第十話 「学園都市ノウェリウム」
てな訳で、軽い運動をしたりして時間を潰した。
休憩開始から約1時間。
ついに出発である。
なんの話をしている、それは嘘だ。
今日はこのまま、ここで一泊する。
水辺もあり、広々として比較的安全なここで一泊する。
日没までにまだ時間はあるけど、この人数と馬の疲弊を考えてのことらしい。
流石に半日で4分の1が終わる旅にしては時間かかり過ぎやと思ったけど、これやからか。
こうなるんやったら、土で作られたただの道じゃ無くて、ちゃんと壮美な石畳の道ぐらいにはすればええのに。
移動速も上がるやろうし、馬車の揺れも小さくなりそうやけど。
いや、馬の足が痛むとかあるんかな?
知らんけど。
でも、中世ヨーロッパやと石畳の上、普通に歩いてるイメージあるけど。
どうなんやろ。
上り坂は変わらんからあれかもしれんけど。
教師陣は大きく二つに分かれた。
見守り班と狩猟、料理班の二つに。
生徒らは暇持て余すが、四歳程度なので、この程度の暇はただの遊び時間に消えた。
狩猟班が採ってきたであろうデカい獲物を見て驚いたり、夕食を摂ったり、談笑したりして、一日目が幕を下ろした。
山々に消える太陽はとても美しかった。
――
「ナーリア、おはよ」
「え、あ、はい。マルチダさん、おはようございます」
「さんなんていいわよ。もう一週間も一緒にいるんだから。私たちお友達でしょ」
「分かったで、マルチダちゃん。どうしたん?」
「いや、何でもないわよ」
なんか変な感じやったな。
何やったんやろ。
まぁ挨拶しただけか。
ちゃんと挨拶できるやつはええ奴や。
マルチダへの好感度が上がったナーリアであった。
的な?
一週間ずっと寝食を共にしてたんやからそれぐらい分かってるけど。
マルチダは明るくて、若干直情的。
フレッドはちゃんと兄貴やってる五月蝿い奴。
シャモンはあんま喋らん割に、話し出すと止まれへん。
タムシンは基本最初思ったんと変わらんけど、貴族の女の子感は俺より断然やな。
ちゃんと貴族してる。
先生はまだよう分からん。
今日ついに学園都市ノウェリウムに到着する。
一週間長いようで短かったけど、ええ旅やったな。
これぐらいならめっちゃしてもええねん。
一日二日じゃ短いけど、一ヶ月とかは長過ぎやからな。
できること少なかったり、長過ぎたら逆に飽きて来て楽しまれへんからな。
いろんな風景見れてよかったとは言われへんけど。
あの湖が1番綺麗やったし。
まぁ山登り出したらしゃあないかも知れんけど。
まだ寝ている3人を置いて、馬車を降りようとすると、小声で唆された。
「ナーリア、タムシンを起こして、兄弟にドッキリでもしましょう」
「へ?ほ、本気?」
「本気よ。何をしましょうか」
「どうしたん?何か二人にされた?怒ってんの?」
「怒ってないわよ。私たち友達でしょ?」
明らかに怒っている。
何やってんこの二人。
てかドッキリって、まあええか。
オモロそうやし。
――
二人の起きる時間は分からないが、まだ時間はある。
タムシンを起こし、そっと馬車を降りる。
大体6:00ぐらいかな。
時計は高価で時計塔があるぐらいやから、正確な時間などは分からへん。
感覚頼りなのだ。
「何か案はある?」
「本当にするんですか」
「当たり前よ、タムシン」
小声でタムシンの耳に呟く。
「こうなったら、やるしかないんちゃう。知ってるやろマルチダちゃんの性格」
「そ、そうですね」
「そうね。何がいいかしら」
寝てる相手にドッキリか。
なんかええの無いかな。
何かを話しながら飛ぶ数羽の鳥。
山々が反射する湖。
湖、水、寝てる。
寝耳に水?
