第十一話 「到着」
鐘が鳴り、昼を告げる。
実は早めの昼食をとってたらしい。
ここでは鐘が三時間ごとつまり、朝六時、九時、正午・・・の六回鳴る。
子夜や三時には迷惑なので鳴らない。
五月蝿いよなどう考えても。
そんな真夜中になる必要もないやろうし。
街灯もあるとは言え、只の火であってLEDじゃないからな。
夜なったらだいぶ暗いんちゃうかな。
知らんけど。
「お、もうこんな時間か」
「どうしたんですか?先生」
「次の鐘が鳴る頃にまたさっきの広場に集合するんだ」
「なるほど」
「皆んな、行きたいところあるか?例えば、武器屋とか、えーっと…」
「商店街に行きましょう」
搾り出したようにそう言うマルチダちゃん。
特に反対意見が出る訳でもないので、そのまま歩いて行く。
ガラス?のショーウィンドウに飾られた服。
子供用から大人用まで様々な服などが並ぶ。
道路を挟めば、いろんな店がずらっと並んでいる。
もちろんこの服屋の両列にも。
その後も細工店や、道具屋など色んな場所を回った。
――
馬車を降りた広場へと帰ってきた。
この数時間の目的は何やったんやろか。
街に慣れるとかそんな感じか。
意外と考えてくれてんねんな。
知らんけど。
まぁ10年暮らすねんからそれぐらいしてもらわな、困るかもしれんねんけど。
いや、逆か?
困るんなんて最初だけやからどうでもええんか?
何事も最初が肝心やもんな。
なんかちょっとちゃうな。
何がか全く検討もつかへんけど。
また馬車に乗って移動するらしい。
学園内に移動して、寮の説明やらを受けて今日からもう寮生活の始まりやねんて。
学園校舎と寮はこの広場から見て、二段ほど上の層にある。
山を切り拓いたこの都市は幾つかの広場で出来ている。
上と言っても、直上ではなく斜め上にしかならない。
トンネルや絶壁に添えられた道路を通ってしか行からへんねやって。
二段とは言ってもここから上に20mぐらいかな。
トンネルを馬車で昇っていく。
トンネル内はランタンで照らされ、意外と暗くはない。
茶色かったはずの立髪を黄金色に揺らしながら歩く馬。
赫奕の立髪が、視界の端に映る俺の髪と重なって見えた。
何となく自分の髪を触る。
邪魔やからと短くショートカットに切り揃えた髪。
耳元にかかる一房を摘みサラサラと解いた。
――
隧道の眩耀を感じながら外へ出る準備をする。
外には一面に学校校舎が広がる。
この層は殆どが学園なんやと。
校舎も道路も夕日で紫紅に染まる。
外で軽い説明を受けた後、女性の先生に連れられて女子寮に入った。
抵抗が若干あるが、意外と大したことはない。
慣れてきたんかもな。
女であることに。
もうすぐ3年が経つねんもんな。
そらそうなんかもしれんな。
階段を一つ上がり、先生の後ろをついて行く。
マルチダちゃんの部屋に先に着き、また明日と言って部屋に入るのを見届ける。
食堂でご飯じゃ無かったっけ?
