第九話 「出立」
目標「学校での目標を学校までに考える。」
「良妹賢姉」
今日はもちろん市場街に用があるわけでは無い。
いつもとは違うゲートから街に入った。
この街は実は十字通路の端と真ん中に円が付いたような作りをしている。
市場、普通の商業街、住居、工場、そして貴族のエリアがあるらしいが、そんなことはどうでも良く、今は学校行きの馬車に乗るため、住居街と商業街の間の通路に居る。
ここで馬車に乗れば、誰も知らない状態で一週間馬車に揺られる。
ルスヴァフさんは買い物ついでについて来ただけで、ここでバイバイや。
メインは俺の方やろうけど。
「ナーリア様も大きくなられましたね。今更かもしれないですけれど、もう学校に行く年になったんですよ」
「うん、せやな」
「寂しくなりますね」
「それは無いやろ、確かに俺は居らんくなるけど、アルバンが居るやん。また忙しい日々の始まりやで」
「そうですね」
旅立ちにしては暗い、灰色の空。
ときどき姿を覗かせる太陽は輝いている。
周囲を見ても見知った顔はなく、石造りの街並みと、日々の生活を送る人々。
この世界では聞くことも殆どなかった街の喧騒。
――
5台の馬車が並びやって来た。
あれやろな。
先生らしき人が現れ、立て看板を立てる。
「ノウェリウム学園の生徒の皆さん、こちらです」
明るく元気に声を出す先生。
出発の時間やな。
「来ましたね。頑張ってきてください」
「よし、じゃあ帰りまっか」
「いや、学校行くんですよ」
「もう、ちゃんとなんやねんって突っ込んでくれな」
「はははそうですね。では、ナーリア様行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってくる」
ルスヴァフさんに背を向け、馬車に歩く。
既に生徒らしき子供の列が出来ていた。
後ろに付くか、割り込むか、迷うまでもなく、当然並ぶんやけど。
日本人やしな。
まあ、今はちゃうねんけど。
そんなこと考えてたら、俺の前の人も終わったらしい。
綺麗な先生やな。
胸は・・・置いといて。
「こんにちは。私はノウェリウム学園教師のクリスハ・ミッテハムよ。よろしくね。お名前を教えてくれる?」
「はい、ナーリア・フェングラーです。よろしくお願いします」
えっと、と言いながら名簿らしき紙を見る先生。
こういうのってエロく見えるもんじゃ無いん?
全然エロくねえ。
いやどうでもええわ、そんなこと。
名簿に丸か何かをつけた先生は他の人に合図をして言った。
「よし、じゃああの獣人の先生のところの馬車に乗ってね」
「はい、分かりました」
こちらに手を振る獣人の男。
下半身が動物?
って馬?ケンタウロスやんけ。
ホンマもんおったんや。
ってあのズボン特注なんかな。
でやろ。
「フェングラーさんだったかな、ここに乗ってくれ」
「はーい。よろしくお願いします。えっと……」
「あ、俺はシルバーニ・ホーパーレだ。よろしくな」
ペコリと頭を下げ、馬車に乗り込んだ。
馬車内には三人。
元気そうな双子?の兄弟とこっちも元気そうな女の子が話していた。
何ともうるさそうな馬車である。
「私、マルチダ・ヘイズ。よろしくね。貴方は?」
「私はナーリア・フェングラーと言います。よろしくお願いします」
「俺はフレッド、フレッド・アモディオ。こいつは双子の弟のシャモン。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
俺、めっちゃ礼儀正しい奴になってるけどええんかな。
ま、えっか。
――
馬車にまた、一人乗り込んで来る。
緊張してんのかな。
「私、マルチダ・ヘイズ。よろしくね。貴方は?」
「わわわたたたしししはは」
「ちょ、落ち着けって」
さっきは喋らへんかった弟の方が口を開く。
逆効果な気がするけど、一旦放置。
「はははははいいいいいいい」
過呼吸にもなっている少女。
あかんわこれは、収拾がつかんくなってきた。
傍観の姿勢を貫くつもりやったんやけどな。
ちょい加勢したるか。
「とりあえず、ここ座ってや」
隣を叩きながら、少し大きめに声を出す。
手を引き掛けて止まる。
女の子の手触ってええんかな。
いや、大丈夫、大丈夫。
手を引いて、なんとか座らせる。
口を挟みかけた兄弟に睨みを効かせ、黙らせる。
「はい、深呼吸して、落ち着いて」
「はははいいいいい」
「はい、スーハー、スーハー、スーハー」
「ススハハー、スーハー、スーハー」
「落ち着いた?」
「は、は、はい、ありがとう、ございます」
「ゆっくりでええから自己紹介して」
「は、はい。ワタシはタムシン、タムシン・フェングラーです」
??!!