ちゃんと驚くんかな。
晴れてるし、雷落ちたりして。
そんなわけないか。
「寝耳に水作戦は?」
「寝耳に水?何よそれ」
「えっと、言葉通り、寝ている人の耳に水を入れたら、びっくりしてしまうって言う言い回しやな」
「そ、そんなことしたら耳が痛いんじゃないでしょうか」
「それがいいわね」
嬉々とした目。
大きく開いた瞳孔は朝日に照らされ、また萎む。
まぁこれぐらいならええやろ。
別に怪我もせんし、大した利器もいらんしな。
魔法でも水なら出せるし、簡単やしな。
ちょっと痛いぐらいどうでもええし。
暫くして叫び声が馬車から聞こえたのは言うまでもない。
何とも愉快な仲間たちである。
その辺を歩いていたシルバーニ先生を捕まえる。
「シルバーニ先生。乗せてや、その背中」
「ダメだ」
「ええやんか。ちょっとだけやって」
「ダメだ」
「じゃあ、ちょっとお話ししよ」
「どうかしたのか?」
「先生って、私たちの担任の先生になるん?」
「そうなるかも知れないが、まだ分からんな」
「そうなんや」
「ただ、多分お前たちの国語は受け持つことになるかもな」
「先生って国語の先生やったんか。なんか意外やな」
「どうしてだ?」
「何となく?」
「そうか。まぁいい」
それからも話を続け、朝食の時間となる。
この旅最後の食事。
いつも通りのサンドイッチ。
少ししか変わることはない風景。
すぐそこのように見える目的地。
と言っても後数時間はまだ馬車で走らなあかん。
サンドイッチを貰い、馬車で話しながら食べる。
もう既にネタなど尽きており、俺の覚えた絵本を記憶から再生するというのがここ二、三日続いている。
前世のものや、去年、一昨年に読んだこの世界の物語。
俺が脚本を構成し直し、面白おかしく表現する。
まぁ俺自身はツッコミやったからそんなオモロくできひんねんけど。
桃太郎は鬼に金的を食らわせたりな。
こんなことを考えても股間は痛く、震え上がったりはしない。
ラッキー?
そうゆう事にしとこ。
さっと脚を閉じた兄弟を見てそう思った。
――
朝食開始から一時間ほどが経った。
教師陣の準備も終わったらしく、出発や。
無限の彼方へさあ行くぞ。
何つって。
うん、やっぱ俺おもんな。
それに山の方見上げたらもう見えてるしな。
無限って何なんやろな。
哲学かな?
もうええか。
――
「見えたぞ」
「「「お、おー」」」
「「スッゲー」」
「きれいだね」
「何というか美しい街やな」
「すごいですね」
門などはなく、そのまま馬車は街に入って行く。
崖を切り拓いて作り出した街。
背後には巨大な山嶺。
その元でお高く止まる学校。
その前面に広がる様々な施設や町。
馬車は広場に停まる。
ここからは歩きやねんて。
だいぶキツそうやけど大丈夫なんかよ。
なかなか上の方やぞ学校。
「よし、皆んな。行きたいところはあるか?」
「「「「・・・?」」」」
ドユコト?
学校行くんじゃないんか?
揃いも揃って首を傾げる。
顔を見合わせても何も思いつかへん。
「学校に行くんじゃないの?」
皆の気持ちを代弁してマルチダちゃんが質問する。
「行ってもいいが、何をするんだ?」
「そうやなくて、学校でなんかすることあるんちゃうって話やろ。今さっき着いたばっかりやねんから」
「・・、そう言うことか。今日は特にすることはないぞ。と言うか、入学式までは特にすることもないぞ。準備ぐらいで。だから、街を回って色々しようってことだ」
「そうやったんか」
ほぼ一ヶ月暇ってことか。
ええやん。
この街で遊んだろ。
どんな遊びできんのかすら知らんけど。
金もそんな無いしな。
「それで、どこか行きたい所あるか?」
「そろそろお昼時だし、ご飯に行きたいわ」
「腹減ったー」
「ワタシも」
そう言いながら腹を鳴らすタムシン。
赤らんだ顔が美しく街に映える。
「先生、どっかええとこ連れてってや」
「そうだね。皆んな来たばっかりで何も知らないしね」
「期待してるっす」
「分かった。食べたいものはあるか?」
「何でもええなあ」
「何があるのかしら」
「ステーキ!!」
「ワタシはここの名産のものがあればそれがいいです」
「それええな」
「そうだね。そうしよう」
「よし、分かった」
シルバーニ先生は手を顎に当て、考える仕草を見せる。
なかなか絵になるもんやな。
よしと頷き、ついて来いと言わんばかりに歩き出した。
飛びつきたい。
サラサラとした毛並み。
整った模様。
小さく揺れ、風を受ける尾毛。