と思いながらも、挨拶をして別れた。
そしてまた歩いて行く。
隣に知らない人が入り、その隣にも入った。
角部屋ともう一つが残っている。
先生の後ろを追うのは後二人。
俺とタムシン。
隣同士になるってことか。
「手前がタムシンさん、奥がナーリアさんね」
と言い残し、先生は帰って行った。
俺が角部屋になったらしい。
「また後でやんな?」
「そうですよね。晩御飯は食堂らしいですし」
「やっぱマルチダちゃん間違えてたよな」
「はい。ではまた後でです」
「はーい」
そう会話を交わし、怯えながら部屋に入って行くタムシンを見届ける。
大丈夫かな。
まあ何も手出しはせんねんけど。
これぐらいは出来なあかんよな。
人見知りはしてもええかけど、やるときはやらなあかんよな。
そんなことどうでもええねんけどな。
俺にとっては。
逡巡して行く頭を振り、ドアの前に立つ。
右手を掛け、開けようとしたが、鍵がかかっていて開かへんかった。
うん、そらそうよな。
この世界は画期的なのだ。
インターホンなんでもんはないけど、押したらベルが鳴るようになったボタンが付いてて、只のノックよりも来客が伝わりやすい。
というわけで、ドアを叩くのではなくそのボタンを押した。
「はいよー。どちら様ですかー」
「えっと、これから入学する新入生のナーリアと言います」
「あーはいはい。入学生の子ね。とりあえず入って」
その促しに応じ、開けられたドアから部屋に入って行く。
なんかデカいハンマーみたいなん立ってた気がするけど、見いひんかったことにしよ。
怖い怖い。
筋トレでもしてたのか、黒いシートが床に敷いてあるし、先輩も汗だく。
でかいスポブラを揺らし、ベットに座った。
「改めて、新入生のナーリア・フェングラーと言います。よろしくお願い致します」
「おう、よろしくな。アタシはセルフィ・パケトナム。次9年生になる」
「パケトナム先輩、よろしくお願い致します」
「セルフィでいいぞ。楽だろ」
「え、あ、じゃあセルフィ先輩で良いですか?」
「おう」
ザ・先輩って感じの人やな。
良かった、変な人じゃなくて。
にしても引き締まったええ体やな。
シックスパックが見えるし。
スポーツ女子の代名詞って身体。
何やってんねやろ。
やっぱあのハンマー振り回すんかな。
「とりあえず座ったらどうだ。気づかなくてすまんな。そこの椅子を使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「そんな畏まらんくていいぞ。ここはナーリアの家でもあるんだから。別に何も言わねえよ。というか余所余所しいから辞めてくれよ」
「いや、でも。・・・分かりました」
「ベッドは上を使ってくれ。すまんな」
「いえいえ。筋トレされてたんですよね。もうええんですか?」
「暇つぶししてたんだ。汗臭いよなアタシ。すまんな、気づかなくて。シャワー浴びてくる」
「そんなことないですよ」
この寮はスゴい。
貧乏な家なら、シャワーなんかないと言うのに、寮には全部屋シャワー付きなのだ。
もちのろんでトイレもある。
シャワーは温水も出るし、全部水洗なのだ。
神やんな、マジで。
俺の髪よりも濃いゴールドをしたポニーテールを揺らして去って行く。
あの髪の方が馭馬の立髪に似てんな。
色とか質感とか。
まあ触ったわけじゃないから質感なんか分からへんねんけど。
ベッドの上に座り、持ち物を広げる。
大した量はない。
この一週間で使った着替えと下着で七割を占める。
洗濯しなあかんな。
その辺は後で聞けばええっか。
そういや、次9年生って言ってたな。
1年の相部屋って10年になるんちゃうかったっけ。
なんか理由あんのかな。
そう考えている内にシャワーの音が止まった。
「ひ、ひ、ひゃー!!」
!!!!
何何何何?
先輩の声やんな?
何が起こったんや?
「どうしたんですかー」
「ゴ、ゴ、蜚蠊―。う、動くなよ、動くなよ」
ものすごい覇気でそう言い切る先輩。
その声には其奴への震懼が詰まっている。
「大丈夫ですかー」
「だ、大丈夫だ、問題ないいいー」
こんな感じで聞きたくなかったわ。
あの台詞。
「入りますよー」
完全に臨戦体制のバスタオルだけを巻いたセルフィ先輩。
目のやり場には困るが、それは気にしない。
来たはいいもののどうしよかな。
殺すか、逃すか。
この部屋にはとりあえず置いとかれへんけど。
走り回られても面倒いしな、殺すか。
魔法でなんか作るか?