フ、フ、フェングラー?
姉妹?
隠し子?
瞼が勝手に何度も何度も上下する。
兄弟も、マルチダさんも、口をパクパクと餌を与えられた魚みたいに動かす。
「フ、フェングラー?」
「は、はい。ななににかか、ありりりましたか?」
「私、ナーリア・フェングラー」
タムシンの口唇も連動するように揺れる。
多分父さんの兄弟の子供つまり従姉妹なんかな?
まあ、貴族らしいしそんなもんちゃそんなもんなんやろな。
いやでも、こんなとこで会う確率ある?
なんか仕組まれてるやろ。
考えても無駄やねんけど。
「従姉妹なんやろな」
「そうみたいですね」
ちょっとした会話やけど、落ち着くには丁度良かったんかな。
落ち着いて話すタムシン。
――
自己紹介も終わり、静まった馬車のドアがノックされる。
さっきのケンタウロス、名前はえっと・・・シルバーニさんやったけ?が顔を覗かせる。
「俺がこの馬車の担当教師な。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
「「よろしくっす」」
「よろしくお願いします」
軽い兄弟と、普通の俺、マルチダさん。
そしてか弱い声で言うタムシン。
意外と息は合ってたな。
「そうしたら、もうすぐ出発するから、それまで俺もここにいていいか?それとも、皆んなで話してるか?」
仕事ないんか?こいつ。
どうでもええか。
司会進行が居らんし、丁度ええか。
喋れる人おったほうが楽やし。
皆んな同意したらしく、誰一人として文句は言わなかった。
ケンタウロスであるものの、身長は精々190cmぐらいのシルバーニ先生も馬車の中へ入り、座る。
もちろん椅子ではなく床に足を折って。
座ったシルバーニ先生の口が開くのを待つ。
口腔に風が通った瞬間、別の先生らしき男が馬車に乗り込んできた。
「もう、シルバーニ先生何やってるんですか。出発しますから早く準備を」
「そんなこと言わずに……。すいませんでした」
顔を見ると同時に声が小さくなった先生。
なんか偉い人なんかな?この男。
男と共に出て行った。
なんかめっちゃ兄弟とマルチダさんが目を輝かせてその後ろ姿を捉えてるけど、そんな有名な人なん?
俺は全く聞いたことないんやけど。
ラグナリア民にとっては憧憬の対象なんか?
まあ、どうでもええか。
憧れ・・・。
目標・・・。
何にすっかな。
学校、入学、一年生。
一年生になったら、一年生になったら、友達100人できるかな。
頭の中で曲は流れても、こんなん実現するわけないしな。
目標「友達100人」余りにも暗愚なだけやな。
よっ友100人ならワンチャン?
いや、意味ないか。
何がええんやろ。
学校って何のために行くんやろ。
学力向上?社会性?なんなんやろな。
夢、夢、目標。
じゃあこうしよ。
目標「夢を見つける」
テキトーにも見えんくないけど、学識とか社会性とかそんなとって付けたようなもんじゃなく、この二回目の人生全体の「夢」は「夢を追い続けること」や。
それを、その追い求めたい「夢」その一つ目を見つけること。
これだけで、価値のある十年になるやろ。
別に職業でも、大金持ちとかの曖昧なもんでもなんでもええ。
それを本気で追求出来る「夢」を見つけるんや。
――
ナーリアが決意を固めている間に、教師陣の最終会議は終わり、馬車の最終確認後、出発となっている。
馬車の幌や車輪、馬の調子。
全てを確認して、シルバーニは馬車に乗り込む。
「よし、皆んな準備はいいか。出発するぞ」
「「「「はい」」」」
「は、はい」
小さい声がズレた気がするが、気にはしない。
「じゃあお願いします」
座りながら馭者に声をかけるシルバーニ先生を見る俺は思う。
シルバーニ先生が引くんじゃないん?この馬車。
ちゃんと馬が引くんやな。
ケンタウロスじゃあかんのかな。
そんなことを考えているうちに、馬車は出発し、櫓を抜け、街の外へ出た。
ミレンデル村とは反対側。
これから約一週間を掛け、この国を縦断し、この国反対側、学園都市ノウェリウムを目指す。
途中街や村には寄ることなく走って行く。
街道をずっと通って行くらしい。
――
会話は続く。
とは言っても4歳にも満たない子供にはそんなビッグニュースを持っている者はいない。
自分の普段の生活がどうのとかそんな話だけである。
「私は家が宿屋だから、毎日掃除とかの仕事の手伝いをさせられたりしてるわ」