子供なら二人いや、三人乗れそうな背中。
飛びつきたい。
やったらあかんかな。
今朝おもっきりダメって言われたけど、ほんまにあかんかな。
飛び乗るには若干高いけど、跳び箱みたいに跳べば届くやろ。
ナーリアの理性は欲望に負けかけていた。
右手を掲げる。
ステップを踏み走り始めようとしたが、突然後ろを振り返ったシルバーニ先生の目がこちらを向いた。
咄嗟に目を逸らす。
また前を向いて歩き出す。
気のせいやったんかな。
普通に歩きマッカーサー。
――
連れられてやって来たのは『おかんの家』と書かれた看板の付いた小さなお店。
隠れ家的なお店で、店の中を覗くと元気そうなおかんが台所に立っていた。
カランカラン。
ドアを開けると、ベルが響き渡る。
先生の後ろを後ろを追うように俺たちは店へと入った。
「いらっしゃい」
「こんにちはー」
先生の挨拶にみんなが続く。
「「「こんにちは」」」
「お邪魔しまーす」
「はーい。いらっしゃーい」
ちょっと残念。
流石に「邪魔すんねやったら帰ってー」とは言われへんかったか。
しゃあないか。
ここ異世界やし、関西ちゃうし。
テーブル席に座る。
先生は椅子を四つほど並べてその上に座った。
置き物みたいやな。
招き猫とか狛犬とか。
こんなこと言ったら怒られるか。
まぁそんな文化知ってるやつおらんしな。
この世界には。
先生はメニューを俺たちに見せる。
読めはすんねんけど何がええかなんて何もわからんのやけど。
どうしたもんかね。
「先生、オススメある?」
「あるぞ、これだ」
ここでも皆んなの気持ちを代弁してくれるマルチダちゃん。
先生の指先にはこう書いてあった。
『ワイドトード(大蛙)の大胆焼き』
カエルね、カエル。
カエル。
「じゃあ私はそれ」
「ワタシもマルチダさんと同じでお願いします」
「俺はこのベルグタートル(山岳亀)の甲羅煮。二人で食べようぜ」
兄弟は二人で同じ鍋を囲むらしい。
そんな簡単に決められへんて。
皆んな早ない。
日本じゃ食われへんもん食うか。
いつか日本食も食いたいけど、とりあえずは知らんもん食ってみっか。
ヤバそうやけどこれでええか。
「えっと、スケルトンスネーク(透明蛇)の痺れ蒸しでお願いします」
透明もよう分からんけど、先ず痺れ蒸しとは。
まぁいけるっしょ。
店で出してるんやし、毒ではないやろ。
いくら異世界やっちゅうても、毒を普通に出すわけないやろ。
談笑しながら料理の到着を待つ。
おかみさんいや、おかんとおとんの二人で切り盛りでしいるらしい。
少し雑談をしていると、舌を刺激する芳醇な香りと共に甲羅煮が運ばれて来た。
甲羅を鍋替わりとしてその身をその鍋でグツグツと煮詰めた料理、煮詰まった香草と、野菜、そして亀の肉がいい匂いを生み出している。
そして次々と運ばれる。
カエルが来た。
嬢ちゃん二人だったよねと言いながらその皿を置くおかん。
こちらは照り焼きのような匂いを漂わせる。
琥珀色に輝くその表面には油が煌々と光っている。
そしてやってくる俺の蛇。
蒸篭のような容器。
「「「「いただきます」」」」
「どうぞー。召し上がれ」
蓋を取ると、ボアっと湯気が広がる。
匂いだけでなんかピリッとした感じがする。
でもそれが、鼻腔を刺激し、口の中の海が広がる。
マジでうまそ。
いただいます。
ナイフとフォークで戸愚呂を巻いた蛇を切り分け、口に運ぶ。
山椒のような痺れ、そして口に広がる繊細な甘さのある旨み。
鶏肉のようなしっかりとした身がほろほろと解ける。
あっという間に食べ終わってしまった。
ぱくぱくと食べ進め、俺が食い終わった時には大半が終わっていた。
味見してみたかったけどしゃあないか。
いや、美味かった。
「「「「ご馳走様でした」」」」
「美味しかったー」
「本当に美味しかったです」
「旨かったぜ」
口々に感想を述べる皆んな。
俺も続いておいた。
「良かったわ。ノウェリウムの学生になる子達かな?またいつか来てね。待ってるわよ」
「「「「はい」」」」
「元気でいいわね」
「そうですね。ははは。ご馳走様でした」
笑って同調する先生。
カランカラン。
音を立てて開くドア。
来たときよりも何となく軽快な音に聞こえた。
そういえば、透明って何やったんやろ。
全然白身ぽかったけど。
皮が付いてたら透明になるんかな?
どうゆう原理?
あるとしたらカメレオンみたいに変色するとかか?
まぁ何でもええか。
そしてまた、シルバーニ先生に連れられて街を歩いて行く。




