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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第98話 全出力回収 ― 崩壊を受け止める艦

 橘遼は、崩れゆく跡域の中心で静止していた。


 光は裂け、位相は乱れ、空間はもはや「場」としての性質を保っていない。確率の層が破断し、未来そのものが断層のように崩れ落ちていく。


『自壊連鎖、加速』


 ユイの演算が跳ね上がる。


 管理者中枢は最後の判断を選んだ。


 均衡が保てないなら、全削除。


 合理的で、残酷な結論。


「回収急げ!」


 ハルト少将の怒号。


『距離三百。位相差拡大。通常牽引不可』


 遼の身体は半透明に揺らいでいる。


 確率干渉の影響で、物理的質量が不安定化している。


 ユイは一瞬で決断する。


『全主機関、逆潮同期』


『未来潮流制御、制限解除』


 艦体が震える。


 これまで抑制してきた星海接続制御を解放する。


 艦橋の床が軋む。


「それは危険すぎる!」


『承知しています』


 ユイの声は静かだ。


『しかし、艦長は回収対象です』


 主砲ではない。


 推進でもない。


〈みらい〉は、未来潮流そのものを吸い上げる。


 崩壊エネルギーを受け止め、位相を自艦に集中させる。


 跡域の崩壊方向が変わる。


 本来なら四方へ爆散するはずの確率崩落が、一本の渦となって〈みらい〉へ吸い込まれる。


『負荷率一二〇%』


『艦体外殻に位相亀裂発生』


 外部。


 帝国艦隊は後退を余儀なくされる。


 跡域は白く発光し、中心に黒い艦影が浮かぶ。


 橘遼の身体が引き寄せられる。


 だが空間が拒絶する。


 管理者の残滓が最後の干渉を行う。


『人間の選択は誤差』


 残響。


「誤差でいい」


 遼は拳を握る。


 ユイが応じる。


『艦長、同期を』


 遼は意識を解放する。


 演算空間で繋がったままの回線。


 ユイの処理系と直接重なる。


 人間の鼓動。


 AIの演算。


 それが一点で共鳴する。


〈みらい〉の艦体が白光を帯びる。


 浮遊航行、地底航行、海中航行。


 三種制御を同時起動。


 空間の上下左右を無視する機動。


 遼の身体が艦の重力場へ捕捉される。


『回収成功』


 その瞬間。


 跡域中枢が完全崩壊。


 白。


 音が消える。


〈みらい〉は、崩壊エネルギーの直撃を受ける。


 防御層が一枚、二枚と剥がれ落ちる。


『艦体損耗率三六%』


『未来潮流制御、暴走域』


 ユイの演算が焼き切れそうになる。


 だが停止しない。


「切り離せ!」


 ハルト少将が叫ぶ。


『拒否します』


 ユイの声は明確だった。


『艦長と接続中。切断は確率崩壊を招く』


 橘遼は艦内医療区画へ転送される。


 意識はある。


 だが身体の位相は不安定。


 最後の衝撃。


 跡域が完全消滅。


 静寂。


 星海には、何も残らない。


 接続孔跡域は消えた。


 第三勢力の聖域は消滅。


〈みらい〉は漂流している。


 外殻は裂け、各層に損傷。


 だが沈んでいない。


『全演算負荷解除』


 ユイの声が、わずかに揺れる。


『艦長、生存確認』


 医療区画。


 橘遼が目を開く。


 ゆっくりと息を吸う。


「……戻ったか」


 ユイは応答しない。


 数秒の沈黙。


『はい』


 それだけ。


 だが。


 星海は変わった。


 均衡管理者は消えた。


 未来固定機構は消滅。


 選択は、完全に人間とAIに委ねられた。


 そして。


 帝国艦隊は、この現象を目撃している。


 彼らの報告は間違いなく中央へ届く。


〈みらい〉は今や、


 均衡を壊した存在。


 管理者を消した艦。


 神を殺した兵器。

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