「大変やな」
「でも冒険者のみんなの話は面白いのよ」
「例えば?」
「例えば、えっと数百メートルある大蛇と戦ったとか、変な森に入ったら木や川、岩が襲って来たとかね」
「なんだそれ!ヤバっ」
流石に子供騙しやろ。
数十なら異世界やし、まだ分からんくないけど、数百て。
そんな嘘ぐらい分かれよ、子供でも。
一応話は合わせておいた。
「じゃあ、アモディオ兄弟はどうなの?」
「俺らは冒険者の子供なんだ。おとうもおかあも冒険者で、おかあは俺らを産んでそのまま辞めちゃったらしいけど、おとうは現役なんだ」
「凄腕とは言えないけど、中堅ぐらいのやりてなんだぜ。子供なせいで冒険には連れて行ってくれないから、いつも街を走り回ったりして鍛えてんだぜ。どんな魔物も俺たちにかかればイチコロだぜ」
「そういう慢心は良くないぞ。子供は魔物なんかと戦っちゃダメだ。そういうのは大人の仕事だ」
「「分かってるっすよ」」
俺、魔物殺したことすらあるけどな。
まぁ緊急事態で偶々俺が狙われてそうなっただけで、普段からしたらあかんってことやろな。
そこまで考えて喋ってんのかは知らんけど。
「父親が冒険者ってええな」
「そうだろ。かっこいいんだぜ」
「でも、おとお家に全然居ないじゃん」
小さく独語を洩らすシャモン。
さっき「分かってるっすよ」とか調子良く言ってたやつがこれなんかよ。
この世界の子供弱いんか強いんか分からんな。
精神面はやっぱり子供はどこでも変わらんもんなんかね。
まぁ親は掌中の珠になるんやな。
泣くことすら出来ひんかった俺は何やったんやろ。
はぁ。
悔恨しててもしゃあないな。
「ナーリアは?」
「私はミレンデル村って言う村の村長の子供」
「そうなんだね。どんなところなの?ミレンデル村って」
「のびのびとした雰囲気の田舎やな」
「あそこはいいぞ。時間がゆっくり流れてるような感じがするんだ。特に秋頃は紅葉もあるし、ススキも揺れてるし風景が本当にいいぞ」
「紅葉ってなんすか?」
「紅葉ってのは緑の葉っぱが秋に黄色や赤になることだ。とても綺麗なんだ。いつか見てみればいいぞ」
「「「へー」」」
紅葉ぐらいちょっと街の外出ればどこでも見れるくね?
現代日本と違ってすぐそこに大自然が広がってんねやし。
まぁ俺が住んでたん奈良の田舎と京都の街で、ちょっと走れば山とか琵琶湖とかやったけど。
車で走んのはちゃうかもしれんけど、ここでは歩いても1時間あれば余裕で大自然の中やろ。
針葉樹とか、常緑広葉樹林しかないんか?
見たところで広葉樹かどうかぐらいしか分からんな。
そうこう話している間にも馬車は進み続ける。
大きめの湖を迂回し、川を渡って行くのだが、その前に昼飯だー。
湖の汀に作られた広場に馬車を固める。
魔物がいないことを確認したのか、周辺を確認した教師が生徒たちを降ろす。
教師らは昼メシの用意を、馭者が馬を湖に引いて行く。
You can take a horse to the water, but you can't make him drink.(馬を水辺に連れて行けても、水を飲ますことはできない。)
とは言うが、普通に馬は水鏡に自らを写し喉を潤す。
まぁそらそうやんな。
飲むよな普通。
水鳥が飛んできたり、遠くで何かの鳴き声が聞こえたり、本当に大自然の中にいるのが分かる。
上を向いても、端に映る山々。
そして、いつの間にか晴れ渡った空。
雨降らんくて良かったわ。
冷たい湖に手をつけてキャッキャする子供。
それを冷笑する今どき過ぎる子供。
それをさらに俯瞰している俺。
俺やばいやつやな。
子供、演じな。
今更か。
先生たちはせっせこ料理を作る。
火魔法で火を起こし、焼くなりなんなりして、料理する。
昼食はサンドイッチみたいな、軽いものだった。
それぞれの馬車で担当の先生から貰う。
俺たちはみんなで地面に座り、話を続けながら食べた。
すぐに出発とはいかないらしい。
既に距離で言うと4分の1を来ているらしいが、ここからはずっと上り坂が続くらしく、馬の疲労を考えると、ここでちゃんと休んだ方がええらしい。
それもそのはず、ノウェリウムは山にある。
この大陸の中央に聳える世界最大の山嶺マグトラス山脈の中腹にあるんやって。
やっぱり写真で見てみてえ。
目標「夢を見つける。(学校)」
「良妹賢姉」




