍を見せるため、指先をサクラに向けた。
「あ…」
指の動きに気付いたのか、ゆっくりと飛び立った蛍が今度はサクラに止まる。
ぽわり。
ぽわり。
揺蕩うように光る蛍に、昔サクラがよく口ずさんでいた唄を思い出した。
古い子守唄の一節。
---瞬く星に願いをこめて
---逢えぬ日々に想いを込めて
---おやすみ、愛しい我が子よ
「優しい夢を…」
少し外れた調子で、唄を紡いだ瞬間。
サクラの指が揺れ、蛍がふわりと飛び立った。
『また外したぁ。』
まるでそうサクラに笑われているようで。
「…調子が悪かっただけだ。」
誤魔化すように呟いた。
仕方ないだろ。
…唄は昔から苦手なんだ。
「きっと…サクラなら、得意気に唄うんだろうな」
そう呟いたとき、鼻唄が、聞こえた気がした。
小さくて消えてしまいそうな…サクラの鼻唄が。
「サクラ?」
そこにはただ前を見るサクラがいただけだった。
「そんな、わけないか…。そろそろ、帰ろうか。」
ゆっくりと立ち上がり、サクラの手をつなぐ。
ゆっくり。ゆっくりと。
少しずつ遠ざかる蛍の光、少し惜しむように。
淡い月明かりに照らされたあぜ道を、サクラの手を引きながら屋敷へと戻った。
鼻唄が、聞こえた気がした。
小さくて消えてしまいそうな…。
サクラの鼻唄が。
~・~・~・~・~・~・~
ゆらゆらと揺れる蛍を見て、まるでシオンが唄う子守唄みたいだと思った。
完璧にこなすくせに、大事なところで音を外す。
少しからかえば、調子が悪かったのだと誤魔化してた。
そんな景色をシオンと一緒に見たいと思った。
ただ、一緒に。
----瞬く星に願いをこめて
----逢えぬ日々に想いを込めて
----おやすみ、愛しい我が子よ
----愛を込め