氷の塊とか。
いやでも・・・。
そんなんで潰したら汚れるしな。
セルフィ先輩の睨みが効いているのか全く動かない其奴。
小声で先輩に言う。
「セルフィ先輩、ちょっと下がって」
「いや、アタ、アタシにま、任せろ。可憐な少女にこんな奴の相手なんてさせられない。ア、アタシが・・・」
「大丈夫ですよ、任せてください。私、失敗しないので」
先輩の足が少し下がる。
その動きに反応し、停止を止める其奴。
ドアを即座に閉め、逃げ道を塞ぐ。
一筋の闇を闇雲に探し続けるようにカサカサとその黒の物体が動き続ける。
隙間を全て潰すように魔法でバリケードの木を設置する。
詠唱なんてしてはいられない。
右へ、左へ、往反して何とか逃げようと試みているのが解る。
やらせるわけないやろが。
土のドーム、窒息させれば俺の勝ち。
なるべく小さく且つ、密閉しなあかん。
尾角を少し揺らしてそこで止まった。
ここや!
(ダートウォール!)
心の中で叫ぶ。
力を込め、土を生成する。
蜚蠊を中心に生成されてゆく土の半球。
ドームの蓋が閉まり切るその瞬間、黒い残像が飛び出す。
俺の方に飛来してくるその物体。
見開いた目でそれを追う。
足を遠慮なく振り抜いた。
一瞬足にしがみついたその小さな黒点は宙空に放り出される。
ふざけるなよ。
俺の足を。
そんな汚らしい体で触りやがって。
落下点を目測。
「汝の求るところに滄溟、厚土の運動を与へよ。クレイ・トラップ(泥罠)!!」
続いて無詠唱によって泥のドームを生み出し、窒息に追いやった。
あ、結局汚れてもうたやんけ。
床もプラスで俺の足も。
なんでこっちに飛んでくんねん。
反対に飛べや。
ゴミムシが。
ふざけやがって。
塵取りを取ってきてもらい、生み出した砂と木を片付けた。
愚痴愚痴と足に着地しようとした奴への文句を垂れながら、足をゴシゴシ洗っている俺。
「だ、大丈夫か?」
「え、あ、はい。大丈夫ですよ」
先輩がそんな俺を異様に思ったのか話しかけてくる。
「やっぱりアタシは弱い!こうして後輩、それもさっきここへ来たばかりのナーリアに助けてもらうなんて。アタシのせいでナーリアが傷付けられてしまった。本当にすまない」
「嫌いなもんや苦手なもんぐらい誰にでもありまっせ。それに傷付けられてもないんで、謝らんくてええですよ」
「すまんな。頼りない先輩で」
「いえいえ、後輩だとしても頼って下さい」
胸を叩きながら言う。
こんなとこで謙遜とかしてもしゃあないしな。
褒められる分には悪い気はせんし。
この寮でのルールを教えてもらわなあかんな。
「セルフィ先輩」
「ん?どうしたんだ?」
「寮の知っといた方がええルールとかってありますか?」
『んー、そうだな』と前置きを置き、説明してくれた。
と言っても大したルールは無い。
6年生までは6の鐘が鳴ればできるだけ早く寮に帰る。
基本はこれだけ後は、常識的なもんばっかで普通にしてれば大丈夫らしい。
ホンマかは知らん。
その後も部屋の使い方や俺の収納、その他諸々を教えてもらいながら色々と話をした。
「食堂はどうなんですか?」
「そろそろ時間だし、食べながら話そう」
「分かりました」
「後、30分ぐらいだな」
そういえばなんか聞こうと思ってたんやっけ。
何やったっけな。
・・・、・・・。
分からん。
まあそんな大したことじゃ無いってことか。
大切なことなら覚えとるやろうし。
思い出したらでええか。
てか、30分って長くね。
本とかあれば時間潰せんのに。
図書館とかもあるんやったかな。
分かんね。
――
「おい、起きろ、ナーリア」
「ん、あー。寝てたか」
「おはよう」
「はい、おはようございます」
30分待つ間、暇やったししょうがないか。
「時間だ。食堂に行こう」
「はい!」
またあの巨大ハンマーの隣を通って部屋を出た。
ちゃんと鍵を閉めたことを確認した先輩と共に階段を降り、食堂へと歩いて行く。
ちょっと頼りない感じもするけど、こういうとこはちゃんとしてんねんな。
9年も暮らしてたら、そらそうか。




