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空は、僕らを繋ぎますか?

「シオン、すぐに戻ってこい。すぐに、だぞ。」

そうユージンから連絡を受けたのは朝方のことだった。


書類に不備でもあっただろうか。

暑さが和らいできたから、サクラと少し遠出でもと考えていたのに水を差された気分だ。


城に戻るのは気が重い。

サクラのもとへ通うことを快く思っていない貴族たちが口煩い。

一年という言葉も聞いていなかったのだろうか。



仕方ない、か。


サクラの顔を見て、城に戻ることにしよう。

背もたれにかけた服を手に取り書斎を出る。




静かにサクラの部屋を訪れる。

この時間だとまだ眠っているか…。

音を立てないように部屋のなかを覗き込むとサクラの目は開いていた。


「サクラ、もう起きてたのか?」


ふと目をあげると、薄紫の夜空が目にはいった。

…朝焼けを見に行こう。


「サクラ、屋敷を抜け出そう」

そう言って、羽織るものをサクラの肩にかける。

夏とはいえ、朝方だと肌寒くなってきたな。



「よし、行くか。あ、静かにな?侍女長にバレると大目玉を食らうだろうから。」

しーっと唇に人差し指を当てれば、静かに部屋を出る。





「ほら、ついた」

屋敷から少し離れた高台。

辺りはまだ暗くて、夜の匂いがする。


「サクラ、寒くないか?」

ベンチに座らせれば羽織を整えてやる。



「あのときは離宮だったな。」

毎年、この時期になると王城で大規模な夜会がある。

夜通し行われる夜会に、婚約者となった俺たちも呼ばれていた。

立ち代わり挨拶に来る貴族たちを捌きながら、夜会から抜け出した。


抜け出した先は離宮だった。

ゆっくりと陽の光が庭や眼下の城下町を染めていくのをただ見ていた。


少し、また少しと。

陽がゆっくりと登る。


薄暗くなった空の色と同じものを見つけた。


「…俺と同じ名前の花があると教えてくれたのも、あのときだったな」


『この花、紫苑っていうんです。シオン様と同じ名前の花です。』

そう言って差し出されたのは小ぶりの薄紫の花。

そのまま、楽しそうに俺の髪に差し込まれた。


似合いますね。

なんて楽しそうに笑うから、取るに取れなくって。


サクラはそのまましゃがみこんで、花の先を摘んで花束を作っていた。


『シオン様。どうぞ。』

そう言って渡された花束。

あの花束のお礼にと、アメジストのネックレスを送ったんだったな。



「俺は花には詳しくないから。俺と同じ名前の花があるなんてサクラに教わるまで知らなかったけど…。」


一本だけ。

ぷつんと紫苑を摘み取れば、優しくサクラの髪に差し込む。


「やっぱり、俺なんかよりサクラの方が似合うよ。」


そうやって笑って見せる。


小さく…。

隠すように呟いた。


「サクラに、だからな。」

届けたいのは。



優しくサクラの髪を撫でる。

そのとき、サクラの睫毛がかすかに震えた気がした。



サクラの手を引いて、高台から街を見下ろす。


あの日と同じように、サクラの横顔を陽が照らす。

紫苑の花も、淡く照らされて…。



あぁ、夜があける。



****

紫苑の花が揺れる。

彼と同じ名前の花が一面に広がっていた。


一本。

また一本。


そうやって紫苑を摘んで作った小さな花束。

その花束に小さなねがいを隠した。



紫苑の花を知らなかったシオン様は、きっと知らないだろうから。


この花のように…私はいつもあなたを想っていることを。



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